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無窓居室
2023-03-22 12:22:23
4575文字
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Märchen(⚠️死にネタ)(死んでるとは言ってない)
😈👹死にネタっぽいの第二弾。
こちらは最終的にハッピーエンド(結婚オチ)ですが死にネタが苦手な方は読まない方がいいかもしれません。
1
2
息の絶えたアカネの体をブラックは硝子の棺に横たえて収めた。
あれほど快活、ともすれば乱暴者で、数多の騒動を引き起こした鬼娘が、そうされてみるとまるで異国の姫君のようだった。魔王のために献ぜられた特別製の人形だと言っても信じる者があったかもしれない。
「こうしておけば体の損壊を防ぐことができます」
当のブラックはこともなげに言う。気取った仕草で棺の表面に指を滑らせた。いかにも生きている相手の手を取るかのように。
「さしあたって、オレちゃんの家で一緒に暮らそうと思っているんですが
…
」
いつもと何ら変わらない笑顔で述べるブラックに、さとしは込み上げてくるものを耐えながら頷いた。
「うん、そうしなよ
……
それがいいよ」
それだけ言うのが精一杯だった。
むしろ遅きに失したと思う。ブラックがさとしと一緒にいるとき、アカネが意識して一歩引いた位置にいたことはさとしも気がついていた。
遠慮することないのに、と言うと撮影の邪魔になりたくないから、と笑っていた。
アカネは屈託なく見えた。自分にも青鬼ちゃんやひめとしかできないことがある、と言っていたのをさとしは思い出す。
けれども、本当にそれだけが理由だったんだろうか?もしかすると──いや多分、アカネがブラックに対して抱いていた想いは友情や仲間意識で割り切れるものばかりではなかった。
だから、さとしが居ると引き返さざるを得なかったのではないだろうか。友達同士の関係に混ざりきれないものを抱えながら対等に過ごせるほど、彼女は器用ではなかったのかもしれない。
でも、きっとブラックもアカネのことが好きだった。
友達だから見ていれば分かる。
すれ違いやはぐらかし合いを繰り返す二人に、さとしは何も言わなかった。あれほどお互いに好き合っているのだから、いつかは上手くいくものだと思っていた。
今日だめなら明日、明日もだめなら明後日
……
人ならざる身の友人達のことだ。それがさとしの寿命が尽きたずっと後の世界でも、いずれ二人は結ばれると予感して疑わなかった。
「ブラックが好きなだけ、そばにいてあげるといいよ」
罪ほろぼしのようにさとしはそう言った。春の日ことだった。
ブラックは以前の通り楽しそうだった。人間界の生活を謳歌し、YouTuberとしての手腕も冴え渡っていた。
ただ、さとしと撮影をしている途中でも、不意に用事ができたと言って飛び去っていくことが増えた。それまであまりなかった事なので、さとしには行き先がすぐに分かった。
コウモリのような凶々しい翼を持つブラックだが、そのときの様子はまるでコマドリやカケスが巣に帰るようだと隣でひめが呟いたことがある。
人間界でも魔界でも、ブラックは星のない夜の草露や昼間の三日月の色、嵐の前の波の音など変わったものを集めていた。それぞれの採集には大変な手間がかかるようだったが、いつまでもやめる気配がない。それも以前にはなかったことだった。
あるとき、さとしは撮影の企画と偶然が重なってブラックの家に忍び込んだことがある。入るつもりのなかった寝室の奥の隠し扉の先に硝子の棺は安置されていた。姿の見えなかった家の主人が傍らに寄り添い、棺の上からまるでついばむように何か囁いているのを見て、さとしは慌ててその場から逃げ出した。
幾たびかの季節が巡り、さとしはもう子どもとはいえない歳になった。ブラックとの関係は変わらなかったが、その様子を見る目は少し変わったかもしれない。
ある日、撮影を早めに切り上げて、雨の最初の一粒をつかまえに行っていたブラックが戻ってきたときのことだった。これを一杯にしなければいけないんですよ、と水晶でできた瓶を指したブラックにさとしは曖昧な口調で言った。
「今もそういうの集めてるんだね。ブラックが幸せならいいけど
…
時々ちょっと心配になるんだ。あんまり頑張りすぎちゃだめだよ」
更に月日が過ぎた。さとしは大人の仲間入りをして久しくなっていた。
「本当は少し後悔してるよ。あのとき、僕はブラックを止めるべきだったのかな。今の君を見て、アカネちゃんは喜ぶんだろうか
……
」
光陰は矢のように過ぎ去る。晩年に至ったさとしはあるときこう言った。
「わしが間違っておったよ。はた目にどう見えようとブラックの想いはブラックのものじゃからな。気の済むまであの娘と一緒にいてやりなさい
……
えーと、何という娘じゃったろうか
…
ほら、赤い髪で、お転婆だが本当は優しい
……
」
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