みたむら
2023-12-09 16:05:59
16692文字
Public FGO(鯖ぐだ)
 

ドキドキバレンタイン

FGO・術ギルぐだ小話。2018年バレンタインイベントネタ。

前 編


 今年もバレンタインの季節がやってきた。
 カルデアの最期のマスターである藤丸立香ふじまるりつかは、チョコレートを生産するための材料を探すため、数人のサーヴァントと一緒に様々な場所へと赴いていた。
 チョコレートで覆われたいろんな敵からチョコレートの材料が現れ、私は回収する。

(これで、どれくらいのチョコレートが作ったことになるんだろう)

 何度目か分からないため息をつく。
 事の発端は、カルデアにて入荷するはずだったチョコレートが原因不明の入荷を見送られ、チョコレートを購入することができなくなってしまったことだ。それを知らせてくれたのがバーサーカーの清姫きよひめだ。バレンタインの日にチョコレートを用意できないなんて嫌だと様々な場所へレイシフトし、辿り着いたのがアサシンのセミラミスが持つ、虚栄の空中庭園ハンギングガーデンズ・オブ・バビロンの中だった。
 セミラミスはカルデアに条件を差し出した。
 ――セミラミスはある人へチョコレートを送るため、チョコレートを生産する労働者が必要であること、労働者をくれる代わりにチョコレートをいくらでもくれても良い――と。
 清姫から「どうか、どうか……! ますたぁのためなら何でもしますから!」と半泣きで祈願されてしまい、それを隣で聞いていたマシュも言葉には出さずとも視線でチョコレートを作りたいと訴えていた。もちろん、ダヴィンチ所長代理も、バレンタインにチョコレートを作って送りたい子がたくさんいる、だからできれば許可はしてあげたいかなぁと私に詰め寄られた。

(まぁ、私もあげたいなって人ができたし、せっかくのイベントがなしにするのも勿体無いよね)

 決定権はどちらかというとカルデアの責任者であるダ・ヴィンチちゃんなのだが、私も彼女たちの祈願、そしてセミラミスの条件を呑んだ。
 セミラミスの欲しいチョコレートの量と、カルデアにいるサーヴァントの作りたいチョコレートの量とがあるので、二日、三日程度で終わるはずもなく。こうして、何度も何度も材料集めをしているのであった。
 手に入れた材料たちを手に抱えて庭園へ戻る。庭園にはチョコレートを生産する設備が整っており、材料を設備にそれぞれ取り付けていく。途端に周りはチョコレートの甘い匂いが鼻につく。
 この匂いも初めは甘くてバレンタインの当日が楽しみだなぁとワクワクしたものだが、毎日嗅いでいると胸焼けがしそうになる。甘いものが苦手と告げるサーヴァントも少なからずいるので、彼らが言う理由も分からなくはない。

「これで半分……! この調子で頑張っていきましょう、先輩!」
「うん、そうだね」

 隣で状況報告してくれるマシュ。マシュもチョコレートを作って大切な人に渡したいのか、久々にやる気充分という輝いた笑顔を向けていた。それもそうだ、これまでは新宿、アガルタ、剣豪、と支援に回っていた。セイレムでは一緒に行くことはできたが、セイレムで出会った少女――アビゲイル・ウィリアムズの子守りだったり、振りとはいえ劇団員として来たので劇のナレーションなど裏方で働いてくれた。
 たまには、自分のために走り回ってチョコレートを作るというごく普通の女の子の過ごし方をしても、神様は許してくれるだろう。

「では、そろそろ私達は執筆活動に戻らせてもらいますぞ!」
「お前はずっと執筆してただろうが……と言いたいところだが、俺も一言いえないな。まぁ俺も戻らせてもらう。締め切り三秒前、というやつだ」
「うん、ありがとう二人共」

 今回連れて行ったシェイクスピアとアンデルセンにお礼を言って見送る。
 執筆活動に忙しいという二人も、いざという時には協力してくれる優しい作家陣だ。あとで、チョコレートじゃない別の甘味をあげよう。和菓子とかどうだろうか。あ、狂の和菓子好きの謎のヒロインXオルタ――えっちゃんに奪われないようにこっそり持っていこう。そう思っていると、キャスターのギルガメッシュが痺れを切らしたかのように私に詰め寄ってくる。

