Privatter+
Font
Serif
Sans Serif
Color
Light
Dark
auto
Font size
Large
Medium
Small
Language
Japanese
English
Sign in with Google
Sign in with ID and password
Account ID
Password
Sign in
Forgot password?
Create account
豆炭々炬燵
10783文字
Public
約束のネバーランド
Clear cache
【レウエマ】二日酔い
鬼と人間が隔たりなく共に暮らしている謎時空。
1
2
3
樹木から染み出た樹液で半透明の球体の器を作り、その中に煮詰め甘みを増した花の蜜を閉じ込めた代物の売れ行きは好調だった。球体の中で揺れ動くとろみを帯びた蜜は見た目もさることながら、花の種類を変えれば味わいや風味も様変わりするため、その日の気分で飲み物を変えるように日によって多種多様の味を楽しめるのが最大の特徴だ。
兎角不備や苦情の類は出てきておらず、新しいフレーバー開発に着手しようとしていた矢先の事。
発売間近だった商品の試作品をお渡しした相手から連絡を受けた。あまりこの手の類を好まない方だとは知っていたが、如何にも新しい商品や事業展開に手を付ける際何かしらのアドバイスを戴けないものかと思い新商品の試作品や事業内容を相談しに行ってしまう。
「(今度から控えるべきか)」
『キィ』
出迎えてくれたパルウゥスの後に続き部屋に入れば随分機嫌の良さそうな彼がソファに座っていた。
傍らには試作品の蜜玉が専用のガラス瓶に詰められテーブルの上に置かれている。心なしか数が減っているような
……
。
「多忙の身だというのにわざわざ呼び出してすまないね」
「別に構いませんよ」
視線をガラス瓶からソファに座っていた方に向き直す。
「君も座り給え。今、茶を淹れよう」
如何にも落ち着かず、自分が淹れますと申し出たがあっさり却下されてしまった。
「慣れないキッチンでは何処に何があるか分からず手間取ってしまうだろう?」
かくいう私自身もあまり立ちはしないが。
そう淡々と語る声はこれから秘密めいた事を話したくて仕方ないように聞こえた。
程なくして金縁が施された白磁のティーカップとソーサーが目の前に置かれ、繊細な模様が描かれたティーポットから溶けた深い黄金色が注がれる。ふわり漂う豊かな香り。横に座った彼のカップの中にも黄金色が注がれ、るのまではある種見慣れた光景だった。ポットを置き徐にガラス瓶の蓋を開けるや蜜玉を湯気がくゆる金色の海に沈めた。小気味よい音を立て沈む蜜玉。外側の樹液が溶け、中から花の蜜が溢れだす。
それをティースプーンで軽くかき混ぜ口に運ぶ姿を不躾ながらもまじまじと見入ってしまった。
「やはり私には甘過ぎる」
「・・・はい?」
「以前エマが不思議そうに、だが、美味しそうに飲んでいた。それを見て私も飲んでみようと思った次第だ」
「では、好んで入れたわけでは
……
」
「無いね」
「そうでしたか。しかし、近々甘みの少ない商品を開発する予、」
「エマは甘いのが好きみたいでね甘くなくては意味がない」
「
……
。と、申されますと?」
「君は鬼と人でそれぞれ試してみたかい」
鬼と人。双方異なる種族であるが、鬼には鬼専用、人には人専用の物があるのは確かだ。体格が人より大柄の鬼には人サイズの服が着れないように、鬼が食べても平気な食べ物が人には受け付けないものが多々ある。
しかし、極度のアレルギーや命を脅かす毒になりうる成分は殆ど無い。此度の商品も樹液、花の蜜共々双方口にしても何ら問題ない種類のものを使用した。
「いえ。味に置いては我々鬼に好ましいものにしましたがそれ以外は特に」
「そうか」
此方を見遣るや否や瓶から一つ取り出し中の蜜を指先で転がし揺れ動く様を見詰めていた。
「詳しい理由は分かりかねるが如何やら人は”これ”を摂取すると睡魔に襲われるようだ。それが人全体に及ぶのか、年齢性別の違いからくるものなのか。何にせよ私にとってはとても些細な事に過ぎない。重要なのはエマが摂取した事により結果私の傍にいてくれる時間が増える事だ」
久方振りに見る昂る感情を抑えきれないといった想いがひしひしと伝わってくる。複眼全てが見開き裂けた口が歪み笑い、仮面から覗く目は剣呑とした輝きを放ち摘む蜜玉を舐めるように見詰める様は──。
「(捕まるのが先か逃げ切るのが先か)」
一先ず商品の自主回収はもう少し見送るのに越した事は無さそうだ。
惑い酔わせる樹液の豊潤な香りは人間の思考をとろけさせ羞恥心を霞ませた。使用すればするほど効果は強くなり記憶を曖昧の彼方へ旅立たせる。
白磁の器を両手で持ち一口すすり飲み下すエマの瞳は半分ほど瞼裏に隠れ、従順にレウウィスの膝の上にその身を預けていた。現実を夢の境を漂うエマの無防備な姿を眺めていれば、両手で持っていたティーカップを控えめに渡そうとするのでレウウィスは静かに受け取った。
「如何したんだいエマ
…
」
片手でテーブルにカップを置き、視線をエマに戻せばにんまり笑う彼女の顔がググっと距離を詰めてくる。伸ばした両手がそっと仮面にそって触れなぞり、消えそうで消えない光を灯した瞳で真っすぐ彼を翡翠の宝石に映した。僅かに開いた隙間から零れる笑い声はあどけなく何処か蠱惑的だった。
鋭い爪先で傷つけぬよう細心の注意をしつつ、ふっくらした唇を撫で頬を包み込む。
「
……
レウウィス」
酩酊状態の今ならいくらでも純潔を奪う機会がある。だが、それでは意味がない。つまらない。
自らの首元に顔を埋めさせあやすように背を擦るレウウィスはふと自身の中にある気持ちを探る。生きてこの方ここまで執拗なほど大切にしたい気持ちを抱いたことが果たしてあっただろうか。
「
…
パルウゥス」
『キゥ』
エマの首元にパルウゥスがぐりぐり顔を擦り付け、それがくすぐったいのか彼女がコロコロ笑い身じろいだ。
レウウィスの腕の中でじゃれ合う二人。自身の中にある感情を整理している最中にパルウゥスがエマの頬に小さな口を押し付け、彼女も彼にお返しにと小さな頬に唇を押し当てた。
「二人ともずるいぞ」
和気あいあいとした二人から疎外感を感じるレウウィスにエマとパルウゥスが目を合わせ揃ってにんまり笑った。特にエマは両手を伸ばしせがむようにレウウィスを呼ぶも「それはまだ早い」そっと瞼に軽い口付けを落とすのだった。
1
2
3
Reaction
If you make a mistake, you can cancel it by pressing the reaction.
Custom color
Reset color
広告非表示プランのご案内