【失笑の歌と蒼い月】一章/後編

一ページ目必読
※Ibパロ




最後の部屋の扉をノックし、中に居るであろう漫画家を呼ぶ。これまでで一番長い間があってから、静かに「開いてます」とぶっきらぼうな言葉が投げられる。
扉を開ければ、そこは紙で埋め尽くされた部屋である。その中心に、ローテーブルに漫画用具を広げ未だに筆を動かす青年が座っている。彼は他の男と違い、まだ年若い印象を受ける。青年はカンジをチラリと見ると、別段反応を返さずに筆を動かしている。


「なにか用ですか」

「あ、あんなぁ、奥の扉に絡んどる茨、どうにかしたくて

「そこの箱に入ってるマチェット持っていっていいですよ」


突き放すような言葉に、カンジは少し苦手意識を抱く。しかし先程の教師に比べれば、まだ些細なものである。気落ちすることも無く、カンジは指された箱を開けマチェットを取り出す。小さなマチェットではあるが、これなら触れずとも茨を切れそうである。


「ありがとう、使わせてもらいます」

……それ、差し上げます」

「え? でも使うんじゃ

「どうせもう使わない物です。箱の奥で腐るよりは、貴方が有用に使ったほうがいいでしょう」

……えーと、じゃあお言葉に甘えて


カリカリと、男が筆を滑らせる音だけを返すようになる。どうやら彼は、長々と会話をする気が無いようである。僅かに寂しさを覚えながらも、カンジは部屋を後にする。ふと、一枚の紙が視界に入る。紙には四角いコマだけが描かれ、セリフや人物が描かれていない。描きかけなのだろうと思い、カンジは気にせず扉を閉める。

全ての紙が同様の状態だと、カンジが知ることはなかった。