るいざき
2023-11-23 16:53:30
11148文字
Public AC6_ラス6_銀環
 

窮鳥 解√ラス6♀

⚠️不穏
・長い
・独自の世界観考証が多分に含まれます
・アイスワームくらい長い



『あ』
 吹き付ける雪嵐を遡る赤熱がある。621の駆るLOADER4は敵駐屯地へ向かっていた。
「どうかしたか?」
……少しアセンブルの選定ミスが。戦闘に支障はありません、すみません』
「君が言うのなら心配はなさそうだな」
 珍しい事もあるものだと、管制室の椅子に腰掛けたラスティは幾つかのモニターに目を向ける。兵装や内装にはこれといった違和感を覚えなかった。ふむ、621のアセンブルデータを参照し。なるほど拡張機能の切替をしていなかったのかと納得する。
「そういえば戦友、換装したジェネレーターの使い勝手はどうかな?」
『上々です。良かったのでしょうか、現状では機体パーツは貴重かと……
「君なら長持ちさせてくれるだろうという見込みさ」
……焼ききらないように気をつけます』

 駐屯施設襲撃。アーキバス建造から封鎖機構制圧、ふたたびアーキバス占領を経て逃げ遅れた同社兵士の集合ポイントとなった要地だ。輸送ヘリにより物資コンテナがこちらへ集積されていることから、各所で放棄した基地から物資在庫を寄せ集め、再拠点化すると見られた。
 先んじて監視していた構成員より、集積完了の見込みとの報せがあり。これを鹵獲するのがこの度のレイヴン及びオペレーター・ラスティが請け負った任務だった。

 再教育センターの捕虜奪還、収容に伴い、ルビコン解放戦線で最も窮しているのは食料と薬の不足だ。
 ウォッチポイント・アルファの制圧はほぼ完了し、コーラル輸送さえ叶えば少なくともミールワームの養殖が可能となるが、放棄された氷原からアーレア海を渡り、ボナ・デア砂丘を経た西ベリウスへの輸送経路は現状戦力では到達率が下振れしており、当面はこの中央・北ベリウスに点在する敵基地の物資漁りが火急となる。
『協賛企業の支援物資は……
「まだかかるそうだ。封鎖圏外では機構艦隊がいまだたむろってる。撤退したアーキバス諸共相手取り、ステーション31のオービットは酷い有様だ」
……そうですか』
 ルビコンの黎明を覆い隠す影はあまりにも多い。抑圧を押し退け立ち上がるのは容易ではないと嫌でも理解させられる。
「──一朝一夕で勝利を掴めるとは思ってはいないが。飢えれば人も獣になる。配給量についても日ごと暴動蜂起の気配が濃くなる一方だ。私たちの仕事ぶりによっては、次に飛んでくるのは鉛玉かもしれないな」
『ラスティ』
「ああ、すまないレイヴン。君の手腕を疑う訳じゃないさ」
『そういう意味では……
 それきりレイヴンは閉口し、更にブースターを噴いて速度を上げた。


 今思えば、何故難民たちの目と鼻の先に降り立ってしまったのか、ラスティは心のうちで内省する。
 南ベリウスは特に企業間抗争に巻き込まれた者たちが多い。ましてベイラムはアーキバスの後手を踏むあまり現地民殲滅に舵を切り、街区民間人の犠牲者数は無数に登る。根絶やしか再教育か、力なき灰被りの命運は永く二者択一を迫られた。
 その境遇を知っていて尚、帥叔に倣ってタラップを踏んだ。殆ど無意識に、『帰ってきた』という望郷の幻覚に魅せられてしまった。
──今一度、望郷の心は捨て置かねばならない。地形マップ上に浮かぶレイヴンのひたむきに前進する軌跡を見つめ、負う傷の痛みをも握り締めた。


『ラスティ、目標地点まで残り500メートル。スキャンにてMT5機を確認しました。それから……目視で10機ほど』
「レイヴンは目が良いな」
 ホワイトアウトする視界での奇襲など不可能だと司令室での失笑を買ったが。一見して無謀なこのルート策定を逆手取る妙案がラスティにはあった。アーキバスの初期開拓時に打ち立てられたビーコン。事ある毎に社外秘情報を公正な手段で保存しているのだから、まったくヴェスパー第四隊長は抜け目ない。ベリウスの地平もラスティにとっては庭のようなもので、レイヴンは悠々と降り立つべき地へと導かれた。
「目下脅威はLC二機。取り巻きの四脚MTにも注意を」
『了解です、ラスティ』
 それにしても単騎奇襲など、と司令室はどよめくが、ある少女は憮然として言った。
『これが、621にとって最善です。』
 かの酔狂な首席隊長にも似た圧力が、彼女の背にはあった。

