豆炭々炬燵
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【ビルジョ前提】毒蛇が蠢く壺に手を突っ込むって?【ペニビル】

とても悧巧とは程遠い愚行だな
ジョージに化けたペニーワイズがビルを誑かすのに成功した例+α











ジョージが小雨降る中、処女航海に行くのを見送ってどれくらい経ったか。
トランシーバーのハウリング音のあと、途切れ途切れにジョージが何か喋っている声が部屋に響き渡った。
「ど、どどどうした」
スイッチを切り替えビルが問い掛ければ今度は鮮明にジョージの声が聞こえた。
『ビリー、排水口のところにね』
「船が、すすす吸い込まれて落ちたのか?」
『そうなんだけど……
気落ちした声色には別の事を言おうか言わないか考えあぐねている節がチラチラ見える。
「折角、つつつ作ったのにし、仕方のない奴。また作ってや、やる」
『ほんと?やったー!』
「だかかから、はや早く帰ってこい」
『えっと、ね。ビル……
完全に黙りこくってしまったジョージを急かすことも出来たが、背中に這い上がる薄気味悪い気配を察したビルは辛抱強く弟の返事を待った。



――分かった」
肺に溜まった重苦しい空気を追い出しながら出した言葉はビル本人が思っていた以上に低かった。
本調子には程遠い体調を気合と意地で補い。通信していたトランシーバーを机にごとりと置いたビルは気だるい体と頭で小雨の中、両親にバレないよう上着を羽織りモスグリーンのレインコート、黒の長靴を装備して玄関の扉を開け外に出た。外気にさらされて悪寒が走るが、果たしてそれは体調の悪さからくるものなのか。
あまり水たまりや小さな川になっている道の端を歩かずにビルはジョージが待つ場所に向かう。
――ビル!」
鮮やかな黄色のレインコートがバタバタと両手をあげ”ここだよ”と何度も呼んでいる。
気持ち小走りになって近付けばジョージの小さな右手が恐らく無意識だろう、ビルのレインコートの裾をギュッと掴んだ。
ただならぬ違和感にジョージの肩を抱いたビルが問い掛ける。
「ど、どうし――
ビルは結局最後まで言えなかった。いや、言わなかった。
ジョージの視線につられ排水口の中を覗けば、暗闇の中に光る銀色の目と目が合った。一瞬たじろぐも、目を凝らせば白粉を顔じゅうに塗りたくり赤い紅を笑った口の形に差して、その両端から赤い筋がそれぞれ両目に向かって立ち上るメイクをした――ピエロがいた。
ジョージがトランシーバーで言ってた通りのことが今、目の前にいる。
普段なら煙たがって相手にしない。されど、トランシーバー越しに聞こえるジョージの声と気配にビルは臥せってる体に鞭打ってでもその場所に行かねばならない言い表し難い使命感に駆られ、それは正しかったとビルの頭の中にいるもう一人のビルが淡々と言ったのだった。
「やあ、ビル」
フレンドリーに話し掛けてくる相手の左手には先程作った紙の船を持っている。
「ジョージーが船のこの中に落としてしまってね、私が拾ってあげたんだ」
ビルが目でジョージを見ればすっかりビルの背に隠れてしまったジョージは静かに頷いた。
再び目を排水口に潜む何かに戻せば相手は聞いてもいないのに喋り出す。
「ジョージーはとても怖がっていたよ。この船を無くせば君に殺されるって」
たしかに怖がっていたかもしれない。でも、それは本当に殺す殺さないの意味合いではない。単純にジョージは船を無くしたらビルに怒られて、もしかしたら嫌われてしまうのではないかと怯えていただけだ。
「そ、そそんなこと、するわけけない」
周囲は水浸しなのにビルの喉と口の中はカラカラに乾き、どもりも相まって言葉は雨音に掻き消されてもおかしくないのにも関わらず、排水口に潜む者の耳には届いたようだ。
「そう。良かったねジョージー。ビルは君の事を殺さないってさ」
何がおかしいのか排水口から顔を覗かせるピエロは大きな二本の前歯を見せながら笑った。ピエロのピエロらしい笑った口元につられジョージは笑ったがビルは笑いやしなかった。
「ふふふ、船が欲しいならやややる」
「本当に?わお!嬉しいね!」
大袈裟に喜んでまた独特な笑い声が排水口に響き渡る。
だが、ビルは薄ら気付いていた。相手が決してこちらから片時も目を逸らさず凝視する様は隙を窺がう捕食者に酷似していた。
その視線から一刻も早く抜け出したくてビルはジョージの右手を握り家の方へ歩き出す。
「じゃじゃあ、僕たちかかか帰るから」
「もう帰るのかい?ここにはポップコーンもホットドックもあるし、ふわふわ浮く風船だってあるよ?風船いらないかい?ビリー?」
「い、いらない」
「ジョージー?」
……ない」
執拗に引き留める声が後ろ髪を何度も引っ張ったが、ビルはジョージーの右手をしっかり握ったまま家路につくことが出来た。
心臓が未だ気持ち悪い鼓動を打ち鳴らし、背中にはじっとり汗が滲み出ている。
一先ず両親に決してバレないように特にビルは外に出た証拠を完璧に隠してから二階へ上がった。外、しかも雨の中でた所為か熱が上がってきている気がする。
階段を登り切ったビルは自室の扉を開け、速攻ベッドに潜り込みたかった。折角良くなってきた体調もこれで帳消しにならないようにさっさと治して不安な眼差しでこちらを見上げるジョージの傍にいてあげたかった。ビルのあとを俯いて歩くジョージが心の中で望むことをしてあげたかった。
固く握った小さな両手を見遣り、ビルは深いため息を吐いた。
……伝染ってもい、いいなら内緒で、ねね寝るか?」
「うん!」
屈託のないジョージの笑顔にビルは二人揃って両親に怒られる道を選んだ。自分が誘ったんだと言えばもしかしたらジョージは怒られずにすみかもしれない。
そんなことを考えながら自室の扉を開けたビルはその場でたたらを踏んだ。
「どうしたの?」
後方から聞こえるジョージの声が何処か遠くから聞こえるようだった。
ビルは自室の窓際、丁度勉強机の右隣で佇む存在に一瞬思考が止まって再び動き出す頃にはまだ部屋の中を見ていないジョージを無理矢理リビングに下し、その後姿を見送ったあとにしっかり自室の扉を後ろ手で閉めた。
施錠の硬い音が響いて消えていく。



