【安易な転生】単純で簡単な考え3【と擬人化があるよ】

モアナが生きていた時代から幾年月が過ぎ人々の生活は自然ありきなものから科学が溢れる生活に変わり同時に神話や魔物の類の話は廃れていった。

※タイトル通り安易な転生パロもの。モアナちゃんは魂だけ受け継いで前世の記憶皆無。対してデミゴッドさんと化け蟹さんはめっちゃ長生きご健在?な特殊傾向モリモリな予定。

暗い所ではタマトアの体に彫られたタトゥーや装飾品の数々が蛍光色の紫や水色に怪しく輝き。瞳に至っては左右の色を交互に変える芸当さえ可能。そんなネオン街のような光を放つ腕に捕らわれたモアナの表情は困惑していた。
何故か問おうとするモアナにタマトアは視線を逸らさず小声で彼女に囁いた。
(喋るな。あれは文献や嬢ちゃんの知る”マウイ”じゃない)
尚も挑発的な態度を崩さずマウイと対峙するタマトアは警戒レベルを最大限にまで引き上げている。
(半分人間が仇になったか。神々であれば辛うじて耐えられるのを奴の心は耐え切れなかった)
幾ら魔物と云えど釣り針を持ったマウイ相手では分が悪すぎた。緊張で筋肉が張り小刻みに震える。細心の注意を払わなければ爆発してしまいそうな力は庇っている容易にモアナを傷付ける。
(壊れた心は砕け崩れた想いを頼りに彷徨い歩き、求め欲するモノを見付けるまで続けた為れの果て――、アイツ自身最も忌み嫌う存在になっちまったのが目の前にいる奴だ。今や神とは縁遠い、かと言って魔物とも違う。最も厄介な存在……
にじり寄るマウイに合わせタマトアが後退するが、果たして何時までにらみ合いが続くのか。
心配気な顔で見上げたモアナが水色に光る腕を無意識に掴み。視線を前に戻せばマウイと呼ばれた男が右手を伸ばし、聞き取れやしなかったものの其の口元は小さく動いていた。
その姿にモアナの胸が小さく痛んだ。
「何で喋っちゃいけないの?」
(そりゃお前が、――!!)
咄嗟にモアナの口を押えたタマトアだったが時すでに遅し。
辺り一面を真昼のように明るくさせた釣り針が一閃、タマトアの首元を掠めた。間一髪で避けられたが、その隙を突いたマウイがモアナの腕を掴んでしまっていた。
モアナの腕半分を覆い隠してしまうマウイの手がグッと彼女をタマトアの元から引き剥がした。
「嗚呼、モあナだ、もアな、モあぁナァァ……
言い表し難い笑みを浮かべたマウイが壊れた時計のように彼女の名前を繰り返す。
不明瞭な言葉が不協和音を奏でモアナの頭蓋の中を覆い尽す寸前、彼女の視界があるものを捉えた。
「行コう、モアな、イこウ、いコウ
呼ばれモアナが顔を見上げれば返事を待っているのか、マウイの伽藍洞の瞳が楽しげに笑っており何度も何度も腕を引いては釣り針を海に向けていた。
「そいつの言葉に耳を貸すんじゃねえ!」
「ヴヴッ!!」
タマトアの叫びにマウイが歯をむき出し釣り針を掲げ獣染みた唸り声で威嚇した。釣り針の脅威に手を出せないと見るや再びマウイはモアナを見詰め腕を引っ張る。
何度も何度も何度も。しかし、その一定の動きはモアナが俯いたことで止まった。
「モ、あナ……?」
ウェーブの掛かった黒いカーテンをマウイの短い指先でかき分けたその先には静かに涙を流すモアナの悲しげな顔があった。目を閉じ嗚咽を押し殺し、泣く彼女の涙が砂に落ち吸い込まれていく。
「!?」
予想外の光景にマウイがたじろぎモアナの腕を離せば今度は逆に彼女がマウイの腕を掴んだ。太すぎるマウイの腕は掴むというより触れ添えるに近かった。
しかし、そんな弱々しい枷をデミゴッドは外すことが出来なかった。
「あなた、は。痛くないの?こんなに、なって……
「? ??」
何を言っているのか分からないといったマウイの反応にモアナはゆっくり分厚い彼の胸板を指差した。其処に描かれているのは半人半神のマウイを小さく模ったタトゥーだった。その小さなマウイの体は傷だらけで止めどもなく涙を流し続けている。
それを見たマウイは絶句し、モアナの手を振り払いミニ・マウイを隠すように手で覆い、そのまま逃げるようにしじまの向こうへ消えていった。


「ほんと驚かされる。よくあいつを追い払えたな」
「追い払うなんて、そんな。ただ、私は……
月が顔を覗かせ周囲を柔らかく包み頃には先程の事など無かったように穏やかな浜辺に戻っていた。
まだ零れる涙を拭うモアナの傍に寄ったタマトアは感心しきりのようだ。
「あいつの方から逃げて行ってくれてなきゃ、今頃嬢ちゃんはラロタイよりもっと暗くて深い処に一生閉じ込められていたところだ。いっそ殺してくれた方がマシだって思えるくらいとびっきりの場所さ」
大きな手の跡が付いたモアナの腕を眺めていたタマトアが鼻で笑い飛ばし、涙が止まったモアナはその跡を擦った後、今はもう見えないマウイの姿を目で追った。
「彼を探して見付けないと」
「場所に心当たりは?」
「ある、とは言い切れない。でも、前読んだ本には釣り針の形をした星の集まりの下に彼がいるという逸話が載っていたからそれを探して目指そうと思う」
「ほうほうほう、だったら――あの自己主張激しいのに向かっていけばいいわけか」
タマトアの指先が夜空に瞬く星々の一角、煌めきが集まり釣り針の形を形成した瞬く星座を指差す。
(あんなところに星座なんて無かったのに不思議。これもマウイが為せる技なのかしら?)