【安易な転生】単純で簡単な考え5【と擬人化もあるよ】

モアナが生きていた時代から幾年月が過ぎ人々の生活は自然ありきなものから科学が溢れる生活に変わり同時に神話や魔物の類の話は廃れていった。

※タイトル通り安易な転生パロもの。モアナちゃんは魂だけ受け継いで前世の記憶皆無。対してデミゴッドさんと化け蟹さんはめっちゃ長生きご健在?な特殊傾向モリモリな予定。

宙ぶらりんだったモアナの体をゆっくり地面に下したが逞しいマウイの腕は彼女に巻き付いたままだ。
そろそろ英雄の慈しみが籠った眼差しにどぎまぎし始めた丁度そんな時。モアナの後方、洞窟の閉じられた入り口が豪快な衝撃と共にこじ開けられた。
濛々と立ち込める砂埃の奥、巨大な鋏の影が次第に人の形に変わった。両手を広げ現れる姿は映画のワンシーンみたいに大袈裟で実にわざとらしい。
ゆっくりと確実に歩を前に進めるタマトアの視界に矢庭モアナを背に隠し釣り針を構え庇うマウイが入るなり、舞台俳優ばりの軽快な足取りで一気に距離を縮めた。
「久しぶりの再会だってのに俺だけのけ者なんてよぉ。随分ツレない事をするじゃないかマウイちゃん」
「俺はお前に会う気なんてこれっぽっちも無かったがな。それより――如何した、その、姿は?本当にタマトア、なのか?」
「おうよ。ちょいとばかしシャイニーさが物足りないけどな」
改めて人間になったタマトアをまじまじ見ていればマウイに庇われていたモアナが彼の背から飛び出した。ワンテンポ遅れ気付き腕を伸ばし案ずる声を上げるも、自分以上に親しくタマトアに接するモアナにマウイの腕と眉尻が寂しげに垂れ下がる。
「あなたよく入って来れたわね」
「俺が伝説のカニだってことお分かり?」
「ええ、勿論。それにとても素晴らしいカニだってことも」
モアナの言葉に一瞬目を瞠ったタマトアが一拍置いてから満足気に目を眇めた。
このままでは上機嫌で歌いだしそうな雰囲気に思わずマウイが顔を顰め唸る。いっそ釣り針でその悪趣味に輝く足を引掻けて転ばせてやろうと釣り針を握る手に力を籠めだした矢先のこと。
タマトアと対面していたモアナが踵を返しマウイのもとに寄り何の躊躇いもなく釣り針を握っていない方の大きな手を取り握った。
出し抜けのことで根元で淡く光り始めていた青白い光もすっかり消えてしまった。
困惑したマウイがモアナを呼ぼうとしたら吸い込まれそうなほど澄み切った彼女の瞳とかち合い息を飲んだ。
「そしてマウイ!私もっと貴方から貴方自身の話を聞きたい!昔から言伝えられてきた伝承じゃなくて貴方本人の口から話を聞かせてくれないかしら!?」
興奮した面持ちで詰め寄るモアナに若干マウイが後退るも彼女は更なる爆弾を投下した。

「私、ずっと貴方のファンだったの!!」

後頭部に強い衝撃を受けたマウイの視界に星が瞬き、そのやり取りを後方で見ているタマトアはシニカルな笑みを浮かべ何度も頷いている。
言の葉によるダメージは想像以上に強く、そして意図的に逸らしていた考えが淡く胸を痛めた。左胸に添えられた手は単純に胸を押さえているのか、それとも其の下にあるタトゥーを押さえているのか。意識をミニ・マウイに向ければ彼も心なしか寂しげな表情で頷き微笑んでいる。
今尚、直向きに返事を待つモアナにマウイが優しげな顔で笑う。
「ファンは大事にするのがモットーなんでね」
「じゃあっ」
「君が嫌って言うほど俺の話を聞かせてあげよう」
「本当?やった!嫌なんて言うわけないわ!だって、だって~~~~!!!」
最後の方は言葉にすらなっていない。
喜びはしゃぎ回るモアナを見詰めるマウイの瞳は憂いを帯び小さく嘆息した。心が壊れる程に待ち望んでいた再会だというのに如何しても素直に喜びきれないのは恐らく――
「(だが、もう見失いはしない)」
まばゆく差し込む陽光の先。出口近くで手を振り呼ぶモアナのもとへ歩を進めるマウイ。
釣り針を肩に掛け満更でもない表情で歩み寄る傍ら、彼の歩んだあとには黒い砂粒のようなものが散りばめられていたのをタマトアはその目でしっかり捉え静かに目を伏せたのだった。