【失笑の歌と蒼い月】終章A/前編

一ページ目必読
※Ibパロ




カンジはポシェットから、マッチ箱を取り出す。白髪の〈作品〉から貰ったカンテラとセットになっていたものだ。紙の類を消失させるなら、炎上させるのは非常に効果的だろう。冷静を保つよう努めながら、マッチを擦る。小さな火花が散り、マッチ棒の先に火が宿った。


「これで!」


ガシャンッッ!!
扉が破壊される音と、息を呑む気配。振り返っている暇はない。炎が揺れるマッチ棒を、本に近付ける。僅かにではあるが、本の角から焦げが広がっていく。


「あかん!! やめろッ!!」


親友の絶叫と同時、カンジは強く引っ張られる感覚に襲われる。紙の手に掴まれたのだろうと予想しながら、しかし何とかマッチ棒を投げ込む。曲線を描いて飛んだマッチ棒は、本の上に上手く着地する。

煙を上げながら本は黒く染まり、やがて大きく炎が灯った。赤く燃える本のページが舞い上がり、生えていた茨もボロボロと焦げ落ちていく。秋の紅葉が踊る、カンジはそんな幻想的な錯覚を得る。
燃えていく。茨を生やしていた〈作品〉が、ただの炭になっていく。

ガタン、と。固いものが落ちる音。振り返れば、額縁を落とした半身が居た。親友の姿をした半身は、呆然とした顔でカンジを否、本を見つめている。その肌には、黒い染みが点々と浮いている。染みは広がり、半身を飲み込んでいく。


消える。アイツの愛したオレが……また、アイツを、置いて…………


哀しそうな、悔しそうな声色。膝をついて蹲り、彼は全身を焦がしている。カンジが何かをする前に、半身は完全に黒く染まった。一瞬の静寂を挟んでから、その黒色は崩れ塵になる。額縁も炎に蝕まれ、一際大きく輝いてから固い額縁ごと完全に消滅した。

中身が違うとは言え、親友の姿をしたものが消える光景。酷く嫌なものを見て湧き出た吐き気を、カンジは片手で抑える。再び本に目を向ければ、そこには何もない。炭も焦げも、なにも。ただ割れた空っぽのショーケースが鎮座しているだけである。