不破
2022-08-14 22:21:17
3787文字
Public 空戦
 

#6




 メルゼブルクの皇帝がサイードの飛空艇を問答無用で撃ち落としたというニュースはその日の内にリベルタリア中を駆け巡った。
 敵国となったサイードはもちろんのこと、リベルタリアの各国から非難の声が挙げられるも、メルゼブルクはそれ等を全て無視してサイードへの侵攻を開始。リベルタリアの歴史で初の戦争が幕を上げることとなった翌日、メルゼブルク軍の航空母艇であるミオソティスはサイードの都市、ベイルートの領空に侵入した。

『こちら空母ミオソティス。管制センターだ。ベイルートを補足した。デグチャレフ大尉、本当に1機だけで出すのか?』

「はい。問題ありません。この子なら1人でこなせます」

 ミオソティスの甲板。HUDとして展開した光学端末を通して聞こえてくる通信の内容に返す声が聞こえるが、自分には関わりない内容であると判断して聞き流しながら、目標であるベイルートの全図を立ち上げて標的を再確認する。
 標的はベイルートにあるサイード軍の大規模な通信施設と弾薬庫。それ等を破壊することで敵の戦力を削ぐことが目的だ。

……了解した。発艦準備に入れ』

「了解しました。出番よ、ホワイト」

 吹き抜けていく風に髪を揺らしながらも、自らの上官であるデグチャレフ大尉の告げた言葉に振り向き、平坦な声で「了解しました」と返した。

「大丈夫? 緊張とかしてない?」

「大尉、私はアンドロイドです。そのような感情はわかりません」

 続けられた問いかけに平坦な声で返すと、デグチャレフ大尉は困ったように笑った。

「そういうのは今後も勉強していかないとね。いい? 貴方は確かにアンドロイドかもしれないけど、それ以上に女の子なんだから、ちゃんと色んなことを知らないといけないの。だからちゃんと、無事に帰ってくるのよ?」

……それは命令でしょうか?」

「ううん、お願い」

 問い返した言葉に反してきたデグチャレフ大尉が肩をぽんと叩き、笑顔で後ずさる。それと同時に管制の声が端末を通して響き、発艦のシークエンスが開始された。

『フォーマルハウト2、発艦準備』

「了解。疑似思考型戦術人形 War Humanoid In-Trans Execution 、オペレーションアサルト。装備パターンBを要請」

 エメラルドグリーンの機械仕掛けの瞳が映し出すHUDに表示される装備の情報を確認しつつ、更に要請を続ける。

「空兵による迎撃も想定されます。サテライト搭載型SFFS無誘導投下爆弾QAAM空対空ミサイルへ、及び20mmガトリング砲をTLS戦術レーザー照射システムへの変更を追加要請」

 甲板から競り上がるようにして現れた大型の戦術コンテナを背に負うようにマウントし、両足には姿勢制御用のスラスターが装着された。腰には空兵が使用する飛行装置であるサテライトが装備され、大空へ飛び立つ準備が整った。

『発艦準備良し。フォーマルハウト2、発艦まで3、2、1』

『いってらっしゃい!』

 管制官に続いてデグチャレフ大尉の声が通信から響いたのを耳にし、一呼吸置いてから口にする。

……フルドライヴ」

『フォーマルハウト2、発艦!』

 管制官の声が響き小さな体躯が甲板から射出される。大空へと躍り出る身体を浮遊感が包み込む中、腰部に装備したサテライトが浮力と推進力を生み、それに加えて背面にマウントした戦術コンテナに搭載されたブースターが火を吹く。一気に加速しつつも、コンテナに内蔵されているLACM空対地巡航ミサイルを放つ。勢いよく滑空して行くミサイルを見送りながらも、HUD上に敵機のマーカーが浮かび上がったことを確認すると、即座に脚部のスラスターで姿勢を整えつつ上昇し、高度を上げる。放ったLACMがベイルートの施設を半壊に追い込んだ事を確認すると、即座に背面のコンテナをパージし、こちらに向かってくる戦闘機の機影を振り返った。

「バンディット、Su-33。数、2機……エンゲージ」

 放たれてこちらへ向かってくるミサイルの軌道を計算しつつも急降下し、構えたTLSをミサイルに向けて照射。駆け抜けたレーザーがミサイルを撃ち抜いて爆裂したところで、その爆炎を撃ち抜くようにレーザーをもう一射し、2機の内の1機を撃ち抜いた。

「戦闘機はエーテルフィールドが無い分撃墜が容易ですね」

 無表情のまま言いながらも飛来するミサイルを自由落下して回避しつつ、旋回して追ってきたところをTLSで撃ち落とす。そして、レーザーを照射したまま銃口を振り回し、別方向からこちらへ向かってきていたSu-33の主翼を両断した。その勢いのままベイルートの施設へとレーザーを走らせ、標的が爆炎を上げたのが見て取れた。

「バンディットを撃破。及び目標施設の破壊を確認しました。帰投します」

体勢を立て直しながら平坦な声で言い、少女は身を翻してミオソティスへと向かって飛ぶ。
 ホワイト。そう名のつけられた人工知能搭載型アンドロイドの初陣は呆気なく成功し、同時に、メルゼブルクはこの戦争における最初の戦闘で勝ち星を上げた。