ひろっぷ
2022-10-23 00:54:32
4329文字
Public 第五 ハス探
 

じゃしんとぼく⑬

いつものハス探会話文




【あなたがいない】
※荘園脱出後if話

この山奥の屋敷で暮らして何年経っただろう。荘園が閉じそれぞれが去っていく中、消えたあのひとが残した言葉を頼りにここへ来たのに、あのひとは姿を現さない。
当時かなり怪しかった屋敷の執事も辛抱を、の繰り返しだった。言いたい事は分かるけれど。
けれど、僕は人間だ。無限に待てるわけじゃない。何度目かの四季を経てますます老いを感じている。まぁ、どうせ行くあてもないからここで待つしかないと理解するものの。
でも、だからこそ今だからとても寂しいと思ってしまう。
(会いたい、と思えるのが今なんて)
今なら素直に言えるのに。

城には大きな書庫があって、あのひとが蓄えた本がたくさんあった。あの時の書庫を思い起こさせて余計に寂しさを覚えたのも記憶に新しい。その書物を読みあさって気持ちを誤魔化したりもしたけど、どうにも拭えるものじゃなかった。それだけあのひとがずっと居たんだって思い知らされる。
何を食べても、眠っても、夢の中でさえあのひととの光景が浮かぶ。
何してるんだ、早く来い馬鹿って言ったってあのひとは来やしない。
それでも待つしかない。僕は言われた事を信じるしか考えられないから。だから今日も本を読む。
植物の事、歌の事、それから星の事。
それからどうしようかな。執事さんに気分転換に付き合ってもらおうか。
読み終わった本を閉じ窓を見る。段々と気にしなくなった外は冬だ。辺り一面雪になっていてとても綺麗だった。外の雪景色を見て少し身震いする。
そうだ、雪だるまでも作ろう。




『そうして以前風邪を患ったであろう』

隣にいつもの気配がある。幻覚かな。
どうして、いるの。

『そなたが酷く困憊していると思うてな』

……。そうだ。そうだよ。ずっと、待ってたんだよ。

『随分と待たせたようだ。老いたか』

僕もういいおじさんになっちゃったよ。どうしてくれるのさ。

『何も。我は宣言したはずだぞ。そなたの行く末を見届けると』

ずるいよ、そんなの。何も言えなくなるじゃないか。

『フ待たせた詫びを所望か。今宵はたんと持て成してやろう』

うん。話したい事、たくさんあるんだ。だからもう居なくならないで。
僕、今とても嬉しいんだから。