冬灯夜
2022-11-08 22:34:06
2120文字
Public ルミナリア
 

私の元気

ルミナリア リュシヴァネ+ガスリゼ
1P目リュシヴァネ、2P目ガスリゼ(おまけ)
診断メーカーさんのお題「四十五秒以内の逢瀬」




「モラクス、頼んだものだが……どうした?」
 備品室の入口から声を掛けたリゼットは、棒立ちしているヴァネッサに訝し気に問う。
「いない筈の人がいるのは、驚くよりも先に呆気にとられるものなのだな、と……
「いない筈の……?」
 どこかぼんやりとしていたヴァネッサは、はっと気を取り直してリゼットに向き直る。
「いえあの、リュシアンがいたものですから」
「ああ。任務の合間にここに顔を出したのか」
「そのようです。すぐに次の任務ですから会えるとも思っていなくて」
「そうか。よかったな」
「え?」
 首を傾げるヴァネッサに、リゼットは口の端を緩めた。
「心配していただろう? 肩の力が抜けている」
「あ……ええ、このところ任務続きでしたし。……そうですね、少し安心したかもしれません」
 同じように、ヴァネッサは小さく笑った。プティフールサレは行き違いになったが、実際に顔を見れたのはよかった。
 そうだ、と思い出してヴァネッサは近くの棚から箱を取り出す。
「教官、一箱はあったのですが」
「ああ、それなんだが。二箱と言ったが一箱でよくなった、と言いに来たんだ」
「そうでしたか。では」
「よう、お二人さん、元気?」
 唐突にまたも入口から声が掛かる。リゼットは思い切りため息を吐いた。
「何の用だ、ガスパル」
「まあ色々と」
 飄々と嘯くガスパルに、ヴァネッサは困ったようにリゼットに視線を向ける。
 この男のことは気にしなくていい、といった類の言葉は、ブレイズの生徒ならば一度はリゼットから聞いている言葉だった。が、それを実行するにはヴァネッサは生真面目すぎた。
「モラクス、それは職員室に届けてくれ。教科の先生が使う」
「心得ました」
 少しだけ迷った後、二人にまとめて礼をして、ヴァネッサは備品室を後にした。リゼットの言葉を守りたいものの、実際に礼を欠いた対応もしかねるヴァネッサの妥協点だろう。
「真面目だねえ」
 見送って、感嘆と呆れの交じったため息をガスパルは吐いた。
「反面教師が目の前にいるからな。で、何の用だ」
「いや別に」
「色々と、とか言ってただろ」
「何か面白い話でもしてっかなー、ってとこかねえ」
……いつから聞いてた」
「『いない筈の人がいるのは』辺り?」
「お前な」
 ほぼ最初から聞いていたと自白したガスパルにリゼットは胡乱な目を向ける。もしかすると、更にその前からいたのかもしれない。くつくつとガスパルは笑う。
「ま、お前は流石に慣れてるよなあ」
「何がだ」
「いない筈のヤツがいてもさ、ちーっとも驚かないし呆然ともしないもんな」
 笑いながら言うガスパルに、リゼットの眉が跳ね上がった。
 あまりにも強く睨みつけるその目に、うっかりとガスパルの笑みも止まる。何が癇に障ったのか、と冷や汗が伝った。
……え、えーと、リゼッ――
「お前は、いるだろうが。ここに」
 低い声で紡がれた言葉に、ガスパルの目が丸くなる。
 それは吐き捨てるような調子とは真逆の意図を持った言葉で。
……おう」
 だからガスパルも、静かで烈しい怒りを、ただ受け止めた。