「ジョージーかわいいね、とってもとーってもかわいい」
雨に打たれた服から水が滴り床にポタポタ丸い水玉を描き、水気を含んだ足元からはぐじゅぐじゅと歩くたびに音が鳴る。
自ら退路を断っていてあれだが、ビルは扉の先、ジョージのもとへは決して行かせてはならないと根拠のない確信を糧に必死で喉から心臓が飛び出るのを抑え込んでいた。
「ふわふわ浮かせたいくらい、かわいいかわいい、知ってるビル?みんなふわふわ浮くんだよ」
背中をぴったり扉にくっ付けたビルに影が差す。嗜虐心に染まったギラギラ輝く両目、白い前歯が覗く赤い紅を指した笑った口許から垂れているものの正体は言うまでもない。
白い手袋に覆われた大きな手が可哀想にか細く呼吸しか出来ない喉を労わるように包み込む。片方の親指の腹で突起した喉仏を擦る感触はさながら心臓を直に撫でられているような感覚だった。
肉食動物が獲物を甚振って弄り回しているのと同じ。そして、何処かの文献か何かで見た気がする、肉食動物は獲物を食べる時おいしい、おいしいと思っているのではなく――





「ビル~。ママからあったかいココアもら、って、きた……??」
勢いよく扉を開けたジョージの頭上に沢山の?マークが飛び交った。
何故なら兄の自室の窓際付近に先程排水口の中で見たピエロが愛想よく手を振って「ハーイ。ジョージー」出迎えてくれてるし、兄ビルは茫然としたままベッド縁に腰掛け首元を何度も擦っている。これで困惑しなければ何処で困惑すればいいというものだ。
少なくとも外で見た時みたいな言い表し難い不気味さのないピエロにジョージの顔から警戒心が消えていく。
「ビル。彼、ペニーワイズって言うんだって。雨でサーカスが流されちゃってあの中にいたんだ」
「そうなんだよジョージー。それで早速遊びに来ちゃったんだ」
「そうなの?」
「そうそう」
他愛ない会話をするジョージからは笑みさえ零れだした。
だが、ビルの瞳は継続して彼――ペニーワイズを睨み続けている。ジョージが来る寸前、耳元に囁いたあの言葉、洒落では済まされない済ましては決していけない言葉にビルは唇を噛みしめる。
















それにビル、君は他の誰より……とてもおいしそうだ