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豆炭々炬燵
7223文字
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ゆめにっき
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【セコ窓】卑怯者
『軽蔑されようが構わない』
なりふり構わず夢の世界に留め続けさせ最悪の事態にならぬよう躍起になるセマダと策略にはまってしまう窓付きの話。
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何の前触れもなく宇宙船を訪れる窓付きは新しい暇つぶしを見つけたらしく、黒い生物の隣に立ち奇妙な夢の世界で起きた出来事を話し掛けた。変わらず黒い生物の言葉は理解不能なため一方通行のままだが、それでも黒い生物の隣で喋り続けた。椅子にも座らずピアノの前に立つ二人。
はじめて宇宙船を訪れた時より希薄ながらも明るい表情をするようになった窓付きを黒い生物は焦点の合わない目でじっと見下ろす。
「で、こことは違う白い場所で」
窓付きが夢の世界の出来事を話していると、往々にして黒い手が彼女の頭を撫で始める。
その手つきは懸命に話す子供が微笑ましくて撫でる親の慈悲深さを持っていた。
そして満更ではないが少々気恥ずかしくなってしまう窓付きは徐に黒い生物の腰付近の黒い部分を引っ張るのがお約束となっている。人間が着る服に例えるなら裾を引っ張られた黒い生物が腰を屈め膝をつき窓付きとの視線を合わせるのもお約束。
交差しない視線の高さを合わせる間、黒い生物の手が窓付きの頭から首、肩へと移動し最後は少女然とする背中に回された。
「だからそれはやめてってば」
突き放す言葉にしては柔らかい声色で窓付きが黒い生物の頭を優しく撫でた。先程の意趣返し。黒い髪を梳き撫でる手つきに黒い生物の両の瞼が下がり閉じられ、心地よいのか黒い生物の額が軽い衝撃と共に窓付きの肩口に押し付けられた。
「大人のくせに」
『Q゛TOW゛R9』
背中に回されているとは逆の黒い手が窓付きの二の腕を掴み、丁度黒い生物の長く細い足の間に入る形で引き寄せられた。
こうなってしまうと黒い生物が窓付きが離すまでまともに話が出来ない。というより、一方通行状態の話をするのは簡単だが如何せん相手との距離の近さに意識してしまい話したくても言葉が出てこなかった。
変に意識してしまう窓付きを知ってか知らずか黒い生物は彼女を中々離そうとしない。それどころかより深く窓付きを抱きしめようとする始末。
だが、窓付きの恥ずかしさが限界突破すると決まって黒い生物の腕から抜け出し顔を反らし頬を抓って夢の世界から醒めてしまっていた。このまま気まずくなって宇宙船に二度と来なくなると思いきやそうでもなく翌日には何事もなかったように窓付きは黒い生物のもとに訪れた。
極々たまに腕から抜け出そうにも抜け出せない時は包丁で刺し強引に抜け出す事があれど翌日気まずい雰囲気になることはなかった。
──もう少し
──あと、もう少しだ
ここ最近、楽しいのかな。充実しているって言いきれないけど前より楽しい。
白い宇宙船にいる黒い生き物。話は通じない。でも一緒にいるとなんだか楽しい。足取りが軽くなって心も軽くなった。宇宙船に行くまでの長い道のりだって全然苦じゃない。
「今日はどんな話をしようかな」
一方通行の道のりと同じ一方通行の会話。白い宇宙船に入り口はあっても出口はないのも何処か似ている気がする。すっかり覚えた道順に添って進めば辿り着く宇宙船。白い船内にいる背の高くて黒い生き物。窓から見える星空を眺めながらピアノの前にいつも立っていてくれる不思議な黒い生き物。目が合ったことはないけれど、顔がこっちに向けられるとちょっぴり胸がドキドキする黒い生き物。
「また来たよ」
ピアノを弾いていた手を止めて振り返る黒い生き物に胸の奥がほんわりあったかくなって思わず駆け足で近付いた。いつもと同じ出迎えてくれる黒い生き物の隣に立って話そうとしたら黒い手が目の前に差し出された。
その手のひらには小さな星がコロンと乗っていた。見覚えのある小さな小さな星はきっと食べれば甘いのだろう。光の加減で色を変える小さな星と目が合わない黒い生き物の顔を交互に見比べていれば、スッともう片方の黒い手が小さな星を摘み小さな星を乗せていた黒い手がわたしの手を取って小さな星をコロンと渡してきた。
手のひらに収まった小さな星を見てから、もう一回黒い生き物の顔を見上げた。
ゆっくり頷かれたので食べれるかどうかの疑問から目を反らして小さな星を口に含んだ。
「
……
甘い」
どこか懐かしい甘さが口いっぱいに広がる。歯にぶつかる感触と舌触りを堪能して最後は更に小さくなった星をかみ砕き飲み込んだ。
「ありがとう、美味しかった」
『C+F9TzQ』
甘くて小さな星をもらったからかな。いつもより心があったかくて胸がドキドキする。それにたくさんお話したい。話したいことがあり過ぎて止まらない。だから今回だけ恥ずかしいの我慢してお話するよ。たくさんたくさん聞いてほしいから。
