不破
2022-08-14 22:21:17
3787文字
Public 空戦
 

#6




「ベイルートの作戦は上手く行ったか」

「ああ。これでサイードもしばらく抑えが利くだろう。反撃して来るにしても、通信施設を破壊してある以上は国境を超えてくるのは烏合の衆に過ぎないだろう」

 ベイルートに向かったミオソティスから連絡があった夜、ロゼは皇帝であるグリーディアの執務室で返した。デスクに搭載されている端末で執務――と言っても電子書類にサインをする事が殆どだが――をこなすグリーディアを横目に、チェス盤の上の駒を1人で動かす。
敵国サイードの都市、ベイルート。それをチェスの駒に見立てるのならば、せいぜいルークといったところだろうが、抑えたのであれば警戒すべき事柄が1つ減ることになる。そして現実はチェスのように取れば終わりのボードゲームではない。負わせたダメージは国力を削り、確実に勝利へと近づく。

「それで、国境でサイードを抑える混乱に乗じてなにをするつもりだ?」

「掃除だ」

「なるほど」

 グリーディアが寄越した返答に納得しながらも、黒のナイトの駒の向きを変える。
 此度の開戦に際して、メルゼブルク内部でも反発の動きがあることは承知している。しかし、それ以前に軍の再編と貧民街の解体に反対する貴族が一定数居たことも事実だ。まだ裏が取れたわけでは無いが、貧民街の犯罪者を利用して金を儲けている貴族も少なからずいるという噂だ。それも主に公爵と伯爵の位を持つ者達らしい。企業のトップや軍に身を置く者達がそのざまでは国内の秩序を護ることすら出来ないだろう。
 敵の駒の方向ではなく、盤のこちら側を向いた黒のナイトに目を落としながらも、ロゼは息を吐いた。