みたむら
2023-12-09 15:31:17
13424文字
Public FGO(鯖ぐだ)
 

マスターは忙しい!

FGO・術ギルぐだ小話。
カルデアで忙しく手伝いしてるぐだ子を術ギルが休ませる話。


後 編


 目を覚ます。時計を見ると、朝食の時間にしては早い。

「今日は……

 今日の予定を頭のなかで思い出す。カルデアの仕事は食事が終わってから始まる。昼頃は確か王様に用事を言われたんだった。忘れないようにしないと。
 体を起こして身支度を整えると廊下を歩く。しかし、ちょっと体がだるいような、そうでもないような。

「ちゃんと寝たんだけどなぁ」

 確かに肩とかちょっと痛い。重たい物を運んだこともあったからだろうか。今日は無理しないようにしよう。
 廊下を歩いていると、マシュと会う。挨拶を交わし、食堂に向かう。

「先輩、大丈夫ですか? 少し顔色がよくないです」
「そうかな?」

 朝食を受け取り、空いている席に座りながらマシュが心配そうな顔を私に向ける。

「最近、ずっと手伝いをしているみたいですがそろそろ体を休ませたほうがいいです」
「うーん、でもじっとしているのが好きじゃなくて……

 これは私の我侭だ。ぼうっとしている時間が勿体無く感じる。だからこの体のだるさも微々たるものなんだ。

「ドクターもダ・ヴィンチちゃんも心配していましたよ」
「そんなに無理してるように見える?」
「はい」

 こくこくと彼女は頷く。即答されるほど私は顔色が悪いのか。

「あまり無理はしないでくださいね。困ったことがあったらいつでも呼んでください」
「ありがとう、マシュ」

 その言葉だけで十分嬉しい。そんな会話をしながら朝食をすませ、ドクターのところへ向かう。今日はとある資料の材料を集めるため、サーヴァントを連れて鍛錬所へ赴くことになった。
 ドクターに頼まれたものを手渡すと、少しめまいがした。そして体もぐらりと揺れた。倒れそうなところをドクターに肩をつかまれ、倒れずに済んだ。

「立香ちゃん大丈夫? やっぱり今日はゆっくり――
「大丈夫だから。少し休憩したら治る」

 ドクターの心配している顔を見ていると笑顔で何でもないと言った。そういう顔をさせたいわけじゃないのに。誰かの役に立ちたいのに、これじゃまた迷惑をかけてしまう。
 昨日だって、王様に掃除の後始末を頼んでしまうほどだ。それに、これから王様の用事を済ませないといけない。

「それじゃ、私はこれで!」
「あっ、立香ちゃん!」

 手を上げて管制室を後にすると、背後でドクターの声が聞こえたが、聞こえていない振りをした。ごめん、と心の中で謝りながら。
 まずは図書室へ向かう。何回か、王様と一緒に過ごしたことがあるのでその時読んでいたものを思い出させる。

「あれと、これと……これだけあればいいのかな?」

 絵本はいらない、と却下されたので魔術に関する本を中心に持っていくことにした。
 よいしょ、と言いながら本を手に持つ。少し多すぎたか、と思いつつ図書室を後にして資料室へ足を向ける。
 資料室になんとかたどり着いた。扉に近づけばスーッと扉が開き、機械音が私を迎える。本を抱えながらギルガメッシュの姿を探す。資料室に来いとは言われたが、どの辺りにいるのかは分からない。資料室とはいえ、結構広い。もしかしたら本棚の方へ行っているかもしれない。だが、割とすぐに見つけることができた。
 椅子に座り、何か読み漁っているようだった。

「王様、来ましたよ」
「遅いぞ雑種。どれだけ我を待たせたと思っている?」
「ご、ごめんなさい。いろいろとありまして」

 真紅のように赤い瞳が目を細め、私を軽く睨みつける。私は申し訳ないと思いながら本を机に置く。
 彼は軽く本の背表紙を見る。小さく「ま、妥協点だな」と呟く。

「それじゃ、私まだやることあるから――
「待て」

 用事は終わったはずだ。資料室を出ようとしたところをギルガメッシュに呼び止められた。

「その“やること”とやらは、また雑用か?」

 真剣な眼差しに思わず緊張が走った。どうしたのだろう。

「我はなんと言ったかもう忘れたか。休めと何度言わせる?」
「十分休んでるよ。昨日は早めに寝たし」
「本当にそうか?」

 ふと脳裏によぎる。今日一日の行動を。
 早めに寝たと言っても体がいつもよりだるかった。起きても満足のいく起床ではなかった。朝食時にマシュに心配された。そしてつい先程、雑用をこなした後にドクターの前でめまいが起こり倒れかけていた。

