【セコ窓】卑怯者

『軽蔑されようが構わない』
なりふり構わず夢の世界に留め続けさせ最悪の事態にならぬよう躍起になるセマダと策略にはまってしまう窓付きの話。

夢の世界に来たばかりの頃には到底いけない見付からない。夢の中を歩き回って集めたエフェクトが足りなければ門前払い。長くて面倒な道のりの最後には何が待ち構えているのか、はたまた何も待っていないのだろうか。
あてもなく歩き回ったお陰で大体の場所は調べつくしてしまった。明確な目的もなくただ夢の中を彷徨い続けた先にいたのは一人白い空間で大きなピアノの前に立ち不思議な曲を弾き続ける謎の黒い生物だった。

『G94MQWH+W4+DEW゛R』
もう何回目だろうか。
はじめてこの黒い生物に遭遇してからというもの、どういうわけか窓付きは度々この目的地に着くまで長い道のりを要す場所に通い続けていた。無意識の内にとは考えにくい。この果てしない宇宙の海に漂う白い船に足を運ぶ理由は恐らく十中八九。
『S゛4DJDQT?』
言葉を解すものの窓付きには到底理解できない音域と言語で喋る黒い生物の他ない。
おおよそ人間が出すとは思えない摩訶不思議な声。はじめて遭遇し第一声を聞いた時から窓付きの中ではこの言葉を理解しようとする努力は宇宙の果てに捨てているため、未だに何を喋っているのか分からなければ分かろうともしていない。
努力して頑張ったところで報われず、虚しさが広がるだけならやらない方がいい。その一方で会話が成り立たないのを承知の上で黒い生物に窓付きは会いに来ていた。
もしかしたらリアクションが一番人間に近いからかもしれない。包丁を出した途端、後退る姿に言い表しがたい感情が芽生えたからかもしれない。
「ピアノ、弾いて」
『MA_Y』
単純に黒い生物が奏でるピアノの曲を聴いていたいだけなのかもしれない。
二つある椅子の一つに窓付きが腰かけたのを確認してから黒い生物は背を向け黒く細い指で鍵盤を弾き始めた。
どこか聞いたことのあるような、それでいてはじめて聞いたような不思議と心が落ち着く優しいピアノの音色。理不尽な危険、名状しがたい恐怖とは無縁のこの場所は、ずっと居続けたい気持ちを否応なしに抱かせようとする。
「──ありがとう」
それでもあっさりと椅子から立ち上がる窓付きの気配に黒い生物が振り返る。
焦点が決して合わない目がうら悲しそうに窓付きを見詰めるも、窓付きはとかく気にも留めず自身の頭を手のひらに目玉が埋め込まれた巨大な手に変えた。
……JQ3CV゛IGWHQ゛XE』
黒い生物が話している途中で別れの挨拶もせず窓付きは大きな手のひらを握りその場から音もなく消え去ってしまった。
再び一人になった黒い生物は消えてしまった窓付きの面影を追い、何かブツブツ呟きながら調律の外れた曲を無心で弾き始める。ピアノを弾いてとリクエストする少女に聴かせていたのとは全く別の、烈しく聞いているだけで不安感を誘い気が狂いそうになる旋律は黒い生物の気が収まるまで奏でられ続けた。





──今のままでは駄目だ
──もっと違う手を考えなければ