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ひろっぷ
2022-03-13 19:06:27
5672文字
Public
第五 探探
【腐】最悪だ、こんな奴!【迷ロナ】
若干雀モグ要素。stkするされる探探ちゃん。
1
2
「
…
なんですって?」
モグラは精一杯の怪訝な顔を現した。その矛先にいる俳優の男ロナードは、その反応を予想していたのかモグラを冷ややかに一瞥するだけ。モグラの反応は至極当然の話だった。隣に控えていた雀舌すら目を丸くしているのだ。
彼が、俳優ロナードがストーカーの被害にあっているという事実を。
ロナードが付き纏われていると気付いたのは一週間ほど前の事だった。その日いつもの稽古を終え、私服に袖を通して真っ直ぐに帰るつもりで近道を通ろうとした。だが、そこではたと違和感に気づく。ここはこんなに花びらが散っていただろうかと。暗い路地でも分かる、光輝くように橙色の花びらが無数に落ちている。
裏路地なため誰の手も行き届いていないと思えばそれまでだろうが、ここはロナードが毎日のように通過する庭のようなものだ。周りを見ていなくとも記憶の片隅には残る。明日からはしばらく道を変えようと決めたものの、環境が変化したのはそこからだった、ロナードに対する気配が消えなくなったのは。たかが一日ぐらいの違和感とその時は鷹を括っていたが、いつもの稽古を終えた夜の帰路についていた際に、またも違和感が纏わり付いたのだ。しかも最初に感じた気配よりも近く、ねっとりとしたような感覚。
ロナードは人生で初めてゾッとしたと後に語る。
今までストーカーという者はそれとなくいたが、どれも気になる程でなく、警察にすぐ御用となるような軽いものだ。それが今回に限っては己のありとあらゆる神経を研ぎ澄ませて警戒しているときた。
耐えられないと本能が警鐘を鳴らしている。
それがここ一週間続いているのだ、とロナードは項垂れて呟いた。
「
……
そうですか」
「
………
」
考え込み始めた雀舌を他所に、モグラはソファに深く座り直した。ギシ、と軋む音にすら体を震わせる目の前の男に少しの罪悪感を覚えながら。
モグラの仕事は様々な情報を管理する事であり、世界情勢もあればそれこそ個人情報等の犯罪に足を踏み入れた物もある。そしてそれを他者に横流しする所までが仕事だ。つまりはそのストーカー行為をしている犯人を調べて欲しいというのだろう。個人の特定はモグラにとって然程難しい事ではない。
しかし。
「事情は分かりました。しかし、私より警察の方が護衛も付いて安全が保証されると思いますが?」
一応として尤もらしい断る素振りはする。
なんといってもモグラの仕事は犯罪であり、有名な俳優が関わったともなれば警察沙汰では済まない。
頷く雀舌を他所にロナードは即答した。
「もちろんした。
……
」
「
…
?ロナード?」
即答したものの、次の言葉を詰まらせてロナードは俯いた。時々会っていた俳優のロナードというのはこんな弱りきった男だっただろうか?それぐらいに予想外の反応を示していく様に、モグラはさすがに状況が危険なのだろうと察した。それと同時に。
「その後警察から誰一人寄越されなかった。
…
いや、誰一人残っていなかったんだ」
「!」
「
……
ふうん」
ロナードがあるがままで苦しく顔を歪めた。素人でも演技ではないと分かるそれに、さすがに断る必要はないだろうと踏んだ中、雀舌が割って入る。
「ロナードさんだっけ」
「ロナードでいい」
「うん。で、聞きたいんだけど
…
。犯人、緑の服?」
「
…
そうだ」
「ペン持ってた?」
「あぁ」
モグラは雀舌の的確な質問に顔が引きつるのを感じていた。何故そこまで分かる、とロナードも確実に引いていると分かる表情だ。寧ろ同情さえ覚えてしまう。
ロナードが答えた通り、犯人は緑の服を着て万年筆を所持していたのだという。付き纏われていたここ最近で一瞬目撃できたという程度らしく、ペンは定かではなくとも服は確証だ。
「記者なのでは?パパラッチとかいう」
「そうであればどれだけいいか。この一帯の記者陣はあの劇場や周囲の娯楽施設のお抱えだぞ。掴んでいないはずないだろう」
