【原型蟹+擬人化蟹】歯を磨いてデコっちゃおう【タマモア】

歯磨き呟き派生の無垢な勇者を大蟹がデコデコするお話。

何故、如何して、このような事になってしまったのか。
普通であれ絶対にありえない。何時だって口元に何かを運ぶ時は運んだものを食べるため。
………
カッ、カカッ、カリッ。
鋏で摘み口元に運んだ先で聞こえる小気味よい音。硬い音と共に剥がされていくフジツボはタマトアの歯に付着していたものだ。そして、そのフジツボを職人顔負けの真剣な顔つきでモアナが一つ一つ丁寧に取っている。
モアナは自身の体の殆どを大口を開いているタマトアの中に突っ込み、ヘラでこそぎ落しながら「あなたの歯に付いてるフジツボ前から気になってたのよ~」なんて楽しげに笑いながら言う始末。
食べられる気など更々ない、食べられるなんて毛頭考えちゃいないモアナにタマトアの頭が痛くなった。
「はふぁ?(まだ?)」
「待ってっ、今いいところなの」
このやり取りである。自ら大蟹の口の中にお邪魔します大胆不敵な奴が何処にいる?此処にいた。余計にタマトアの頭が痛くなった。
「(あ、あそこにもフジツボがある)」
歯の裏側。しかも上顎の方に新たなる標的を見付けたモアナの目が光る。いざヘラを片手に背中を弓なりに反らせ口の中奥深くに入り込む。日頃島中を駆け巡って鍛えられた足で自身の体を支えるのなんてわけないが、ただ不安定な態勢では些か無理があった。
「わ、わわわっ。あぁぁぁ~
バランスを崩したモアナはうっかり喉奥の方に滑って落ちてしまった。
だが、その体が胃袋の底に落ちる事は無かった。
「何やってんだ嬢ちゃん」
タマトアの舌がモアナの体を喉奥に落ちる前に押し上げた。
再び巨鋏で摘ままれる形になった彼女の体はタマトアの涎でびしゃびしゃ。なのに如何してかやりきった顔で胸を張っている。
「今ので全部取れたわよ!」
「はいはいご苦労さん」
気だるげなタマトアにモアナが小首を傾げた。
瞬間、これ以上ないくらいの深い深い溜息を大蟹が吐いた。
「あんな嬢ちゃん。さっきの喰われちまっても文句言えねェぜ?お分かり?」
「そんなの分かってるわ」
まさかの言葉にタマトアのぎょろりと飛び出た目玉が瞠られた。
その反応にモアナがしたり顔で続ける。
「それぐらいの覚悟がなきゃ伝説のカニの歯のお手入れなんて出来ないじゃない?」
腕を組み片眉を上げ不敵に笑うモアナ。鋏に掴まれても尚、そんな態度をとる彼女にタマトアの顔が変貌していく。残忍さと狂気が入り混じる面貌はまさにラロタイの魔物そのもの。
――言ったな嬢ちゃん」
海底から這い上がるような低い声のあと、大蟹の体が黒い波に溶け込んだかと思いきや次の瞬間には悪趣味な宝飾品を身に纏いモアナ達と違う色素の薄い肌、深紫の髪を持った大男がモアナの前に現れた。
「覚悟が、あるんだな?」
モアナの細腰をがっしり掴み、圧倒的な身長差から見下ろす男の顔が嗜虐的に歪む。
「では、その覚悟を見せてもらおうじゃないか」
……タマトア?」
影を従えニヤニヤ嗤うラロタイの魔物に流石のモアナも冷や汗が背中を伝った。