ナガレ
2021-05-27 20:47:29
6168文字
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現パロぶぜまつ(年の差ver)

アラサー社会人豊前と行きつけの店でアルバイトしてる大学生松井の平和なゆるっとラブコメ(未満)


「前に約束しただろ?二十歳になったら飲みに連れてってやるって」

日曜日の朝、いつものようにコーヒーを飲みに来た彼はそう言った。開店直後で他に客はいないし、マスターも特に咎めない。他にお客さんが来るまでならと黙認だ。
テーブルを拭いたりメニュー表を整理したり、出窓の鉢植えに水をやったりしながら、彼と他愛もないおしゃべりをする。僕はそれが楽しみで朝早くからアルバイトに勤しんでいる。
おかげで早起きが苦でなくなり、一限目の講義もしっかりと聞けるようになった。良いことしかない。

……飲みに?そんなこと言ってたっけ?」
「言ってた、言ってた。忘れてんなら別にいーけど。暇な日いつ?金曜か土曜の夜だと助かる」
「次の日シフトが無ければ土曜日の夜でも大丈夫。確か再来週はシフトが無かったはず……

たまには休んでもいいよと、時々休日朝のシフトを外される。マスターの好意だとは重々承知しているが、彼と会えないのは残念だった。再来週はシフトが入っていなくて残念に思っていたが、まさかこんな展開が待っているとは。

「じゃ、その日で。待ち合わせは駅の改札にすっか。どっか駅前の居酒屋予約しとく。時間は後からまた連絡する」
「わかった」
「あんまし期待すんなよ。……ごちそーさん。そろそろ行くわ」
「今日はどこへ?」
「天気いいし、海の方。何かいい写真撮れたら今度見せてやんよ」
「楽しみにしてるね」

テーブルにコーヒー一杯分ちょうどの代金を置くと彼は店を出ていった。店の外から聞こえるバイクのエンジン音。それは徐々に遠くなり、すぐに聞こえなくなった。ここでコーヒーを飲んでからバイクで走りに行く。それが休日の楽しみだと前に聞いた。
今度飲みに連れて行ってくれるのも、写真を見せてくれるのも楽しみだな。写真は来週見せてくれるのかな。よほどわかりやすく浮かれていたのか、後から来たパートさんに「松井くん、何かいいことあった?」と聞かれてしまった。少し恥ずかしかった。

*****

それから二週間後、約束の土曜日夜。豊前に案内されたのは駅前にあるチェーン店の居酒屋だった。曰く、一品料理の種類が多くてご飯類やデザート類も豊富とのこと。何が好きかわからなかったから、とりあえず種類の多い店にしてくれたそうだ。

「俺はビール頼むけど、どーする?」
「うーん……同じものにしておく」
「つまみは適当に頼むから、何か食べたいものあったらついでに頼んでくれ」
「はーい」

初めて飲んだビールは可もなく不可もなく、飲めなくはないというのが感想だった。豊前は無理するなと言ったが、普通に飲めてしまった。

「もしかして、飲める口?」
「どうなんだろう?今日初めて飲んだから何とも」

でも、これ以上はいらないや。コップ一杯分だけ貰って正解だった。中ジョッキを飲み干すのは難しいし、飲みさしを引き取ってもらうのも気が引ける。

「あとは全部豊前が飲んじゃって」

見様見真似で彼のグラスに瓶ビールを注いだ。実家の父親が飲んでいるのを見ても何とも思わなかったのに、彼が飲んでいるのは何だか様になってると思う。これも欲目というやつなのだろうか。
運ばれてきた一品料理をつつきながら、僕は前々こら気になっていた事を聞いてみた。

「でも、よかったの?仕事は土日が休みなんでしょ?」
「何が?」
「恋人さん、とか……
「いたら毎週休みに朝から走りに行かねーよ」
「確かに」
「そーいうお前は?大学生っつたら、遊んでなんぼだろ」
「いたら毎週休みに朝からバイトしてないよ。というか、学生時代は遊んでいたんだね」
「まぁ、人並みには。……俺のことは別にどうでもいーだろ」

ふーん、そっか。恋人いないんだ。言質取ったぞ。僕はテーブルの下で、彼から見えないように小さくガッツポーズをした。遊んでいたのはちょっと意外だったけど。
もし今彼に恋人がいたら諦めようと思っていたが、いないなら当たって砕けろだ。……砕けたくないな。

