帝都ケーニヒスベルク。大摩天楼の廊下を、ホワイトは自分の管理者である大尉について歩いていた。と、先を行く大尉が前方に誰かを見つけたらしく、声を発した。
「ハーディ大佐! ハートフィールド中佐! こんにちは!」
明るい調子で言いながら手を振る大尉の向こう側、ホワイトが覗き込んだ先には、何人かの集まりの中心に、2人の軍人の姿があった。ホワイトはすぐに独自の端末で軍のデータベースにアクセスし、名簿を参照した。
1人は明るいブロンドに青い目、無精髭を生やした中年の男性で、第2航空師団第6制圧大隊リゲルの隊長であるポール・ハーディ大佐だ。平民の出で、同じ隊の通信士に妻であるナタリア・ハーディがいると、名簿にはある。
もう1人は、きっちりと整えられた黒髪にスクエア型のメガネを掛けた、知的な雰囲気の男性。同じく第2航空師団、第9広域偵察隊シャウラの隊長を務める、ヴィン・ハートフィールド中佐だった。伯爵家であるハートフィールド家の出身で、士官学校時代からその頭角を現し始めた腕利きの戦闘機乗りであるらしい。
ハーディ大佐の方は昼食の帰りなのか、コーヒーの入った紙のカップを手にしており、ハートフィールド中佐は巡回から戻ってきたばかりらしく、パイロットスーツ姿のシャウラ隊の面々を連れ立っている。
「よう! 丁度いい所に来たな、ブルー」
「どうされたんです?」
朗らかな声で言うハーディ大佐に、大尉が問い返した。
「次の作戦の話だ。どうやらこの男のリゲル隊と、貴官のフォーマルハウト、そして私達シャウラが共同で出されるらしい」
と、投げかけた問いにハートフィールド中佐が答えた。
「そうなんですか!?」
その返しに驚いた様子で大尉が目を丸くするが、「まだ聞いてなかったか」とハーディ大佐が笑むが、ハートフィールド中佐は「お前の階級が1番高いのだから当然だろうが」と零しながら呆れた表情を浮かべている。
ポール・ハーディ大佐とヴィン・ハートフィールド中佐は士官学校の同期であることはデータベースでわかったが、会話から見るに気心の知れた関係性であるようだ。
「サイードの主要軍事都市であるバグダードを制圧する作戦だ。リゲルが主な制圧を担当し、我々とフォーマルハウトで制空権を取る」
バグダード。サイード首長国連邦の主要な都市の1つであり、同国の軍事の中心と言える要塞都市でもある。敵軍の本拠地と言い換えても良いだろう。しかし、開戦から1ヶ月が経過し、敵の戦力は大きく削られている。その状況を計算に入れれば、バグダードの制圧が成功する可能性も高い。
「作戦は3日後、リゲル隊のイリアンソスで出撃する」
「お、噂の新型空母だね? 乗ってみたいと思っていたんだよ」
と、口を挟んだのはシャウラ隊の1人で、槍を手にした女性だった。
淡く緑の差した白髪に、常盤色の目。シャウラ隊に属する中で唯一の空兵であるウメ・ウサミ大尉だ。本来であれば東方の字体で表記するのが正しいらしいのだが、ルーツの異なるメルゼブルクのデータベースには共通語での表記しかなされていなかった。それよりも、名簿には88歳と記載されているのだが、外見をどう照らし合わせてもそうは見えないことの方に疑問が生まれたが、発言の許可を得ていないホワイトは黙したまま状況を見守る。
「俺達も受領してまだ数回しか出撃してないんだけどな。乗り心地は悪くないぜ」
「新鋭の大型航空母艇となれば、装備も設備も最新なんでしょうねえ!」
ハーディ大佐に続いて、大尉が楽しそうな声を上げた。
新型の大型航空母艇、イリアンソス。数ヶ月前に完成したばかりであり、ハーディ大佐のリゲル隊が受領し、母艦としている船だ。
「ああ、俺はよくわからねぇんだが……ナタリアは喜んでたぜ」
言いながらも、ハーディ大佐がブロンドの髪をくしゃくしゃとやりながら笑った。ナタリア・ハーディ准尉はリゲル隊で通信士を務める軍人で、かつてはハーディ大佐の部下だったそうだが、そもそもはインフラ関係の民間企業に勤務していたそうだが、軍の公募で通信士に志願した人物だと名簿にはある。そういった設備関係には知見があるのだろう。
「隊長のお前が設備もよくわからんとは、ナタリアには頭が下がる……」
額に手を当ててハートフィールド中佐が嘆息するが、ハーディ大佐の方は照れたようにがははと笑いながら、またブロンドの髪をくしゃくしゃとやっている。
「隊長、そろそろ……」
と、その時だった。ふと柔らかい声が響き、ハートフィールド中佐へ呼びかけた。視界の中に突然現れたように感じたその人物は、アレン・ベルファスト少尉だった。オフホワイトの髪で少し色黒の彼は優しげな表情だが、名簿にあるデータでは通常のものだが、前歴は非公開になっている。彼の存在は今の今まで認識できていなかったが、それもそのはずで、名簿に紐付けられている彼の魔術は常時発動型の反認識術だそうだ。AIである自分の認識さえ掻い潜るとは、恐ろしいものだ。
「ああ……では、3日後にな」
と、そう言い残したハートフィールド中佐が自らの隊の隊員達に合図して踵を返した。それに続いて歩いて行くシャウラ隊の面々がそれぞれに軽く会釈をして去っていくのを目にしながら、大尉が右手をひらひらと振るのを見上げた。
「よし、じゃあ俺も行くぜ。またなブルー」
続いて踵を返し、右手を上げて去っていくハーディ大佐。それを見送りながら手を振り返した大尉がこちらを振り返り、「お待たせ、行こっか」と告げたのに「了解です」と返した。
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