【失笑の歌と蒼い月】終章A/中編

一ページ目必読
※Ibパロ



意識と視界がハッキリする。ありふれた絵画を目の前にして、カンジは立ち尽くしている。前後の記憶が妙に朧気で、自分の名前すら瞬間的に思い出せない。


……?」


ポシェットに違和感を覚え、カンジは首を傾げる。なれない膨らみに中を見れば、そこには枯れた一輪のバラがある。シワクチャになったそれは、元々何色だったのかすらも判別がつかない。何となく掌に乗せて眺めていれば、紙の本がめくれるような音と共に塵と消える。


────はて、自分は何をしていたのだったか。

気が付けば自分は、何も無い掌を見つめていたらしい。周囲を見れば、そこは美術館の一室。近くに人は見当たらないが、笑い声や気配で館内に一人ぼっちというわけでないことが分かる。
館内時計が視界に入り、集合予定時間まで残り僅かということを気付く。慌てて早めに歩きながら、カンジはその場を離れる。友人を探していた一人で館内を回っていたとはいえ、のんびりしすぎたようである。心の内で反省しながら、彼は美術館を出ていった。