 迫る白いコンクリート壁。朱い軌跡はまっしぐらに外郭を飛び越え、撫でるようにしてタレットを破壊した。
 一斉に広域無線が、サーチライトが、雪嵐を纏うひとりを指差す。あいつが、カラスがあらわれた!!
「はじめよう、レイヴン」
 呼吸ひとつ、振り返りざまのMTは彼女の一蹴にて吹き飛んだ。



 総MT15体、四脚MT4体。LC2機。撃破数21。
 真っ先に上位機体をねじ伏せたレイヴンは、そのまま次々とMT部隊を蹴り倒していく。四つ足はタキガワの剣によりばっさり両断され、対地兵器も踏み潰された。
 次々と屠られる僚機、鉄塊に還る機体を目の当たりにした彼らはかたや敗残兵となり外郭をよじ登って逃げ出し、かたや脱出レバーを引きひとつの輸送ヘリに詰めかけ我先にと逃げ込んで飛び立った。
 解放戦線は物資に乏しい。とはいえここまで徹底的な弾薬消費制限を行われるとは。当初はラスティ自身が奇襲にあたるつもりでいたが、ここまでのパフォーマンスは出来ないだろう、と畏敬の念を込めて彼女を労う。

 駐屯地内の制圧を物語るように雪嵐も止む。621は停泊した輸送ヘリを見つけ、貨物リストを探り当てた。
「どうやらここに一括集積してから『壁』に送るつもりだったらしいな。つまりあそこにもまだ企業残党がいる、と……
 ルビコン交易の要衝たる『壁』。レイヴン及びV.IVによる協働により落とされた後は所有勢力を転々とし、最終的に封鎖機構からの鹵獲兵器によってアーキバス占領下に戻っていた。
「しかし、ここを制圧できたのは好都合だな。『壁』までの最短基地だ」
 左手には湾岸地域が見え、丘の輪郭線のむこうには微かに工廠も見ることが出来る。壁側からは尾根に隠れるこの場所は、山颪によって天候も荒れやすい。……という事は侵入方法やタイミングも限られ、道標を持ちうる者ならば姿を隠しながら出入り出来る隠れ蓑ともなるという事だ。
「拠点整備の後に我々の巣を叩こうというつもりだったんだろう。大手柄だな、戦友」
『作戦立案者はラスティです。各所キャンプの虱潰しを一蹴したのもあなたですよ』
「そう遠慮しないでくれ。私の無茶な提案をやり遂げたのは紛れもなく君なのだから」

 程なくして回収部隊が到着する。仰々しい陳謝の語句が並べたてられ、なんだか余計にレイヴンの口数が少なくなっていく。
……照れているのかい?」
『いいえ』
「そうか。……無理はするなよ?」
『大丈夫です』
──何か。隠している。
 独立傭兵レイヴンは、その謎めいた部分があるからこそ美しいのだと言いたい所だが、明らかにそのトップシークレットは彼女を蝕んでいる。というのはあくまでも直感で得た所見だが、そう問うたところでまた『大丈夫』とはぐらかされるだろう。己はまだ彼女のこころの外縁、それも衛星軌道にすら居ないのだろうな、とラスティは思う。
「まあ、不備や不安があれば遠慮なく言ってくれ。──さあ、帰還しよう、戦友」
──だが私はレイヴンを信じている。その力強い羽ばたきを撃ち落とすことは易くないと、心から思っている。
 なればこそ、根雪が解けるのを待つように、その隠し事をいつか打ち明けられるように手をつくそうと思う。
 何事も急いては事を仕損じる。そう言い聞かせて、ラスティは帰還する戦友の軌跡を見守った。

 ===

 解放戦線の地上基地では日がなMTの集会がある。極寒のルビコンでの屋外活動は拷問に値し、しかしグリッド上部は生身の人間であればやや厳しい環境となり、リフト移動の高度差はよほどの超人でなければまず高山病を引き起こす。
 自ずとグリッド内部に強化人間主軸の作戦参謀部署やら医務室が軒を連ね、対してルビコンの民は災禍以前に建てられた建造物に補修を加えて生活をする事になる。かの大災害から半世紀も経てばこれを差別と避難する声も当然上がるのだが、渦中の彼らにその偽善は通らない。
 それはそとして、MT内部はその狭さを除けばボロい兵舎や居住区より遥かにマシだった。排熱により暖がとれて、コクピットの右手側を少し改良してサーバーを置けば茶もいれられる。広域無線や個人通話も容易なMT暮らしは、存外最前線の民には気に入られており、かのツィイーがゆりかごとして育った話も相まって人々の愛着は他所よりも根強い。