「僕もそう思うよ。
…
もし僕が言った通りの人なら気をつけて、ロナード」
「
……
あぁ」
しんみりとした空気を放った途端乾いた手鳴らしがニ拍響き、ソファから立ったモグラがニコニコとロナードを見つめる。呆気に取られた顔のロナードは覇気のない笑顔で返した。
「さぁさ!交渉成立ですね。おいくら積んでいただけます?」
「
…
今はお前のそのお気楽さが羨ましいよ、モグラ」
結果として、交渉は無事に済んだ。冗談で上乗せを提案すれば即座に乗っかる程度には。余りにも哀れに思い、オプションとして雀舌の細やかな護衛を付けることになったぐらいだ。雀舌はモグラから離れるために初めは嫌がったが、後のモグラからの報酬を突きつけられ渋々了承していた。
大きな背中が小さく見える程の後ろ姿を見送りながら、モグラと雀舌は顔を見合わせて小声で言葉を交わす。
「
…
彼があれ程になるとは。普段であれば笑ってやるところでしたが、いやはやどうにも調子が狂いますね」
「僕が彼を見ておくのはいいとして、モグラ。貴方にも忠告しておくよ」
「聞きましょう」
(ここは静かでいい。今はここでゆっくりしよう)
モグラの住処から出たロナードは、自室に帰ることなく街の片隅のカフェに腰を落ち着かせていた。そもそも帰る気にもなれない。もし、自室前に待ち構えていたら。そう考えてしまい足が竦んだ感覚になるからだ。普段ならこのうららかな午後、どこかへ遠出してもいいぐらいなのに、ここ最近の出来事のお陰でそんな気分になれやしない。
そしてふと、雀舌の言葉を思い出す。
"いい?君が見たのは『案内人』って言われてる奴"
"普段は辺境の森に住んでるらしくて、最近この街に出てくるようになったって"
"人当たりがいいもんだから、彼に道を尋ねてしまったが最後、行方不明になる事件が多発しているらしい"
"何が目的かは分からないけど、目をつけられてる以上ここから離れないで。
…
そうそう、後、"
ひらり、と橙色の花がテーブルに舞い落ちた。
一瞬思考が停止する。ロナードがここ最近幾度となく見た花びらの色だ。
"彼が通った跡には花びらがたくさん落ちてる"
停止していた思考が戻ったのと同時、見下ろしていた花びらに影が出来る。見上げられるはずもない。その当の本人がいるのだから。掴んでいたカップから手が離せない。震えないだけましだと思いたいが、動けないこの現状、劇団員に見られたら一溜りもない。
そんな葛藤を数秒で巡らせていると影の主が口を開いた。
「こんにちは。やっと話せたよ」
優しい声色に気を取られたか、咄嗟に見上げてしまった。こちらは真っ青な顔なのに対し、にっこりと微笑んで反応を待っている。本当に、この男が犯人なのだろうかとさえ疑うほどには。しかし見目は記憶していた通りであり、雀舌が伝えてきた花も携えているようだ。
そして、男はその花を花束にしてロナードの前に突き出したのだ。
小さく纏められた花束は片手で掴める程であり、反応に困っている間に男に手渡されてしまう。しっかりと手を握られ思わず椅子を鳴らしてしまった。何も言う隙がないまま、展開がどんどん進んでいく。
しかし今はまたとない好機。ここで断り止めねばロナードの一生はこのままとなってしまうかもしれないのだ。人通りが少ないのを良いことに、無表情を装って男に睨みを効かせる。内心冷や汗が止まらないのは誰にも言ってやらないが。
「随分呑気な挨拶だな。ひとを散々つけ狙ったくせに」
「それは悪かったよ。だって君人気じゃないか。僕みたいな一般人が近づける訳ないだろう」
「一般人?馬鹿を言うな。他人を誑かして行方不明にさせていると聞いているが?」
ロナードの言葉を聞くや否や、男はにんまりとした笑みに変わる。不味い言葉であったのは百も承知だったが、ここまで露骨な反応は予想外だ。
そして、予想外の展開は更に加速する。
「誑かすなんて。あの人たちの経歴ご存知かな?」
「経歴
…
?」
「全員過去に人を殺してるんだよ。警察に御用にならないように隠蔽してね」
「!」
「僕は別に復讐だなんだって関係ないけど、仕事だから"案内をお願い"されたら叶えてあげなきゃ」
