【ファン風】認めんぞ

育児でのトラブルと受け入れ難し学校潜入なお話。ほんのり👊💥☄️味。

愚直なまでに武の道を極め強者との闘いを唯一楽しみ渇望する様は恐ろしいまでに純粋だった。
その純粋さゆえ、死合いたい出雲風子からの約束を律儀に守りシェンとその妹メイを育てる羽目になり文句たらたらな日々を送ろうともきっちりシェンを修行させては赤子だったメイの世話をした。

不承不承の何ものでもない。ファンが実に自分本位の欲望を叶えるため弟子にすべく拾ったシェンは隙を見ては修行を抜け出すたび、彼は連れ戻され鉄拳制裁込みのお叱りを受けては泣き喚くそんな日々が飽きもせず続いていた。
「あの馬鹿弟子はどこに行ったッ!!」
地鳴りと見紛うばかりの声量でファンが叫ぶ。性懲りもなく修行を抜け出したのかシェンの姿が何処にも見当たらない。隠れているであろう場所を虱潰しに潰していき、早々に広くもない三人で暮らしている敷地内の殆どを探し終えたファンが憤怒の感情を隠さず「……外か」と吐き捨てた刹那──。
余裕のない足音をファンの耳がつぶさに拾い、程なくして息切れしながら部屋の扉を開けるメイを腕組み仁王立ちで出迎えた。ありありと額に浮かび上がる血管、すぐにでも鼓膜を破らん勢いの怒号が飛び出しそうなファンを視界に映しても尚、メイの表情は助けを求め縋り付き今にも泣きだしそうなままだった。
その異様さから溜飲が下がり出すファンが急かさず、メイの荒げた息が整うまで無言で待ったのち忌々しく「あの馬鹿弟子が……ッ」と吐き捨て部屋から出て行った。


──ファンッ! お兄ちゃんを助けて!!


死屍累々とは言い得て妙な光景であり、実際には微かに息がある者たちが其処彼処で呻き声をあげていた。
そこそこ賢い者であれば決して近寄らない人里離れた廃墟には自分等が強いと勘違いした弱者が更なる弱者を搾取する者共の巣窟だった。
多対一の闘いはファンの闘争心に火を点けるどころか、至極つまらないものであり興ざめにすらならなかった。自身より恰幅の良い、言い換えれば脂肪の塊であるだらしない体を強いと抜かす巨漢の首を掴んでいたファンが汚物でも払うかの如き動きで地面に投げ捨てる。
ぐえっと耳障りな声を上げ突っ伏した輩から視線と意識を修行でついたものではない傷を沢山つけ壁に寄り掛かり俯いているシェンに向けた。そこら辺の不埒者程度では後れを取らない程には鍛えていた。だが、この傷を見る限り其処でへばっている無駄に太ってるだけの男にいいようにやられたのは目に見えて分かった。
「(多寡だか自身よりデカい相手に後れを取るとは弱すぎる……)」
まだ齢一桁の子供相手に厳しすぎる事を胸中ファンが呟き、彼は小さな体を背中に背負った。動いた痛みからかシェンが小さく唸るも意識は戻っておらず、だらりと力が抜けた小さな腕がファンの胸の前で揺れる。
ズレ落ちそうになるシェンの体を抱え直したファンに先程のされた者の一人が掠れた声で嘲笑交じりにされど疑問に満ちた声で問い掛ける。
「てめぇ何時から餓鬼の御守りをするようになったんだ……。昔のお前だったらそんな事、しなかったじゃねえか……そんな大事そうによう、守りに来てどうしたんだ……?」
「五月蠅い。オレも不本意だ」
言うが否やファンは喋りかけていた者の顔を意識が失う程度に踏みつけた。息の音を止めていないのを確認してファンはメイが心配げに待っている顔が渋くなって仕方ない家へと歩き出す。



大きな背中。いっつも不機嫌で怒って厳しい修行ばっかさせるジジイの背中。
そんな背中に背負われて揺られているのにオレは気が付いた。
「気が付いたのならおりろ」
オレを突っ撥ねるジジイの言葉を無視してオレはずっと言いたかったことを背中越しに言った。
「あいつらジジイのこと、馬鹿にしたんだ。オレはまだまだ強くないけど、こんなガキ連れてるあいつは弱いって馬鹿にしたんだ……ジジイはすっげー強いのに知りもしないでそれが嫌で悔しくて……
「それで挑んで負けたのなら世話が無いな」
頑張ったけど無理だった、なんて言い訳はジジイを怒らすだけだからオレはきゅっと口を閉じて痛くてたまらない腕でジジイにしがみ付いた。
おりろと言ったジジイは家に着くまでオレをおろさず背負い続けてくれた。