【失笑の歌と蒼い月】一章/後編

一ページ目必読
※Ibパロ




漫画家の部屋から出たのと同時、ちょうど奥の倉庫から化粧家が姿を現す。手持ちにはなにもなく、カンジへ気軽に声をかけてくる。


「よっ! どうやら全部回れたみたいだな! トラブルもなさそうで良かった良かった!」


アハハと声をあげ、腰に手を当て化粧家は笑う。その人間らしい様子を見て、カンジは改めて疑問を口にする。


……アンタら、ホンマに人間やないんか?」


キョトンと目を丸くして、そしてにっこりと化粧家は微笑む。これまでの笑顔と違い、儚さを宿した笑顔である。細められた水色の瞳に、カンジが写っている。


「そうとも。オレたちは人間じゃあない。ここに住んでいる、《美術館》の作品さ。アンタみたいや迷子以外は皆、な。
だからここを出たいなら、作品に入れ込まないようにな」


忠告にも似た声色で、男はカンジに告げる。しかしパッとまた明るい表情に戻り、「家に帰れるといいな!」とケラケラ笑う。一言二言挨拶をしてから、カンジに手を振りつつ自分の部屋に帰っていく。

彼は自分を人間じゃないと言っていたが、カンジには実感が湧かないまま。それほどまでに彼らは人間で、人ならざる要素が見つけられない。ここに住んでいるというのなら、それはそうなのだろうが。


何にせよ、道は開かれている。カンジはポシェットを肩に掛け直し、扉の鍵穴に鍵を差し込む。カチッと軽い音を鳴らし、扉は何の問題もなく開く。
そこには、地下へ続く階段がある。蛍光灯で明るく照らされており、しかし先は深くて見えない。一度深呼吸してから、カンジは階段を降りていった。