「おい雑種!」
「王様……どうかしました?」
「『どうかしました?』ではない! いったいどれだけチョコレートとやらを作らせる気だ」

 中庭ではチョコレート生産をしているメンバーがいたり、女子たちの間で所謂恋バナで盛り上がっていることもあり、彼なりに空気を読んで普段の怒声は抑えている。
 乗り気じゃない彼を無理に連れてきてもらっているようなもので、文句言われたら宥めることしかできない。
 バレンタインが近い、チョコレートを作りたい、ということで主に女性サーヴァントを中心に協力してもらっているのだが、過労しすぎて疲れが出てきてしまった。そのため、彼女たちが回復するまでの間は、申し訳ない気持ちで男性サーヴァントたちにも手伝ってもらうことにした。手伝ってもらうなら――と思い浮かんだのが彼だった。
 去年のバレンタインでは、まだ彼はカルデアに来ていなかった。バレンタインが過ぎてから召喚に応じてくれ、その時から今を思えば一目惚れというやつだろうか、召喚してから術が必要な時は彼にほとんど出撃してもらっている。最初は私が話しかけても彼は手厳しい言動で私に接していた。だが、徐々に心を開いてくれたのか、少しだけ優しくなってくれた……ような気がする。
 去年までは日頃の感謝の気持ちでみんなにチョコレートを配った。でも、今年は少しだけ違う。
 大切な人ができた、初めてチョコレートをあげたいと思う人ができた。今年のバレンタインは絶対に彼にあげよう、そう決めたのだ。
 私はチョコレートの生産量を頭の中で軽く計算する。今回の素材の分で折り返しというか感じだろうか。順調ではある。

「半分は超えたところですね」
「何故、女が準備する物を男が駆り出さなければいけないのだ」
「ですよね……すみません」
「まぁ我がいなければここまで貯められなかっただろうがな! 有り難くむせび泣くがいい」

 フハハハ、といつもの高笑いをする賢王様。今回のことに関しては何も言えない。本当に王様サマサマである。
 ギルガメッシュはふむ、と何かを考え込み、気を決したかのように私に問いかけた。

「噂に聞いたが、今年のバレンタインとやらにはやけにやる気があるようではないか。去年はどうだったのだ?」
「え!」
「去年はさほど張り切っていないと聞いているが? さては、渡したい相手ができた、ということか?」
「そ、それはノーコメントで!」

 貴方のために頑張ってるんです、などとは本人の前では言えない。特に準備期間の今は!
 とはいえ、今更ながら恥ずかしくなってきた。顔が熱いけど、どうか顔が赤くなってませんように――とは思うものの、彼の深みのある笑みを浮かべている辺り顔に出ているのかもしれない。

「わ、私だって女の子だし! バレンタインデーを楽しく過ごしたいし! 女の子の頑張る日に頑張らなきゃいつ頑張るんですか!」

 自分でも何言ってるのか分からないが、これ以上追求はしないでほしい思いでそう言い訳した。去年は義理チョコというか、仲間チョコというか……で終わらせてしまったことは今では後悔しているのだ。だからこそ、頑張りたい。

「ハッ、まぁよい。せいぜい楽しむがいい」

 そう言って私が持っている材料を持ってくれる。さりげない気配りができる彼にドキドキしてしまう。

(やっぱり、その――好き、なのかな?)

 時々意地悪なときもあるけど、なんだかんだこうして協力してくれる。何となく、バビロニアでの王様を思い出す。生きていた頃の王様も最初は私たちのことに耳を傾けてくれなくて話を聞いてくれるまですごく時間がかかったような気がする。

「ありがとうございます。えーっと、それじゃあ私、セミ様に報告してきますね!」

 そう言って私は逃げるようにその場を去った。これ以上いると“私”は“私”じゃなくなりそうになる。この気持ちは当日まで心の中に留めておきたい。

(失敗しないためにも、頑張ろう!)

 セミ様ことセミラミスの元へ向かい、進捗情報を伝えると引き続き生産を続けよ、と指示を受けて、今度は食堂へ向かった。
 食堂の台所ではより一層チョコレートの匂いが充満していた。食堂では準備している女性たちが奮闘しているようだ。中には静かに淡々と苦もなく手作りチョコを作る人もいれば、手作りは初めてかというくらい危うい手さばきで奮闘している人もいる。みんな、いろんな想いをチョコレートに込めているのが分かる。

「よし、私も頑張る!」

 私もみんなの分も作らなきゃいけない。カルデアの職員の人、ダ・ヴィンチちゃんやマシュ、このカルデアと契約しているサーヴァントたちに。そして、ギルガメッシュに私の気持ちを伝えるために。

「先輩!」
「マシュ! ごめんね、遅くなっちゃって」
「いえ! 私もさっき来たところですので。エプロンをどうぞ」
「あっ、ありがとう」

 マシュからエプロンを受け取る。特に柄もない、ピンク色のシンプルなエプロンだけど、ピンクだからか、気持ちが引き締まる。

「マシュ、疲れてるところごめんなんだけど、私のチョコレート作り、協力してね!」

 私はエプロンを着た後、マシュに頭を下げてお願いする。マシュは慌てて私に顔を上げさせる。マシュは手先が器用で、料理も上手な方だ。一方私は料理は中の下くらいの腕。苦手ならば慣れている人からアドバイスを貰いつつ理想のチョコレートを作る方がいいと私なりの結論だ。

「一緒に、頑張りましょう! 先輩!」
「おー!」

 こうして、私とマシュの手作りチョコ制作が始まった。