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ナガレ
2020-10-16 20:00:09
2558文字
Public
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豊前と松井と血の話、そのニ(ぶぜまつ)
松井が流す血を勿体ないと思った豊前が出来上がりました。何となく前の話と繋がってる感じ。
1
2
――
これを虫の知らせと言うのだろうか。
「松井!入るぞ!」
豊前江が大きな音を立てて部屋の障子を荒々しく開けると、部屋の中には文机にもたれ掛かる松井江がいた。松井の右手には小刀が握られ、左の腕は鮮血に染まっている。松井は豊前に気づくと、吐息だけで「ぶぜん」と返事をした。
「何やってんだ」
「
……
瀉血」
ずかずかと部屋の中に入ると、豊前は松井から小刀を取り上げた。松井は特に抵抗しなかった。彼の手が届かない位置に小刀を放り投げ、豊前は近くにあった手巾で傷口をぎゅっと押さえた。白い手巾が赤く染まっていく。
「
……
僕は、血を流さないといけないんだ」
「今ここで流す必要はねーだろ」
松井の「血を流さなくてはならない」という衝動。豊前がその現場を見つけるのは初めてではなかった。松井は多くを語ろうとしない。己は血を流さなくてはならないと言うだけだ。今度は一体何が引き金となったのだろうか。
先日の出陣で何か見たのだろうか。それともこの間の遠征だろうか。もしかしたら息抜きに出掛けた万屋街で見ず知らずの誰かに何か言われたのかもしれない。書庫で何か読んだのかもしれない。
どれだけ豊前が両手を広げて待っていても、松井は一線を引いてそれ以上は近づかない。手を伸ばして触れるか触れないかの位置からそっと豊前を見るだけだ。豊前はそれがもどかしい。もう一歩だけ近づいてくれれば、捕まえて離さないのに。
「止まんねーな
……
」
見た目以上に傷口が深いのか、布を当てて上から押さえてもなかなか血が止まらない。こうなったら縛るしかないかと、豊前はシャツの裾を引き裂いた。嫌な予感がしたのは、ぱあつが欲しくなったので万屋にでも行こうかと、内番着から着替えた矢先の事だった。
出陣先で怪我を負った場合に自分達で応急処置ができるようにとたたき込まれた知識が、まさかここで役に立つとは思わなかった。こんな事で使いたくなかったが。
「で、心臓よりも高くするんだったか?」
切り裂いたシャツの端を強く巻き付け、松井の腕を高く上げる。豊前は松井が抵抗しないのをいいことに、そっと動かして彼の頭を膝の上に乗せた。しばらく松井の腕を持って上げていなければいけないので、この体勢の方が楽だ。
豊前の目線と同じぐらいの高さに松井の腕が来た。じわじわと染み出して滴る石榴のように赤い血が、豊前にはひどく勿体ないものに見えた。
――
松井の全てを取りこぼしたくない。
豊前は吸い寄せられるように松井の腕を伝う血に唇を寄せた。ちゅ
…
と音を立てて吸うと、松井の体がびくりと奮えた。蚊の泣くような声がだめだと制してくるが、それを遮って血の通り道に舌を這わせた。
吸い付くたびに松井の体が小さく震える。舐め取るだけでは血が落ちてくるのに追いつかなくて、まどろっこしくなった豊前は口元が濡れるのもお構いなしにじゅるりと啜った。
豊前が幾度も流れてくるそれを舌で掬い、時に歯がゆくなって啜ったりしていると、ようやく鮮血が松井の腕を伝わなくなった。豊前は松井の腕から顔を離した。そして少し冷静になり、反省した。どうやら自分は血に酔っていた。リーダーがこんな体たらくでは聞いて呆れる。
「
……
何があったか聞き出すつもりはねーけど、何でもかんでも抱え込みすぎなんだよ」
常よりも白い顔色でぼんやりと見上げてくる松井と目が合った豊前は、手の甲でぐっと口を拭った。
「俺はお前一人ぐらい増えたって平気だよ。でーじょうぶだ」
あの時は「一人で抱えきれなくなったら聞いてやるからいつでも来い」ぐらいのつもりだった。今はどうだろうか。聞くだけでは足りない、そんな気がしている。豊前は手についた血に気をつけながら、少し乱れていた松井の前髪を梳いた。
「やっと止まったな。どうだ?気分悪いとかねーか?松井?
……
松井?」
問い掛けに返事がないので、豊前は松井の頬をぺちぺちと軽く叩いてみた。
――
松井の意識は無かった。どう見ても貧血による失神だ。これは一大事だ。豊前は松井を静かに膝から下ろして横たえると、大慌てで審神者を呼びに行った。
----------
止血方法はたぶん間違ってるし、そもそもこんな風に出血するものなのだろうか
…
。
リアリティよりもイメージ重視で。
次ページはネタメモには書いてあったけど削除した、カニバリズムに目覚めたのかと思いっきり誤解される豊前オチ。
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