冬灯夜
2022-09-10 21:39:32
4783文字
Public ルミナリア
 

山道に想う / ヴァネッサ・モラクスというひと

ルミナリア ヴァネッサの独白 998年~999年辺り
#ルミナリア版ドロライ企画【ヴァネッサ】
ヴァネッサがつらつらと考え事をしているだけ
【23/2/20 2P目追加】先輩組からみたヴァネッさん



【ヴァネッサ・モラクスというひと】




 ヴァネッさんがどういう人だと思うか?
 そりゃあもう、とーっても可愛い人! ですよ!
 見た目はクール系だけど、そこがまたグッと来るっていうかー。むしろ外見も可愛いですよね。リボン超似合うし! いつかドレスも着てみて欲しいなぁ。フリっフリのもいいし、スッキリかっこよく決めてもいいし!
 って言っても、やっぱ内面ですよねー。すんごく一生懸命で、優しくて。トトのことも見えてない時から信じてくれてたし。ねーねー聞いてくれます? 凄いんですよヴァネッさん! あたしの視線や動きで「あたりを付けた」ってトトのこと見て、あっ見えてはないんですけど、相手を見てお礼言いたいからって!
 ……えへ、思い出したら嬉しくってつい。
 でもって、自分のことには不器用なんですよね。あれだけ精密な剣を振るうのに、髪を結うの最初は苦手だったりしたんですよねー。
 それに、あんなに優しいしあたしは一緒にいたいなーって思うのに、自分のことつまらないだろうなんて言うんですよ。全くもう。だからあたしは、ヴァネッさんのこといーっぱい甘やかしちゃるし甘えちゃるんです!
 つまりまあ、そんなわけで。あたしはヴァネッさんのこと、だーい好き! ってことですよ!


* * * * *


 ヴァネッサくんですか?
 ふむ、そうですね。努力家だと思います。訓練場で一番見るのは彼女ですからね。ああ勿論、他のブレイズが自主訓練をしていないという意味ではありません!
 ……あ、ええ、僕が言わずともお分かりでしたよね。え? ……そ、それはその、アセルマン家の者として、上級生として、後輩達に模範を見せるべきですから、当然のことで……
 そ、それよりヴァネッサくんのことでしょう!
 一見取っ付き難い印象を与えますが、話してみると何事にも真面目だし、こちらを気遣ってくれる、というのがすぐに分かりましたね。後輩達もすぐに馴染んでいましたし。
 イェルシィくんとは大変仲もいいし、微笑ましいのですが……ええ、はい、リュシアンです。悪党ですからね、彼は。昼行灯の副官としてはあれくらい真面目なのが丁度いいでしょうが、悪党の副官としては……彼女、任務となれば冷徹ですが、普段は人が好いですから。まあ生き生きしてますよね、リュシアンは。
 ……あれ程の実力を持ちながら、努力を怠らない。そこは似ていますね。僕も精進せねばと身を引き締める思いです。
 ですが共に茶を飲んでいる時の彼女は、年相応に穏やかですから。そうだ、今度ご一緒にいかがですか? ええ、是非。


* * * * *


 ヴァネッサさんについて、ですか。
 一番は真面目な人、ですね。あれほど何事にも真剣に取り組む方もそういないでしょう。騎士という在り方について、強い理想と、そこに向かおうとする意志と実力を備えている。……彼女が名実共に騎士となれば、多くの人の希望となるでしょうね。
 二番目以降?
 ……そうですね。真摯で誠実な方だと思います。最初、疲れないのかと思った時もあったのですが……無理に頑張っているわけでもなく、本当に心からそうすべき、そうしたいと思って過ごしているのだなと。だからでしょうか、イェルシィさんと談笑していたり、後輩達とコトロマを読んでいる姿を見るとほっとする心持ちにもなりますね。私の前でもそれくらい気を抜いてくれていいのですけどねぇ。
 おや。はは、からかってなど。いえ、少しはありますが。いま私をからかわれてるのはそちらでしょう。
 ……何と言いましょうか。
 不意に眩く感じる時があります。ヴァネッサさん自身に何か変わりがあったというより、そこにあったのにふと気付く、とでも言えばよいのか。
 騎士たらんとする彼女の意志に恥じぬよう、私も精進します。
 そして、彼女の意志が外部から翳らされぬよう。願っています。


* * * * *


「ところで、教官」
 一通り聞いた所で、踵を返そうとしたリゼットはリュシアンに呼び止められた。
「これはどういった思惑で? まさか私をからかう為、なんてことはないでしょうし」
「それはお前が面白い反応をしたせいだがな」
 リュシアンは肩を竦める。リゼットを見つめる目は冷静だが、雰囲気はいつもと変わらない。何かよくないことに巻き込まれているのではないか、という懸念はないからこその軽口だろう。
 それを受けてリゼットは苦笑する。
 悪いことではない。ただ少しばかり言い難い、というだけの話だ。
「共に過ごす学友をどう見ているか、というのを自ら語らせるのも、見えてくるものがあるからな。お前も語ってみて改めて思うことはあったろう」
「それは否定しませんが。……リゼット教官なら、直球の訊き方でなくとも可能ではないかと」
……他のブレイズには言うなよ」
「はい」
 ため息を吐き、リゼットは観念した。全くあの人は。
「保護者からの要請だ。彼女がどのような人間に囲まれているのか知りたい、と」
 リュシアンは目を瞬かせる。
「ヴァネッサさんがどのように過ごしているか……ではなく?」
「半分はそれだが、周りの人間のことが気になるようでな。私からのお前達の印象を伝えてもよかったが、この機会に訊いてみれば私も今後の指導に役立つかと思ってな」
 学友をどのように分析しているか。どのように接しているか。その分析は正しいか。どこまで見ているか。
 事実、なかなかに面白かった。
「なるほど……半分は教官の趣味だと」
「まあ、そう受け取って構わんさ」
 あれだけしっかりと騎士の心得や技を叩き込んでおきながら、いざ騎士学校に入ればそわそわと心配の素振りを見せる。本人に見せればいいものを。
 いかにも『自分は昨今の騎士学校の環境が知りたいだけだ』などと言わんばかりの質問状だったが、彼が養女のことを気に掛けているのは今に始まったことではない。
 ……ああ、年頃の女の子が好むものは何か、などと彼女を引き取ったばかりの頃に訊かれたことを思い出す。
 ふふ、とリュシアンは笑った。
「ヴァネッサさんは、愛されてますね」
「そうだな」
 お前達にもな、とリゼットは言葉にはしなかった。
 他の面々の答えを知らなくとも、きっとそれが愛に満ち溢れていることなど、分かるのだろうから。