「我の千里眼を甘く見るなよ。ごまかしているだけだということを知らぬわけがなかろう」

 一歩、彼がこちらに歩いてくる。その歩みはいつもと変わらないはずなのに、何故か恐怖を感じた。思わず、一歩後ろに下がる。

「私のことは私がよく知ってる。休憩しながらやってるし――
「にしては、あの医師から倒れかけたと聞いたが?」

 何故そんなことを知っているのか。理由は分からないが、ドクターが彼に伝えたか、彼が千里眼で視ていたかのどちらかだろう。おそらく後者だと思うが。

「み、みんな心配しすぎだよ! ほら、元気だから! ね!」

 元気だと両手を広げて訴える。私はただ、誰かの役に立てたかっただけだ。困っている人がいれば助けたい、いつもみんなに迷惑ばかりかけてるから。
 近づいてくる彼に合わせて交代していく。そして、テーブルの上にコップがあり、彼はそれを手に取り、より近づいてくる。いったい何を企んでいるのだ。

(ま、まさか。私を――

 殺すかもしれない。そう思うと私はどうしたらいいのか分からなかった。
 私は彼に何かをしたのだろうか。もし彼がアーチャーのギルガメッシュならば、躊躇なく私を殺すだろう。それには何かの理由があって。だが、彼はキャスターであり、アーチャーと比べると落ち着きがある。だが、こんなに怒っているのは初めて見る。だからこそ、何が起こるのか予想できない。

「何でそんなに怒って、らっしゃるんですか?」
「さぁ、なんでだろうな」

 そう答えた彼の声もまた怒りを表している。持ってくる本を間違えただろうか。それならそうと言ってくれ、急いで図書室に取りに行くから。何も言わずに睨みつけられているのが怖い。

「何故、我が雑種ごときに怒っているか、本当に分からんのか?」

 考えてみる。彼に何かをしただろうか。ああ、もしかして昨日ここで掃除の後始末を頼んでしまったからだろうか。しかし、それは私がやると言い返したのにさっさと行け、と帰してくれた。だが、怒っても無理はないのかもしれない。
 後ろに何か気配を感じた。後ろに下がっているうちに壁にきてしまったらしい。逃げ場がない。目の前にはギルガメッシュが近づいてくる。そして彼がコップを持ってない手で上げてくる。
 ――殴られる……!!
 思わず目を瞑る。しかし、やってくるだろう痛みはやってこない。顎に手を添えられ、くいっと上に向けられた。驚いて目を見開いた途端――――

「っ……!?」

 唇に温かいものが触れた。ギルガメッシュがキスをしてきたと頭を理解するのに少し時間がかかった。

……ふ、ん。はぁ……

 息が苦しくなって離れようとしても、顎にてを添えられたままなので逃れられない。口が開いたところをまたキスをされてしまう。しかし、口の中に液体が入ってきた。舌から味わうに、紅茶だ。何故紅茶をこんな形で……と思うと何か固形のようなものが入ってきた。突然のことで、吐き出すこともなく、そのまま飲み込んでしまった。
 ごくごくと喉が鳴ったのを見たのか、彼が唇を離した。私は吐き出そうとしたけど、すでに遅かった。

「お、うさま……なにをっ……! ――……!!」

 ふと視界がぼやけた。ギルガメッシュの表情が二重にも三重にも見えた。いったいどうしてしまったの、私。
 そして次第に瞼が重くなっていき、目を閉じた。力が抜けていき、体が揺れた。倒れると思ったときには足に力を入れる時間がなかった。

(なんで、急に……

 まるで、今までの疲れがどっと来たかのようだ。倒れる、と思ったときには肩に大きい手を掴まれた。

「よい。そのまま眠ることを我が許そう」

 ギルガメッシュがそう言って私を抱きしめ、閉じろというように目に手を優しく添えてきた。何かを言い返さなくては、と思ったときにはもう意識が遠のいていく。
 私はそのまま意識を手放した。

「世話の焼ける奴だ」

 最後に聞こえたのが、そんな優しい言葉だった。

* * * * * *



……

 ゆっくり目を開いた。意識が少しずつ戻っていくのを感じると、状況を把握する――前に上から声が聞こえた。

「目を覚ましたか、雑種」
「え……?」

 上を見れば、本があった。そこから顔を見せるギルガメッシュ。どうしてこんな至近距離に彼がいるんだ。

「わ、わたし……
「いい。そのまま寝ていろ」

 起き上がろうとしたのを彼の手が制した。辺りを軽く見渡す。資料室で、上にはギルガメッシュ。そういえば、膝の上に私の頭が乗っている。……これは膝枕をしてもらっているようだ。

