【東←モブガキ】カブトムシ味の夏

モブガキ(2種類)が🍮さんと一緒にカブトムシ取りするお話。夢小説っぽさがありますご注意。


【???】



薫さんと別れた後、俺はトラップの液体を補充するためにまた山の中に入っていた。山を下った時には日が暮れかかっていたので急いで回る。
暗くなったらトラップを見つけるのも、山をもう一度下るのも大変になる。
でも、それ以上にじっちゃんから口酸っぱく言われたあの事が頭を過ぎって仕方ない。

日が暮れた山に入ってはいけない。日が暮れる前に帰らなければならない。
もし、日が暮れた山に入ってしまったら。もし、日が暮れる前に帰れなかったら。
暗い山の夜闇に体と魂を喰われてしまい、もう二度と家には帰ってこれなくなる。

単純に日が暮れた山に入ったら危ない、っていう意味だと思う。下手に怖がらせるのもその所為だってその時は思っていた。

「まだ一個目か」

新しく液体を補充したトラップから手を離して一息。まだまだ沢山あるトラップにかなり辟易するけど、また来るかもしれないという淡い期待が体を動かした。
突如、後方からガササっと何かが動く音がして振り返った。日が暮れ始めた山は切なく鳴くヒグラシの声しか聞こえない。言いようのない恐怖感に身震いしたが、それを誤魔化したくてわざと大きな声で言った。

「よし!次!」

気合を入れてトラップの液体を入れた焼酎ボトルを強く握りしめる、筈だった。
握っていた焼酎ボトルは手から抜け落ち、少し傾斜になっている山の斜面を転がっていく。
拾わなくちゃ。そう思い足を前に出した、のにその場にうつ伏せで倒れ込んだ。
うごうごと足を動かしも全く前に進めない。

「──ッ」

冷たくとも熱くともない感触がじわりじわり頭の方へ這い上がってくる感覚に心が竦んでいく。
見たくない、見たいはずもない。でも、何で自分の体が動かないのか確かめたくて首を捻り見てしまった。
黒い靄が俺の体を飲み込もうと蠢いていた。
喉から出た恐怖の感情は声にならない悲鳴になり、体を滅茶苦茶に暴れさせ何とか逃げようとするも黒い靄は体を覆い隠していき。黒い靄が体を覆う面積が多くなるにつれ、意識が黒く塗りつぶされていく。

「いやだ!いやだ、いやだいやだいやだ!!誰か、誰か助けてー!じっちゃん!ばあちゃん!お母さん!お父さん!────!!!!」

最後に叫んだ名前は誰のものだったか。自分は誰なのか。
小さくなった黒い靄の体はとても眠くて仕方なくて。その場で蹲り寝てしまった。














「あのー東雲さんの体、最近黒っぽい靄が纏わりついているように見えるんですけど……
「これ?気にすんな。ただのマンションに入居したいけど出来ないやつってだけだから」
「ん?ん~?」
「来年の夏、またカブトムシ捕りに行くかっ」