ゆき
2023-09-17 00:06:49
6155文字
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拝啓 ネオンライトの夜(右しし)

しょくさい展示/まふさめれめぴこに可愛がられている🦁さん/一瞬だけセクキャバでバイトしてた🦁さんのキャストブログを眺めながら雑談?する話


タコパがしたい!という誰かしかの要望で、真経津の家で集まった。
そのタコパとやらも、飽きて持ち寄った具材をひとまとめに入れたりするオチがついて終わり、ひと段落した頃合い。獅子神が当然のようにたこ焼き機や食器などを片付けていると、天堂がそっとノートパソコンを持ってきて開く。持ち歩きやすそうな、薄くて軽いコンパクトなタイプだ。
たまにそれで叶のマンションの様子を見たりしているのを、ここにいるみんなが承知している。だから今日も、何かそういう類だと思って注意を払わなかった。
それならば、キッチンカウンターの方で広げる必要はないはずなので、これは完全に獅子神の落ち度だった。
あらかた片付け終えたところで、各々持ち寄った菓子類を広げ始めたのをみとめ、新しいグラスを人数分用意しようとしたところだった。
「獅子神君」
天堂のよく通る凛とした声が呼びかける。どうやら獅子神に見せたいものがあるらしい。ん?と天堂の方へ視線をやると、カウンターに置いたパソコンをずいっと画面がこちらに見えるように向けた。
「このXという店のリオちゃんというキャストだが……
「わー!!!!!!!!!!!」
グラスを落とさなかったことは奇跡だと思った。
画面に映っていたのは黒い背景に金やロイヤルブルーの派手な装飾の、いかにもな、いわゆる接客を伴う飲食店、夜のお店のブログだった。
『今日で最後』と題打たれた記事には、露出の高い燕尾のような、フォーマルをまねただけの安っぽいが煽情的な服を着た若い男の写真が載っている。
少し上から撮っているのだろう。半開きのくちびるに、薄そうな布の衣装。大胆にあいた胸元を二の腕で挟むように寄せて作った谷間とも呼びづらいそれ、丈の短すぎるパンツの裾からスラリと伸びたハリのいい太もも。店のソファの上だろうか。背景がほとんど映り込まないほど詰め込まれた画角の中に、器用にその体が収まっていた。
ありていにいえば、まあブログの説明にも小さな字で書かれていたが、セクキャバ、おっパブなんかと呼ばれる店だ。
ひとつ珍しいのは、ブログに並んだキャストがみんな”男性”なことだろうか。
「マヌケ……
「今のは卑怯だろ?!」
「卑怯もクソもあるかよ、今のは完全に敬一君の自爆だろ」
おやつ持参のままカウンターまで寄ってきた叶が、画面を一瞥して頷く。
「うん、やっぱあってたじゃん」
「まて。オレに確認する前に、オメーら全員見たのか」
「見た」
「みたよ」
「神はすべてを知っているが、より付き合いの長いものにも見てもらう必要があると思って」
「お前の心にだけ留めておいてほしかったんだよなぁ」
全員の視線が痛いほど刺さる。若気の至りのバイト先だ。あれよあれよと着せられて、本当にほんの少しの間だけ働いていた。働かされていたと言ってもいい。
「ねぇ、獅子神さんこんなところにホクロあった?」
「ホクロは描いてるんだよ……
寄せた胸のきわどいところに、ぽつりとホクロがあるのを認めて真経津が尋ねる。
写真が残る可能性を考えてのことでもあるが、見えるところに特徴があるというのは指名のアドバンテージと考えた店側の意向もあったような覚えがある。
そもそも、真経津にそんなところを見られた記憶もないのが恐ろしい。
「こんなの消させろよ。すげー前の日付じゃん、SNSまであるし」
「全部店管理でェ……つーか消えてねぇのかよぉ」
「放置すんなよな、何に使われるかわかったもんじゃない」
「消せるか?」
ソファから動きもしないで質問だけ投げかける村雨に、この話の本題を知って、天堂を見る。
