【失笑の歌と蒼い月】五章

一ページ目必読
※Ibパロ



「────嫌やっ!!」


パシンッ!
ヒロの面をした自分、その手を振り払う。カンジがヒロの中身自身の半身を睨みつければ、半身は呆れた顔で叩かれた手を振る。残念そうではあるが、完全に意表を突かれたというわけではなさそうだ。予想、予感はしていたのだろう。


ホンマにアホやな」


鬱陶しそうにそう告げた半身は、持っていた額縁を改めてカンジへ向ける。途端に深淵から溢れ出るのは、極彩色をした大量の腕。大きさはバラバラだが、どれも乾いた音を鳴らしている。恐らくあれは、紙でできているのだろう。しかしどれだけ個々が脆くても、集まれば脅威であることに変わりはない。


「ま、ええわ。同意は必要ないんやし」


一歩、半身が前に出る。その瞬間から、安っぽい紙の腕がカンジを捕らえようと襲いかかる。カンジはその場から跳ねて捕縛を避けるが、空を切った腕は諦めることなく再びうねる。金色を逃さぬよう、周りを徐々に囲っていく。

このままでは袋のネズミだと、カンジは確立しつつあった包囲網をすり抜けて駆ける。ひとまず額縁の後ろ側へと飛び出せば、ちらりと目に入ったものがあった。
それは細い茨だ。ソウゲツと自分を分断したものより細いが、同じようなものだと感じる。無意識に目で追えば、その片方は自身の半身が持つ額縁に繋がっているらしい。もう片方は、先にある扉に伸びている。

考えている暇はない。カンジは止まることなく、茨が繋がる部屋に転がり込む。後ろ手に扉を閉めて、そして部屋の奥に鎮座する物に気付いた。
ガラスが粉々になったショーケースの中、四方八方に茨が生える異質な本。開いた場所から花が咲くように、あるいは心臓から血管が伸びるようにして茨が生えている。いくつかが壁に突き刺さっていることから察するに、最初に飛び出した茨もあれに繋がっているのだろう。


「(これをどないかすれば……アイツを倒せる?)」


先程までの話が丸々全部真実であると仮定して、ソウゲツに再会するのは少し不安がある。しかし、このまま捕まってしまうのも問題だ。目の前の作品があの〈作品〉の本体、もしくは付属品なのだとしたら、この本に干渉すれば半身にも影響があるかもしれない。

やれる事項を、頭の中で考える。いくつも試している時間はない。やれることは一つだけ。ポシェットを開いて、手を突っ込む。今まで手に入れたもの、今まで培ってきたものを使って最善の選択肢を導き出す。


この本を、カンジは……

▷どうする?

・燃やす
・切り裂く
・閉じる
・汚す