豆炭々炬燵
3019文字
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【ペニおじビル】再会

スランプになって故郷に帰ってきた大人ビルをペニおじが出迎え酒盛りする話。

おざなりに表面上取り繕ったところで其処彼処の綻びから余裕の無さがポロリと零れ床に落ちていく。
元から人間ではない、と言ってしまえばそこまでだ。玄関先で出迎えてくれた陽気な態度から一変して人間味を一切感じさせない表情をする白塗りの顔に僅かばかりの罪悪感を抱いた。
だが、身を覆い包み込む重苦しく息苦しい虚脱感と倦怠感には勝てず、久しぶりに再会した相手との昔話に興じる気力自体失せてしまい、ただただこの場から逃げ出したい気持ちが胸の中で渦巻いていた。

「俺が邪魔か」

心の中を見透かされたような一言に知らず肩が跳ねる。
愛想笑いじゃ到底有耶無耶に出来ない状況がゆっくり近付き追詰めてくる。聞こえなかったフリも駄目だ。
世界中のありとあらゆる言葉では言い表せない凄み。呼吸すら忘れ、迫りくる相手の一挙手一投足から目が離せない。
「ビル、君はもう大人だったな」
「も、もちろん」
吐息が分かるほど近付いた白塗りの顔に気圧され昔の忌まわしい病気が息を吹き返す。
小指から順々に折り畳み両肩を掴む白い両手。一本一本肩に触れ指に力が入る度、心臓が恐怖で爆発しそうになる。
そのまま肩を掴んだ白い手に誘導されゆっくり再び椅子に腰かけた。頭から血の気が引き、唇が喉が以上に乾きだす。肩から白い手が離れ、傍から離れようとも椅子に強力な接着剤でも付いていたかのように腰を浮かせなかった。
暫くして何処からか持ってきたらしいビール瓶にウィスキーボトル、他にも沢山の酒瓶を抱え持って戻ってきた。
「飲むぞ」
真向いの椅子を引き座りながら手始めにと言わんばかりグラス二つに琥珀色の液体を並々注ぎだす。
一つ此方に差し出されたのでおずおず伸ばし掴んだ瞬間、小気味よい音が手元から響いた。涼やかで透明感溢れる音色に誘われ喉が鳴る。そんな現金な体に苦笑を漏らさずにいられようか。
一気に飲み干した。喉を灼熱の液体が通り過ぎ胃に落ちていく感覚がなんとも久方振りな気がした。
「いい飲みっぷりだ」
空になったグラスに並々注がれる琥珀色をまたロクに味合わず飲み干す。一度勢いが付いたら止まらない。止まりそうもない。
琥珀色、黄金色、濃紫色、透明、他にも沢山の色を胃に注ぎ込む度、押し込め抑え込んでいた思いの丈が口から飛び出ていた。
酒を飲む手が止まらないように、大雨で溢れる下水道の如く汚泥混じりの濁った感情が溢れ返り止まらない。
自分自身支離滅裂な事を喚き散らし自分本位でかなり身勝手な言い分を嘆いているのだと、まだ冷静で客観的に見下ろすもう一人の自分が頭蓋の片隅にいた。

──子供みたいに泣いて喚いて見っともない
――こんな事したところで何の意味もない
――現実から逃げてるだけじゃないか



「逃げたって別にいいじゃないか。それの何が悪い?」
思いがけない一言に、心の奥底で求めていた一言に、体が震える。
……だ、駄目だ。ににに逃げちゃ、ぼ、僕の小説を、まっ、まっ、待ってるひ、人たちの期待をう、裏切ることに、ななな、なる」
懸命に虚勢を張って自分自身を押し殺す。その言葉を求めてはいけない欲してはいけない。絶対に、絶対に絶対に絶対に。
グラスを持つ手がカタカタ震える。手から滑り落ちてグラスを割る心配はあれど、一先ず中身を全部飲み干した後なのでテーブルを汚す心配は無い。変なところで的外れな事を考え心配する自分自身がおかしかった。
「すっかり口調がどもって。昔の君に戻ったみたいだ」
……こ、これだけ飲めば、ろろろ呂律もまわ、回らなくなる」
眇められた金色が饒舌に物語る。酒の所為にするなと。だけど、フッと雰囲気を柔らかくさせ席を立った。
それを何となく目で追えば軽快な足取りで此方に近寄り色鮮やかな腕が後頭部と背に回された。泣いている子供をあやすように擦る手の動き。極めつけは頬を寄せてのキス。これじゃあ本当に泣いている子供を慰めあやすのと何ら変わらない。
「俺にとって君はまだまだ子供さビリー」
殊更優しいキスに何故か涙が流れた。