──父性だろうが異性だろうが構わない
──意識させることに意味がある
普段以上に明るく楽し気に話す姿に声に脳内が痺れる。弾んだ言葉の端々から伝わる耐え難い情報。込み上がる衝動を必死に抑え込み効果が表れるのを待つ。今の彼女はとても機嫌が良いので此方が抱きしめ続けようとも話を続けてくれている。普段であれば恥ずかしさから突っぱねるところを我慢しているのは此方としても都合がいい。
『もうそろそろですかね』
「ちょっとくすぐったいってば」
首元に伝わる振動で彼女が身じろぐ。やんわり肩を押されたため二人の間に隙間を空ければやや頬を上気させはにかむ彼女の顔が見えた。きめ細やかな皮膚、血色の良い唇、長い睫毛に隠れている瞳に思わず見惚れ彼女の頬に手を添え包み込む。普段の調子であれば一発で刺殺されかねない状況は例に漏れず、彼女の顔が耳まで一気に湯だったように赤くなり戦慄く手に力を集中し始めた。
しかし、間髪入れず彼女の手に納まる手筈だった刃物は一向に具現化されない。
焦り困惑する彼女に対し湧きたつ喜びが体中を駆け巡る。
「え
…
、なんでどうして
…
?」
何かの不具合が起きたのか。くり返しチャレンジするものの彼女の手の中には何も産まれない。
わざとらしい演技で小首を傾げ白々しい言葉をかける。
『どうかされましたか?』
「どうしてエフェクトが使えないの?」
おや。此方の言葉が届いていないと見える。ならば是が非でも意識していただきましょう。
小刻みに震える両手を見下ろす彼女の視界に映るよう彼女の両手を包み込んだ。やおら此方を見上げる瞳には懇願の色が強く混じり、助けを求めるべく開いた口からは恐らく弱り切った頼りたい縋り付きたいといった言葉が紡がれるでしょう。
でも、駄目です。無理なんです。
両手で包み込んでいた彼女の両手を片手で一括りにして漸く説明しがたい異変に気付いた彼女が此方から距離を取るべく暴れ始めた。
「やだ!離してっ 離してってば!そうだめだまうでを使って
……
!? なんで使えないのッ!」
懸命に足を突っ張る彼女を力づくで引き寄せる。可哀想に抵抗したところでズルズル引っ張られついには黒い檻に捕まってしまった。
未だがむしゃらに暴れる彼女をきつくならないよう注意しつつ抱きしめる。未だ耳元で可愛らしい拒絶の言葉を言い続ける彼女の口をありもしない己が口で塞いだ。すると如何だ。彼女とキスをしてから徐々に存在していなかった唇が、歯が、舌が形を成し口が出来た。
『(嗚呼、これは願ってもない)』
不意な出来事に固まる彼女を他所に口づけを深く濃厚なものに移行させた。つるりとした歯列を舌でなぞり奥の方で縮こまる彼女の舌に絡みつき存分に狭く愛らしい口腔内を隅々まで堪能する。息苦しさで溺れそうになる彼女の口端から混ざり合った唾液が零れ顎を伝い彼女の服に染みを付けた。
くぐもった声から伝わる彼女の感情に身震いが止まらない。なんで、どうして、わからない。混乱に混乱を極める彼女のか細い喉は口端から零れる以上に溢れる唾液を忙しなく飲み下す。
コクリ、コクリとなるにつれ彼女の中にあったエフェクト達が元場所へ戻っていくのが分かる。これでいい。始めの小さな星は一番厄介な代物を一時の間封じたに過ぎない。完全に彼女の中から消すには己自身の一部を彼女の中に入れるしかなかった。
彼女の手首に付けていた枷を外した途端、此方に伸び縋り付く彼女の手の必死さが愛おしくてしかたない。
まだ完全に全てのエフェクトを戻し切っていないが、凶悪で忌々しい部類は大体戻し終えた。これで彼女がこの夢の世界から逃げるためには夢から醒める以外他ない。
これが最も厄介だ。一度頬を抓れば彼女は目を醒ましてしまう。そして恐らくこの場所には二度と立ち寄ることはない。なにせ此処には彼女が求めるエフェクトは一切ないからだ。
『しかも、こんな事をされてしまっては益々アナタは此処に来たくなくなってしまう』
息も絶え絶え。虚ろな目で此方を見詰める彼女の額に唇を押し当てた。上手く働かない頭で考えようとする彼女の健気なこと。薄っすら涙を溜めている目元をそっと指先で拭い羽のように軽い彼女の体を抱きかかえ寝室に向かって歩き出す。
揺られる感覚が不安らしくキュッと服を掴んだまま離さない彼女の手を優しく解きベッドに腰かけさせた。
『でも、そんなこと関係ないのですよ』
膝をつき彼女との視線を合わせ震えが止まらない彼女の左手を恭しく取り手の甲に吐息を吹きかけながら語る。
『既に此処での主導権はアナタにはありません。薄々気付いていたでしょう?此の場所は他とは違う別なのだと』
触れるか触れないかの感覚で唇を這わせれば彼女の肩が跳ね上がる。
『もう二度と現実の世界に帰したりはしない』
長い事合わせようとしていなかった焦点を合わせ見た彼女はすっかり怯えているものの、目が合った事実が嬉しいのか何処か嬉しそうに見えた。
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