「
……
なるほど。冥土でもなんでもか」
「そ。まぁ今はそれどうでもよくて」
向かいに座った男は変わらず微笑んでおり、ロナードは変わらず無表情のままであった。間接的にとはいえ人を殺している。それは実をいうとロナードもそうであるため言い返す事は出来ない。
「私を
…
私をどうしたいんだ」
ロナード自身も消えた彼ら同様、行方不明にでもなるのだろうか。そのもしもの未来を少し考えて身震いしたが、男はそのもしもを一瞬で否定した。
「?どうもしないよ」
「は?」
頬杖をつき、こちらをずっと見つめて男はあっけらかんと言い放つ。どうもしない。その言葉の意味を図りかね、ロナードは帽子がずり落ちる事にさえ見る余裕がなかった。
なんなんだ、こいつは本当になんなんだ。
「僕はね、君に惚れたんだよ」
「
……
はぁ?」
人生で初めてかと言わん限りの感情がこもった声だったように思う。それもそうだ。つけ狙われていた相手に告白をされて喜ぶ人間がこの世にいるだろうかと問いたい。ロナードは確実に嫌悪を示す側だろう。
くだらない。そんな理由ならさっさと警察に突き出したら解決する話だ。
しかし、ことはそう簡単に解決できるはずもなく。
「戯言はよせ、」
「劇場入りするのは朝十時」
言い切る前に、男に遮られる。
そして枷が外れたかの如く男の口から止まらず溢れ出すロナードの行動。
「その前は朝六時に起きるんだったかな、勤勉だね。君は朝のシャワー派、家を出るのは九時頃。
…
あぁ、あのいつもの裏路地を通れば近道だもんね。僕も通って見たけどあそこはいい。後、」
「待て!
…
待て!!」
「何?」
鳥肌が止まらなかった。男の声色は柔らかいままのはずなのに、言っている事は完全にストーカーのそれだ。
しかも何一つ間違っていないという点でロナードは怯えた。平静を装っていたつもりでも、これを聞いてしまっては取り繕う必要はない。
…
取り繕う余裕なんてものはないのだ。
「何もしない、なら、何が目的なんだ!お前は!!」
運動をした訳でもないのに息切れがする。当然だ。
奇怪な行動をする相手が目の前にいて正気でいられるはずがない。しかしそれはロナード自身の状況であり、当の本人の男はその内心を知らない。
怒鳴っても堪えた感触のない男はロナードを更に追い詰める。
「君を見ていたい」
「!?な
…
ん
…
?」
「君が好きだから、何もしない。好きだから見ていたい。僕はそうしたいんだけど、何か間違ってるかな」
違う。この男は正解だ不正解だという類で片付けられる人間じゃない。元々の感覚が違うのだ。仮に間違っているとロナードが指摘したとして、それが治ったとして、その先の行いに影響が出るかと言われればそうではない。ブレーキが元々ない存在なのだろう、この男は。
「それと君、普段は『僕』でしょ。僕の前だけでも普段通りでいてよ。ね?」
「
……………
」
話を聞かない、聞けない、が最適なのだろうか。
だが不思議なことにこの男を相手にして恐怖心が薄れていくように感じる。完全に消えたわけではないが、この男を少しでも知ったといえるのだろう。
「
…
また来るつもりなのか」
「そうだね。また会ってくれると嬉しいな」
男は向かいからロナードの手をとり甲に口付けた。
嫌悪感はそのままなので、思わず空いていた片方の手で平手打ちをかましてしまう。罪悪感なんてものは全くない。
変わらず男は笑ったままだ。寧ろロナードが男に反応した、興味を示したというのが嬉しいのだろう。
腫れた頬は撫でもせず、椅子からゆっくりと立ち上がる。
「じゃあまたね。その花は貰ってくれると嬉しいな」
花束からを一輪、ロナードの耳元へ挿し軽快な足取りで男はカフェから姿を消した。
溜まった感情はどこへぶつけたらいいのだろう。
あの男にぶつけたとして、のらりくらりと交わしそうで腹が立つ。思い出して握ったままのカップが軋む音がする。
去っていった方向を、苦虫を噛み潰したような顔で見つめロナードは呟いた。
「二度と現れるな、この野郎」
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