【失笑の歌と蒼い月】二章/前編

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※Ibパロ




カンジは緑の部屋を開ける。途端に差し込んだ眩い光に、思わず目を瞑ってしまう。ややあって目をゆっくり開けば、そこは室内とは思えないほど明るい部屋である。青空のような壁紙、草花が咲き誇る床、天井から下がる雲のモビールと大きな電球。
部屋の中心には、茶髪の男がいる。多種多様な動物のぬいぐるみに埋もれながら、何かの作業をしている。


「ん?」


カンジが声をかける前に、男が気付いて振り向く。赤と言うには黄の混じった瞳が、まっすぐにカンジを見つめる。しばらくじぃっと観察して、首を傾げて問いかける。


「オマエ、誰だ? 新しい〈作品〉……じゃないよな?」

「えっと、オレは外から来た人間なんや。迷子ってやつで

「えっ! オマエが人間ってやつ!?」


ガバッと立ち上がり、素早い動きでカンジとの距離を詰める。物珍しそうに周囲を回りながら、カンジのことをよく確認している。唐突なことに、カンジはされるがままである。


「ふーん、へぇー……なぁ。人間って、外から来るものなんだろ? 外ってどんな場所なんだ?」

外のこと知りたいんか?」


興味津々と表情で語りながら、男はカンジの言葉を待つ。しかしカンジが外について教えようにも、それはどんな世界かを聞かれているようなもので難題である。一先ず、この空間との違いを挙げようと考える。


「外には自然……森とかがあって、空気がとっても美味しいんや。人がいっぱい居って、夜も明るい。美味しい物もたっくさんある」

それって、《美術館》と同じじゃないのか?」

「え?」

「《美術館》にだって、自然は有るぞ。こことは階層が違うけどそれに人間はいないけど〈作品〉は大勢いるし、一日中明るい。美味しい物も山盛り用意できる」


そう言われて思い出したのは、前の階層にあった部屋。力自慢の男がいた部屋は、確かに森の自然で溢れている。それに時間という感覚がないのなら、そもそも夜も存在しないだろう。暗くなる、という概念が無いのである。袋に詰められた贈り物の木苺も、とても美味しそうな魅力を放っている。思い付いた外の情報は、この場所と変わりがない。


「外と《美術館》が同じなら、ここから出る必要なんて無いんじゃないのか?」


純粋に疑問なのだろう、男は言葉を素直に突きつける。困惑してしまったカンジだが、すぐに外に残してきた者たちを思い出す。そうだ、自分には友人や家族がいる。ヒロを探しここから出て、彼彼女らの元へ帰らねばならない。


それでも外には、オレを待ってる友達とか家族が居るんや。それをほっといて、ここに居るわけにはいかん」

「トモダチ? ……ああ、仲間と同じような意味の言葉だな。うん。それなら仕方がないな。仲間がいるなら、ちゃんとそこに帰らないと」


うんうんと頷きながら、男はあっさりと引き下がる。あまりにも軽い反応に、カンジは少し拍子抜けする。男は元いた位置に戻りながら、思い出したように足を止めカンジに情報を告げる。


「オレは帰り道知らないけど、たぶんア……えっと、赤い部屋にいる男なら分かると思うぞ! じゃ、今はオレ宴の準備で忙しいからさ!」


ニカッと笑い「仲間のトコに帰れるといいな!」と応援してから、男は作業を再開する。先程は分からなかったが、どうやら色紙を使って折り紙や装飾品を作っていたらしい。
これ以上、ここにいても邪魔になるだけだろう。カンジは小さくお礼を告げてから、緑の部屋を後にする。


山のように重なったぬいぐるみの中、綿の代わりに詰められた物が溢れ落ちる。男はそれを見つけると、冷めた顔でぬいぐるみの中に押し戻す。
グシャリ。血肉のように赤い色紙が、乱暴に詰め直された。