【ヨセチセ】後戻り不可

痛みに彷徨う者の夢に引き寄せられた夜の愛し仔の話












私は夢を見た
暗い海の上を裸足で歩く夢だった

黒く深い夜空には星の欠片もなく月も浮かんでいない
真っ暗の中を歩き続けていたら
誰かが一人泣きながら佇んでいた

大粒の涙が溢れる目元のひとつはがらんどう
もうひとつの目も夜を掬い取ったみたいに真っ黒だった

どうしたの、と声を掛ける前に
泣いていた誰かが私に何かを差し出した

それは小さい頃
夏休みの宿題で観察日記をつけるため育てていた花によく似ていた
蔦に連なる鮮やかな赤や濃い紫の花たちを半ば押し付けられるかたちで受け取れば
泣いていた誰かの目がこちらをじぃっと見詰めていた

何も言わず何も聞かない誰かに私は花を渡していた
その花は泣いていた誰かから貰ったものじゃない
気が付けば手に持っていたものだった

色も形もおぼろげで不鮮明なその花は
泣いていた誰かの手の中に収まった

そのあと目が覚めた
目が覚めたら夢の内容は綺麗に消え思い出せなくなっていた
忘れたことすら思い出せない

だけど
私は記憶ではなく心の隅にその夢の出来事をしまっておいたので
後悔の念は生まれていない