「料理来たぞ。今日は奢っちゃるから、好きなだけ食え」

これ俺のおすすめと言って差し出されただし巻きたまごは熱々で美味しかった。

その後もあれこれ食えと勧められたが、食べ過ぎないように腹八分目未満で抑えた。少食だなと言われたけど、仕方ないじゃないか。緊張してるんだもの。

「そろそろ店出る時間だけど、この後どーする?二軒目行くか?」
――来た。
……家、行ってみたい」
「家?」
「社会人はどんな所に住んでるのか気になる」
「んー、面白いもんは何もねーぞ」

それでもいいなら来るか?と言うので、僕は二つ返事で頷いた。コンビニに立ち寄って、スナック菓子と飲み物を買った。会計の直前、カゴにあるものをこそっと入れた事に彼は気づいただろうか。
コンビニを出てから十分弱。僕のバイト先でもある喫茶店から少し離れた所のアパートの前で彼は立ち止まった。

「ここの二階。エレベーター無いから、階段な」

コンクリートの階段を上がって共用廊下を突っ切り、一番端の部屋の前で立ち止まった。今開けるからと、鍵を出す豊前。一緒に付けてあるのはおそらくバイクの鍵で、レザーのアクセサリーが付いたキーホルダーがお洒落だった。

「入って。マジで何もないけど」
「これが社会人の部屋……
「松井の住んでる所と、そんなに変わんねーと思うんだけどな」

バストイレ別の1K、角部屋。築年数や広さは僕の部屋とそう変わらなさそうだ。物は少なめで、寝るために帰るだけの部屋という感じすらある。家探ししてみたい気もするけど、さすがにそれはやめておこう。

「皿あった方がいいよな。出してくるから適当に座ってろ。床が嫌だったらベッドでもいーぞ」

ローテーブルに買った物を置いて一旦この場を離れようとする豊前の腕を引き、傾いた体を強く押した。着地目標はベッドの上。初めて人を押し倒した。見下ろしても美形は美形だった。

「松井?」
……飲み会終わって家に行きたいって言ったら、こういうことだよね」

ゼミ仲間に人数合わせで来てくれと呼ばれた飲み会(合コンとは言われてないので)で何度かそう言われた。でも、明日は朝からバイトだからごめんねと言って逃げた。僕には年頃らしい夜遊びよりも、彼と会える労働時間の方が大事だった。

「だめ?」
「ガキに手なんて出せるか」
「僕、もう大人だよ」
「まだ学生だろ。自分を大切にしろ」
「適当にオンナノコと寝た経験あるくせに。それと一緒」
「一緒って、お前な……
「僕じゃだめ?勃たない?相手にできない?」

握りしめたシーツに皺が寄る。お互いフリーなんだし、楽しんでよ。楽しんでもらえるように僕も頑張るから。
埒が明かないから、思い切ってキスでもしてやろうかと顔を近づけた。鼻先がちょんと触れそうな辺りで、口に手を当てられて止められた。

「どっちがいいんだ?」
……
「言ってる意味わかんねーなら、やめとけ。安売りすると後悔すっぞ」
「やめないし、意味なら、わかる」

蚊の鳴くような声で抱いてくださいと告げるのが精一杯だった。

……しばらくご無沙汰だっから、やり方忘れてるかも」

そのまま器用にくるりとひっくり返されて、天井が目に飛び込んできた。組み敷かれたんだと理解した。その後は記憶が飛び飛びで、事を終えたら半分気絶するように寝落ちしてしまい、目が覚めたら隣で豊前が頭を抱えていた。
僕が起きた事に気づくと、豊前は詫びを入れるから実家の連絡先を教えろと言ってきた。完全に同意の上だし、むしろ強引に誘ったのはこっちだ。僕の方こそ、超有望株を誑かしてしまい申し訳ございませんって謝罪しに行くべきだからおあいこだ。
――と、早めの昼ご飯を食べながら言ったら、そういう問題じゃないと返されてしまった。
ところで、僕としては恋人同士になりたいんだけど、豊前はその辺りどう考えているんだろうか。聞いてみたところで、曖昧にされそうだけど。彼は僕よりも少し長く生きている、ずるい大人らしいので。
仮になれたとしても、学生のうちは何もしないって言いそうだな。そういうお硬いところも好きだから、別にいいんだけどね。

……早く大人になりたい」
「もう大人になったんじゃなかったのか?」
「それはそうなんだけど……
「ならなくていーよ。今はまだいいお兄さんでいさせてくれ」
「いいお兄さんでいさせてって……ちょっと待って!ねぇ、今のどういう意味!?」
「はっはー」

笑って誤魔化されてしまった。
本当にずるい大人!


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押せ押せの年下松井は背伸びしたいお年頃(かわいいね)


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