「これくらい適当ならすぐパスワードが割れるだろう。やってみよう」
黎明、手伝え。と言い切る前に、叶はポケットからなにかUSBメモリサイズのものを取り出して天堂に渡していた。
「悪さすんなよ」
「神に指図するな」
軽口をたたいている二人が、どうやら何とかしてくれるようだということを飲み込み、獅子神は二人に先に飲み物を提供することにした。
買ってきた氷が一度溶けて固まってしまったのを、ガラガラと砕きグラスにいれてやる。この家はなんでアイスペールやらカクテルグッズやら一式そろってるのか、ちっともわからない。ある分には助かるので、ありがたく使わせてもらっているが。
今日は真経津がなぜか大量に取り寄せてたせいでりんごジュースだ。同じように3つ用意して、盆にのせてソファ組のほうへも運んだ。
「ありがとー。ねぇ、獅子神さん。ここはどういうお店だったの?」
「それ聞くか……?」
「私も興味があるな」
「ちょっと。ふたりとも、こっちが手塞がってんのに面白い話すんのはナシでしょ」
「この話やめない?」
 全員から否定の言葉が返ってきて、獅子神はうなだれるしかなかった。何年も前のたったひと月のことを、これから根掘り葉掘り聞かれると思うと気が重い。
「オレとユミピコは報酬を受けるべきだろ?」
「神は信じる者を救う」
「消えなくてもいいのか?」
「そりゃ消せるなら消して欲しいけどよ……。つーか、今より貧相だし、髪も染めてたし、源氏名だし、そもそも採用偽名だったし、年もごまかしてたし、気づかないだろ普通」
またしても示し合わせるような、おおきなため息が4つ。
パフォーマンスにしても、少しひどいんじゃないか。そう思って顔を見回すと、4人ともめずらしいくらいわかりやすいしかめっ面をしていた。
「獅子神君ははもう少し賢いと思ったのだが」
画面から視線を外して、天堂が驚いたように言う。
「4リンク長くて頭ついてってないんじゃない?」
叶の厳しい物言いに、さすがにそこまで言われる筋合いはない、とぶすくれた顔をすると、すかさず村雨からぴしゃりとやられた。
「あなたの先日対戦相手にさんざん過去をほじくり返されたのを忘れたのか?足を掬うための材料を、いくらでも探してくる奴がいるということだ」
「現にこうしてみつかってるしね」
真経津の言葉が、トドメだった。
「オレが悪うございました!」
「わかればよろしい」
「獅子神さんなんでこの仕事してたの?」
「在籍一ヶ月くらいじゃん。わざわざSNSまで作って、これもっと長くやらせる気だっただろこいつら」
「そんなまともな勘定のできる様子はないが」
「あ〜〜、やめろやめろ、スマホでまで見るな、URLを共有するな」
「どうせ敬一君のことだ、騙されたんだろ」
「やかましい!間違ってねぇからムカつくなホントに」
「経緯くらいは聞いても良いだろう。ほら、杜撰なパスワード管理だ、IDはadminだしパスワードは誰かの名前と誕生日か?アカウントは簡単に入れた」
最低な内容だった。
顔は出してないとはいえ、こんな杜撰なセキュリティで写真を載せられていたのかと思うと、獅子神はめまいがした。
そもそもこれ自体が法に触れることは、今更どうでもよかった。
「天堂さんてホント面白いね」
「神の導きだ」
「で、敬一君、なんて騙されたんだ?」
「早く話せ」
……ちょっとだけ時給につられて夜職、黒服やってた時期があって。たまたま系列の別の店の人が足りなくて、行ってくれって言われて」
「「「「うわ」」」」
「そんな顔すんな!!フツーに黒服だと思うだろうが!!!」
「でもキャストだったわけだな」
「ソーデスヨ、マヌケで悪かったな」
「まったくだ。で?」
「でってなんだよ」
「まだ質問に答えてないよね、獅子神さん。どんなお店だったの?」
 4対の瞳以上の視線が、獅子神に突き刺さるようだった。逃げ道など一つも残してもらえず、蛇に睨まれたカエルとはまさにこのことだと、観念するよりほかなかった。