「私、あれから……
「ざっと2時間ほど寝ていたな」
「に、2時間!?」

 私は慌てて上半身を起こした――のだが、彼の呼んでいる本の背表紙に当たってしまい、額に痛みが走った。

「っ――ったた!」
「何をやっているのだ雑種。寝ておけと言ったであろう」

 そう言って彼は読んでいた本を閉じた。

「私、行かなきゃ……
「もう全て済ませた」
「え?」
「全て終わらせた。貴様が出る幕はもうとっくにないということだ」

 皆まで言わせるなと怒られた。
 事情をもっと詳しく聞いてみる。私はギルガメッシュのキス――という名の口移しで睡眠薬で飲まされ、二時間ほど寝ていたらしい。何故睡眠薬を飲ませたのか聞けば、そうでもしないと休息しないだろうと怒られてしまった。

「顔を見せてみよ」

 そう言って顎に手を添えて顔をあげられる。じっと見つめられた後、彼が満足そうな顔で言う。

「まぁ、随分マシな顔になったようだな」
「た、たしかに……

 完全に体調が戻ったわけじゃないけど、朝のようなだるさはなくなっている。

「貴様は阿呆か! 自己管理もマスターの仕事であろうが。マシュも心配していた」
「マシュが?」
「朝、走って部屋に入ってくるなり“先輩を止めてくださいお願いします“と言ってきたほどだ」
「そ、そんなに……?」

 あのマシュが他人に助けを求めるとは珍しい。いや、あのマシュでさえ心配するほど私の顔色は悪かったのか。確かに、今日はすごくだるかった。

「役目を果たすことはよい。だが、貴様は人間だ。人間は時に休まねならん。急いで事を進めても体を壊せば元も子もないだろうが」
「うう……ごもっともです」

 本来なら正座して頭を下げるべきなところを、膝枕してもらっているため、実行に起こせなくて申し訳なく思う。

「ごめんなさい」

 深く深く、反省している。こんな状態だが、とても反省している。

「信じられんな」
「うっ、どうしてですか?」
「大丈夫だと言いつつ無理をしてきた奴が言える立場か?」
……はい、すいません。私が悪かったです」

 のそのそと、上半身を起こすと彼と向かい合わせになる。

「無理、してたのかもしれない。本当にみんなに心配かけてばっかりだ」
「まったくだな。話は変わるが――次のレイシフト、明日になったと医師が言っていたぞ?」
「え?!」

 私は聞き間違いかと思い、聞き返す。しかし、彼は小さく鼻で笑い飛ばしている。

――冗談だ。そうなったら貴様のその体調でレイシフトできるのか? 我がマスターよ」
「う……それは……

 いきなり明日から行ってこいと言われたらそれはとてもむずかしい。いつ敵と遭遇してもおかしくないし、レイシフト先では生き続けなければいけない。カルデアで疲れを残したまま旅に出るのはつらい。
 だからこそ、マシュやギルガメッシュをはじめ、皆何度も体調を尋ねてきていた。大丈夫かと。少し休憩しようか、と。その好意を私は無視をしていた。そのくせ、自己管理を怠っていて、こんなんじゃ全然だめだ。
 ギルガメッシュは己の膝を軽く叩いてこちらを見上げている。

「王様?」
「何をしている、さっさとせよ」
「で、でも……
「ええい! まだ我に説教されたいというか」

 どうやら膝枕をしてやると言っているようだ。またしてもらうのも申し訳ないと断ったのだが、無理やり私を膝枕させた。

「飯の時間になれば起こしてやる」
「その間どうするの?」
「言わずとも分かるであろう」

 そう言ってさっきまで読んでいた本を取り、読みかけのページを開いた。それ以上は話を聞かぬというように本に没頭し始めた。
 私はそんな彼を見て、目を閉じた。

(王様も心配かけてしまったな)

 怒ると怖い賢王様だが、これも私を気遣ってくれているからなのは分かっている。めったにない彼の好意に私は甘えることにした。

……ありがとう、王様」
「ふん」

 私はお礼を言ったあと、彼の言葉を聞いて安心して、今度こそ眠りについた。

「マスターは忙しい!」 END