 自動航行で宙から眺め下ろしていた621は、その集会の輪にMTとよく似たシルエットのACを見つけた。
『ラスティ。あれは帥父の……
「珍しいな、表に出てくるとは」
『まだお加減が?』
「いや、そういう訳では無いようだが……
 帥父ドルマヤンのACは、ゆっくりとこちらを仰ぎ見る。
 彼こそが災禍を生き延びルビコニアンに警句と思想を授けた祖である。その存在は多くの民の心の支えであり、企業弾圧から辛がら生き延びた者達にとって、ベイラムの捕虜となったドルマヤンが救助された報せは士気を奮わせるに充分であった。
『居候の身ですから、挨拶をしたいのですが……
「真面目だなあ、戦友は。了解した、打診してみよう」

 現状の解放戦線内部は、思想派と独立派の対立がある。別段、帥父が率先して実質的戦線指揮者であるフラットウェルといがみあうとかでは無いのだが。弾圧を躱し立ち上がろうとするならば民意が先立ち、よって思想と現実主義の狭間で軋轢が生まれ始めている。
 現状で槍玉に上がるのは武装採掘艦についての論争だ。撃破依頼をフラットウェルと関連深いシュナイダーが出している点は、その手の陰謀論が面白い者たちによって様々な憶測が飛び交う。はたまた、そもそも武装化したその金はシュナイダーが確保した湧出コーラル買取に充てられるはずだった、いいやあれさえ守られればコーラルにありつけた、などなど……
 しかしそういった井戸端も、結局はその採掘艦を落としたのはレイヴンであるという点に帰結すると閉口せざるを得ない。単騎でこなした異様な武勇は尾ひれをつけられ口伝されており、思想派の喧伝も相まって害鳥と罵る声も噴出しはじめている。
 ましてAC乗りやMT乗りともなると血の気の多い連中が殆どだ。友軍識別タグが正当に機能することを願って、帥父へのチャンネルを開く。

……え?』
 集会場真上に差し掛かった時、帥父のアストヒクが舞い上がった。急接近するや否や、自動航行のLOADER4を真下へ蹴り落とした。
「戦友!」
 モニターに戦闘モード起動のログ。体勢を立て直そうとするLOADER4に、パルスブレードの切っ先が届く。レイヴン機体はそのまま基地の地面に叩きつけられた。
『帥父……ドルマヤン……
 ノイズ混じりの電子音声が広域通信に響く。ログに羅列する機体情報は芳しくない。警告文がアラートを伴ってラスティの眼前に明滅する。
「ACアストヒク、レイヴンの腹から退いてはいただけないか。いくら貴方といえども無作法が過ぎるのでは?」
 手元のデータパッドを叩き付けながらフラットウェルへ伝達する。ラスティは老兵の意図を探るため、微かに聞こえ始めた息遣いにまで集中する。
……独立傭兵レイヴン……お前は……。その光は……コーラルの……
『!』
『お前は……どちらだ』
「何……?」
『貴様は、コーラルの何を知っている?』
 響めくMTの群れに、フラットウェルの退避勧告が届く。
『──人とコーラル共生の可能性追求のため、621はザイレムを撃墜いたしました。共生方法についてはまだ模索段階ではありますが……
『そうか、賽を投げるというのか……
……仰る意味が分かりません、帥父』
『お前はいずれ、ルビコンの脅威となるだろう。』
 機体が圧迫され歪む轟音、姿勢制御は効かず、ただアストヒクの足元で鴉は藻掻く。
『おそらくお前はあの声を見るのだろう、かつて私がそうだったように。──賽を投げてはならん、コーラルを、解き放ってはならん! お前には、ここで朽ちてもらう!!』

──赤い。
 コーラルジェネレーターを介したアサルトアーマーが、LOADER4を足蹴にしたまま発動した。
 MTすら退避していないまま起爆したそれは、瞬く間に周囲をコーラル燃焼の渦に飲み込んだ。

「レイヴン!!」
 通信途絶。爆発と粉塵によってセンサー類が効かない。機体反応ロスト。
『ラスティ、何が?!』
「帥父がレイヴンごと吹き飛ばした!」
 モニターから視線を離せない。彼女は……戦友はどうなった。ノイズまみれの景色を掻き分けるようにして再接続を試みる。
 騒然とする無線通信。そこにガサガサとノイズを立てて、新たな声が混じる。
『す、帥叔。無事です、我々は……。MTの連中は、損傷軽微です』
『独立傭兵レイヴンが……パルスプロテクションを設置してくれたおかげだ……!』
『おふたりを助けなければっ』
『お、おい。あれ脱出できてないんじゃ……!』
 MT搭乗者たちが管制室へ画面を共有する。燃え盛る機体が一機と、立ち尽くす機体がひとつ。
『レイヴンを助けろ!』
 MTたちの声に、はっとラスティは我に返る。
「──指揮はまかせた、フラットウェル」
 インカムを投げ出し、ラスティはハンガーまで駆け抜けた。