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鹿
2023-07-03 23:57:10
4242文字
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転生現パロ
Twitterからの再掲
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土方には、物心ついた頃から前世の記憶というものがあったが、それを今まで誰にも話したことはない。現代の日本に生まれた人間に、刀を振るい銃を撃ち、戦場で命を取り合う記憶があるのはおかしなことだと幼心にも感じていたし、善良で平凡な今生の家族を困らせたくもなかった。
それにこの記憶は何の役に立つものでもなかった。親にせがんで剣道場に通わせてもらったが、記憶にある真剣や大きすぎる木刀と、竹刀の感触はかけ離れていて、むしろ慣れるのに手間取ったし、今の仕事に就いてやっと現物に触れた銃に関しても同様だった。
だから、記憶にある幼馴染と瓜二つの少女にも、これといって何を話してもいない。剣道場の後輩だと初めて紹介された時から、あの子供は妙に自分に馴れ馴れしく、他の人にはもっと礼儀正しいのにどうしたんだろうと周囲に不思議がられたが、土方だって本当のところは知らない。
ただほんの少し、少女から昔話をされたことがあるだけだ。
「土方さん、私はですね、生まれてくるとき早産で、ろくに息もしてなかったそうなんです」
聞いたことのある話だった。
「まあすぐ保育器に入れてもらって、退院するときにはすっかり元気だったんですけどね」
聞いたことのない話だった。
「あと私、こう見えて実は喘息持ちだったりもするんです。けど、私が剣道やりたいって言ったら、両親は頼りになるお医者さんを探してくれましてね。色々相談に乗ってもらえて、こうして何の問題もなく、全国に名を轟かせる最強美少女剣士の沖田さんに成長したわけです」
「そうか。良かったじゃねえか」
心から出た言葉だった。阿弥陀などに祈らずとも、人の手で病は乗り越えられる。この子供が、そういう世に生まれられたのは、間違いなく幸福なことだ。
「ええ本当に、ありがたいことです」
この話は、これでお終いで良いのだろう。
自分という人間は前世から──もっとも誰にも言わないと決めたのなら、それが前世の記憶であると証明はできないが──全てを振り切って、ただ独りで戦い続けると吼えていたのだ。
今も鮮明に思い出せる血と硝煙の匂いも、人を斬った時の感触も、未だこの身を駆り立てる焦燥も、彼らとともに見た夢のきらめきも、ひとりの狂った男の益体もない妄想として、胸の内に留めておけばいい。
それが、土方という男のたどり着いた結論であった。
全国チェーンの居酒屋でその男に再会
……
否、初めて出会った時、彼はまだ少年というべき年頃であった。
「あー、どうも?斎藤です。沖田ちゃ、先輩にはお世話に
……
なってるかなぁ?」
記憶にあるより隙の多い佇まいだった。人を殺して逃げているわけでも、間者や暗殺をしているわけでもないのだろうから当然である。自分が酒を飲めるようになったからと沖田がこの店を選んだことを、どう思っているのだろう。記憶の中の男であれば喜んだかもしれないが、今の彼にはソフトドリンクメニューを渡すしかない。
「してるでしょう!あ、この斎藤さんとはですね、私の母校との交流大会で知り合いましてね。もうすぐ卒業して私の大学の後輩になるんですよ。けど剣道部入らないとか言うんです!手合わせしてっていつも言ってるのに」
「しないっての。だいいち剣道部入ったのだって、小学校の頃ちょっとやってたって知られたせいで、ほとんど無理矢理入れられただけだしね。沖田ちゃんとこ厳しいらしいじゃん、お断りです。大学はゆるーく遊べるサークルにするって決めてるの、僕」
「本当に、義理堅いんだな、お前は」
相変わらず、という言葉は飲み込んだ。
「は」
「人数合わせで入れられたようなとこに、律儀に卒業まで付き合ってやることねえだろ。あんまり他のやつらが必死で、見捨てられなくなったか?
……
ああ、優しいって言った方がいいか」
「あーいや、サボったり抜けたりするのもかえって面倒というか、みんな熱血体育会系なもんだから僕みたいなフラフラしたのもいないとバランス良くなかったっていうか?」
真っ直ぐ褒められると、口数が多くなる。記憶にある男と同じだ。
「照れてるのか」
照れ隠しであることは昔から気がついていた。しかし本人がごまかしたいものを、わざわざ暴き立てるのも野暮であろうと前世では言わなかった。
「かわいいな、お前」
自然と口からこぼれた、以前なら言わなかっただろう言葉に、斎藤は「ひょぁ?」と謎の音声を発し、沖田はカシスオレンジを吹き出した。
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