折り目

望普。普賢さんが子を産む話。苦手なかたはご注意ください。女体化ではありません。
おさむさんがすてきな挿し絵を描いてくださいました、ありがとうございます!

「そもそも常識の範疇を超えておるではないか」


しばらく安静だというので、太公望は平静を装いながら、たびたび普賢のもとに足を運んだ。赤ん坊は眠っていることが多かったが、たまに泣いていることもあった。そのときの普賢の、慣れなくて困っているような、でもとても慈愛に満ちた表情を、太公望はなんとも言えぬ心もちで見つめた。
赤ん坊は早い時間の夜みたいな黒い髪で、普賢とはあまり似つかない——だからそれは相手の血によるものなのだろう。もしや本当にわしだろうかと想像しては、そんなわけはないと打ち消し、では他のだれかであろうかと一瞬だけ考え、それはさらに徹底的に打ち消した。そんなわけはない。
「大丈夫、きみじゃないよ」
たまたま顔を合わせた太乙にそう言われ、太公望はムッとして睨んだ。
「言っとくけど、私でもないからね」
「んなことはわかっておる」
内密にといっていたわりに、なぜこやつが知っているのだ。そんな心の内を見透かしたように、太乙は「きみは本当に普賢のことになると冷静さを欠くね」と苦笑した。
「常識で考えてみなよ。きみらがまぐわったところで、そんなことにはならないだろう」
「そもそも常識の範疇を超えておるではないか」
それもそうか、と太乙は息を吐く。
「まあ、あの子にはあの子の考えがあると思うんだ」

相手はだれかと、訊こうとして訊けぬまま、さらに月日が流れた。赤ん坊は表情豊かになり、覗き込んで笑いかければ、笑顔を見せるようになった。普賢もずいぶん体力が戻ったようで、桃を手に「そろそろ戻らなきゃなあ」と窓の向こうに目をやる。それはそうだ、普賢は仙人になるためにここに来たのだし、いくら仙人道士の寿命が長いからといって、こんなところで足踏みをしているわけにはいかない。
「いつにしようかな。春になるころがいいかな」
腕の中ですやすや眠る赤ん坊に、いかにものんびりと話しかける。春になるころには、もうすこし大きくなっているだろうか。歩けるように、なっているだろうか。