【可惜夜廻】弐

『「すみません、よくわかりません。」』現行未通過×
※夜廻パロ




駅は電灯もなく真っ暗で、人の気配は勿論なにか別の存在の気配もない。本当なら静寂に包まれているのだろうが、やはり何処からか電車が走る音が聴こえる。最初は僅かなものだったが、駅に近付くにつれて微妙にだがハッキリしたものへと変わっている。ガタンゴトン、ガタンゴトン。一定のリズムを保ったまま、その音はずっと歌っている。

ソウゲツは改札から、駅の中を覗く。暗闇で誰かが立っているのが見えて、また異質な存在かと身構える。しかし一瞬後には、思わず声を出すほどに驚愕する。


「カンジ!!」


切符も通さず改札を飛び抜け、カンジの元へと走る。手を伸ばすより僅か先、ソウゲツは頭が割れそうなほどの大きな音に襲われる。反射的に耳を塞ぎ、立ち止まる。それが電車の到着した笛の音だと認識した頃には、既にカンジは電車に乗り込んでいる。考えるよりも先、ソウゲツも最短距離にある開いた扉に転がり込む。

プシュー、という空気の抜ける音。チリンチリンと鈴が揺らされてから、電車はゆるやかに速度を上げていく。無賃乗車だとか、こんな怪しい電車に乗ってしまっただとか、そういったことよりも先にソウゲツはカンジの安否を考えて立ち上がる。
この車両に、カンジは見当たらない。そして現在車両はどうやら最後尾のようで、このまま真っ直ぐ進めば全ての車両を確認できそうだ。窓の外では、通り過ぎる木々とその隙間から存在を主張する星がある。

扉を開いて、車両を一つ一つ移動していく。そうしてようやく、金色の彼を見つける。彼は椅子に座り、窓の外をボンヤリと眺めているらしい。ソウゲツのいる方向から、カンジの表情を伺うことはできない。


カンジ?」


反応はない。
無視されているのではないという予感、聞こえていないのだろうかという疑問、他に理由があるのかもしれないという思考。様々な感情が頭を巡りながらも、ソウゲツはカンジに歩み寄ることを止めない。


「カンジ、帰ろう。夜ももう遅い」


反応はない。
カンジを安心させようと、ソウゲツは手を伸ばす。頭を撫でてやれば、彼はいつも嬉しそうに微笑んでくれる。きっと今回もそうだ。破天荒で絵に描いたように明るく、派手なことが好きな彼。誰かを笑顔にさせるのが好きだと、そう語っていた彼。愛しいカンジ。やっとオマエを、


ギラリ


「────え」


窓の外から覗く獣の瞳が、彼を捉えたのが見えた。窓の外で浮かぶそれが何なのか、思考するより先に向こうが窓を割って車内に侵入する。ソウゲツとカンジを分断するように入ってきたそれは、一匹の巨大な犬である。

いや、ただの犬ではない。こんなにも赤く悍ましい色をした犬を、ソウゲツは知らない。尖った牙を剥き出しにして、鋭利な爪で床に傷を刻んでいる。瞳は赤く、本来白いはずの部分は黒色で気味が悪い。何よりソウゲツが息を呑んだ部分は、その牙と牙の間に見慣れた金髪が挟まっていたことである。

獣はソウゲツを一瞥することもなく、カンジを見つめている。明らかな緊急事態だと言うのに、カンジはやはり動かない。自分が殺される恐怖よりカンジを失う恐怖が大きく膨らんだソウゲツは、無意識の内にカンジへ手を伸ばし駆ける。

しかし、その手は届かない。


獣はその口を大きく開き、カンジの首を食い千切る。バキバキと、固いものが砕ける音。獣はそのまま頭部を放り投げ、胴体を貪る。

ソウゲツの絶叫が、車内に響き渡った。