豆炭々炬燵
3382文字
Public The Night
 

【The Night】永遠の底

性癖にぶささったファンアートの二次(三次)創作。
作者様の素敵設定がさらなる妄想を掻き立てるゥ!

人智を超えた得体の知らない恐怖を感じても尚、幽々たる世界に興味を抱き憧れる姿は興味深くあり理解し難い。されど、此方としてはこれ以上ない好都合なことだった。



永久不変の月日は往々にして穏やかで退屈なもの。しかも、同じことを繰り返し続けていればマンネリ化が進む一方で何も面白くない。時にはとは言わず、違う刺激を求め欲するのは当然といえば当然だった。
そんな時。何百年ぶりかは定かではないが、外部から開けられた扉の気配に計らずも期待を抱いた。
今日日まで過ごしてきた優雅で退屈な日々を飲み込み食らう為にその者は現れた!そうに違いない!影に身を潜め見遣る先、館の奥に広がる暗闇にやや怖気づきながらも自ら足を踏み入れる人間の娘に対し最大限の歓迎を込め――城に立ち入ることを許した。

客人が抱いていた恐怖心は自身に危害が及ばないと自覚するにつれ薄れていき何時しか慣れへと変わった。そして、慣れというものは常々警戒心を薄れさせ行動を大胆にさせる。始めこそ恐々扉を押し開けていたが、今となっては勝手知る他人の家の如き気軽さで扉を開け城内に足を踏み入れている。扉を開けた瞬間、この城の主にその姿をつぶさにを見られているとも知らず。
黄昏時、この城に訪れる客人は決まってある本を抱えやって来ては廊下の隅に腰を下ろし薄暗い室内で読書に耽る。
ページを捲る音に紛れ時折聞こえる独り言は「この雰囲気が本当に最高」「本の内容とベストマッチ」などと、兎角この館で読むことで本の世界観に浸り没頭するものばかり。
一体どんな内容のものを読んでいるのか影に身を溶け込ませ背後からご執心の書物を見下ろした。
なっ、何というナンセンスな代物か!このような下世話な物語りがこの世の中に存在しているという事実だけで気分が悪くなる!実に不愉快、不愉快極まりない内容に負けじ劣らず、物語りの登場人物が同じ誇り高い種族のカテゴリとして同一視されるのには甚だ遺憾である。もとよりこれは生理的に合わない類のものだ。
それに反して規則正しく並べられた文字列に目を走らす客人の横顔は見ていて悪いものではなかった。虫唾が走る本の内容はさておき非日常生活に多大なる憧れを抱き感嘆の溜息を漏らす姿は大変好ましい。何事もなく本を読み終え心なしか機嫌よく館を後にする客人の背中を見送った回数を指折り数えてみた。もう両の手が足りなくなるほど見送っていたようだ。
礼儀正しく締まる扉の音を聞き、ふと思考を巡らせる。

このまま継続的に訪れるとは限らない。
もし今夜で訪れること自体最後だったとしたら酷く詰まらない。
だが、人間とは違う長い耳は客人の独り言をしっかり拾っていた。また明日も来る、と。


刹那、脳裏を過る素晴らしい考えに口端がつり上がった。
黒のドレス、ベルベットのドレスを纏う少女。人間の世界に別れを告げさせ黄泉の世界に身も心も染め上げ、魅力的な声で暗闇へ誘い永遠を誓う花嫁。その身を包むは上品さを兼ね揃えその者の魅力を最大限に引き立てる黒色の衣装。その姿はさぞ美しいものだろう。
そうとなれば此方も身形を整えなければなるまい。花嫁を出迎えるに相応しい衣裳と持て成しを!
嗚呼、既に明日の夜が待ち遠しくてかなわない。
間違いなく明日の夜は今までにない最高の夜になる。