不破
2022-07-22 21:49:37
4118文字
Public 空戦
 

#3




「失礼致します」

 執務室に響いた声に、グリーディアは端末の光学モニターに落としていた視線を上げる。と、自らが執務室とした広い部屋の入り口、そのドアの前に1人の男が立っていた。
 黒いクラシカルな雰囲気のチェスターコートはダブルブレストで、凛々しく伸びた背筋と紳士然とした佇まいは年齢を感じさせないものだが、その顔に刻まれた皺と整えられたロマンスグレーは彼が相応の年齢であることを示している。

「呼び立てして申し訳ありません」

 言いながらグリーディアはデスクから立ち上がり、男へソファーを勧めた。
 皇帝となった今、自分が他者を敬うような態度で接するべきではないのかもしれないが、彼は自分がこの国の王族に加わるより以前からこの国に仕えてきた軍人だ。皇帝となったとはいえ敬意は払うべきだろう。

「ふ……皇位を継がれた以上、そのような気遣いは忘れられた方がよろしいのでは? 陛下」

「これは手厳しい。ですが、礼節は重んじるものだと示すことも皇帝の務めと心得ております」

 小さく笑みを浮かべながらもソファーに腰掛けた男の向かいに腰掛けながらも、グリーディアは言う。その言葉に男はニヒルに笑んだ。その表情に黒い目を細めたが、男が問いかけてくる。

「それで、私をお呼びになられた理由をお教え頂けますか? 皇帝陛下」

 その問いにグリーディアはソファーに深く背を預けて息を吐き、「ええ……」と応じてから再び上体を起こすと、口を開いた。

「私が皇帝となり、このメルゼブルクを統べるに当たって、暴いておきたい事柄がございまして」

「暴いておきたい事柄?」

 口にした言葉を鸚鵡返しにする男に、グリーディアは不敵に笑みを浮かべて見せると、続ける。

「ええ、かつて貴方が犯した罪を」

 そう告げた言葉に、男は一瞬驚いたような表情を浮かべたが、すぐに自嘲するように小さく息を溢しながら目を伏せた。そして観念したようにこちらに目を向け、再びニヒルに笑んだ。とても鮮やかで深い、紫色の目を細めて。