【失笑の歌と蒼い月】三章/前編

一ページ目必読
※Ibパロ



足音を鳴らさぬよう、ゆっくりと階段を降りる。開けた場所に出る前に、階段から覗き見る。先程までの階層と違い、この階層は明るくポップな色合いである。青空を連想させる青色に、白い雲のような柄がある。

人の〈作品〉の気配がないかを確かめて、階段を抜ける。ふと、壁に手をやった時に気付く。小さな穴が空いている。よくよく見れば、それは銃弾で貫いたような跡。注意深く確認すれば、床にも同じものが複数ある。随分と物騒な形跡に、この階層ははやく抜けたほうが良さそうだと思う。

駆けようと一歩踏み出して、ぞわりと悪寒がする。頭のてっぺんから足先まで、冷たく鋭い何かが駆け走る。


ズガンッッ!!


ほぼ無意識に、カンジはその場から飛び跳ねる。その瞬間には既に、床に穴が空いている。僅かに煙をあげるその場に、もし自分が居たならば。そのもしもの未来は、火を見るよりも明らかで。

ガチャリと、ドラマなどでしか聴いたことのないような音が背後でする。音源を見る間もなく、カンジは近くの部屋へ転がり込む。バタンとドアを背にし、バクバクと大きくなる心臓を抑える。


「ドコだ、ドコにいる」


男の声が、扉越しに聴こえる。どう考えても撃った人間否、〈作品〉の声だろう。鋭く重い殺意に満ちた声色は、カンジを恐怖させるには十分である。


ふと、ピアノの音が遠くから届く。お世辞にも上手いとは言えないが、奇妙な優しさを含んだ歌声も混じれば印象が変わる。口から飛び出るんじゃないかと思うほど跳ねていた心臓が、ゆっくりと落ち着きを取り戻す。扉の向こうから気配が消えるその頃には、入った部屋を認識できる程度に冷静さを持てる。

この部屋は青い部屋ではなく、青い画面のモニターに囲まれた部屋のようである。大小様々な画面が、鮮やかなブルースクリーンを写している。ずっと眺めていると目が疲れてしまいそうな気がして、カンジはモニターから視線をそらす。


……!」


部屋の奥には、椅子に座って背を向けている子供が居る。危険な〈作品〉かと一瞬警戒するが、その子供は背を向けたまま振り返らない。カンジは直感で、この子供は自分を無視しているのだと理解する。


あの、」

「オレは作業中だ、話しかけるな。音を立てなければ、ヤツは気付かない。向かいの部屋のやつなら、協力してくれる。さっさとこの階から降りて帰れ」

「アッハイ」


確かに内容は聞きたかったことではあるが、こうもバッサリ告げられると困惑してしまう。強い敵意は無さそうなことに安堵しつつ、好意もないことをすぐ把握して入ってきた扉に耳を当てる。
相変わらずピアノの音と、美しい歌声が遠くから響いている。よく聴けば、歌声の主は男性のようである。優しく穏やか、それでも芯を持った不思議な歌。長く聴き入りそうになり、ハッと我に返りそっと扉を開ける。

やはり後ろの子供は、何の反応も返さなかった。