みたむら
2023-12-09 15:31:17
13424文字
Public FGO(鯖ぐだ)
 

マスターは忙しい!

FGO・術ギルぐだ小話。
カルデアで忙しく手伝いしてるぐだ子を術ギルが休ませる話。


中 編


 ふと目を覚ました。見えたのはテーブルだ。
 ギルガメッシュは何度か目を開いたり閉じたり繰り返していると視界が慣れてきたのか、意識が完全に起きた。読書をしていたが、気がついたら宝物庫から出したソファに身を委ねて寝てしまったようだ。少し足腰が痛む。体を起こすと、辺りは真っ暗だった。

……雑種?)

 人の気配がない。寝る前まではベッドに横になっていたはずだ。そう思いベッドに視線を送るとそこにはきれいに整えられたベッドの姿があった。そこに雑種――藤丸立香の姿はない。
 時計を見る。時計を見れば、飯の時間にしては少し早い。部屋に戻ってからざっと二時間ほどだろうか。いつの間に部屋を出ていったのだろう。
 部屋の主がいないのならここにいる理由はない。ソファを宝物庫に戻すと部屋を後にする。
 廊下を歩いていると、ふと脳裏によぎった。
 ――ドクターに言われてこの資料室の整理を頼まれたんだ。で、普段はそんなに使ってないのか、ゴミが少しひどいから掃除も兼ねてやってる。

「まさか、あの部屋に?」

 あの時、資料室で本の整理と掃除を同時にやっていたと言った。やると決めたことはやらないと気がすまない性格でいい意味で生真面目、悪く言えば力の抜き方を知らない。
 おそらく、予想が正しければ……と千里眼で視る。すると予想通り、雑種は資料室にいた。

(手間のかける奴だ……!)

 そう思うと、資料室へと足を向けていた。
 資料室に着き、扉を開けると少女の姿を探す。確かにここに、人間の気配がある。
 歩いていくと、腰を落として床に何かをやっているマスターの姿があった。本棚の影に隠れ、様子を見る。

「こんなにゴミがいっぱいだ……

 ちりとりをトントン、とゴミを奥に入れるよう箒で滑らせる。そして、ふと腰を上げて彼女はパンパンと手を叩いた。

「よしよし、これで綺麗になった!」

 我がマスターはとても満足したように笑顔だった。だが、それが逆に心配になる。
 レイシフトから帰ってきて、二、三日は休息を取っていた。だが、カルデアの仕事を手伝いたいと言い出したのは昨日からだ。テキパキとこなす――とまではいかないが、今日のようにときに失敗しつつも役に立つのなら、と休まず職員の手伝いをしているのだ。一度、医師――Dr.ロマニに忠告をした。このまま仕事させたまま次のレイシフトさせればいずれ倒れるだろうと。それは医師にも分かっているのだが、何よりも彼女が話を聞かない。何を急かしているのか分からないが、こうやって何かを見つけてはこなしていくのだ。

(小間使いのくせに生意気な小娘だ……

 我の忠告を聞かず、そして我の言葉にも耳を貸し、職員やサーヴァントの話にも耳を貸し、困っていれば手を差し伸べる。

(ふん……なぜか、懐かしく感じる)

 記憶がないが、この感じはおそらく“懐かしい”というのが正しいだろう。
 どこで体験した? 生前の記憶か。それともいつかの夢か。部下の報告を聞きつつ、誰かの報告を聞く。聞き分けるのは難しいが、政務をしつつ“誰か”の報告が次第に楽しみにしている自分がいた。そしてその報告は次第にウルクの民にも響き渡り、嬉しく思えた。

(まるで、昔の我のようだな)

 部下ばかり背負っていられないと、自らできることは自分で今までやってきた。だがそれでも、心の疲れはとれない。表では評判がよくても、喜ばれても、身体は常に疲労。疲労。疲労。己に休息はなかなかこないのだ。それが自分だったのが、今は我がマスターのようなものだ。
 誰かに頼めばいい、一緒にやってくれと。だが、この少女は弱音を吐かず、自ら取り組む。我の言葉にも耳を傾けつつも投げ出さない。正論を言われるとそのまま受け止める。
 掃除が終わったと思えば、今度は窓を拭き始めた。雑巾をしぼり、綺麗に拭いていく。

「雑種」
「ああ、王様。どうしたの?」

 顔を出すと雑種がこっちに顔を向けるなり笑って応える。疲れているだろうに、疲れていないように元気に振る舞っている。

「何をやっている、もう食事の時間だぞ」
「え? ――あ、本当だ」

 雑種は慌てて掃除道具を片付ける。だが、バケツに足が当たってしまったらしく、床に水がこぼれてしまう。

「ああ!」
……何をやってる! 雑種」

 相変わらずどこか抜けている。真面目なのはいいことだが、たまにこういったミスも出てくる。

「拭かなきゃ――
「雑巾を貸せ」
「え、でも……
「気が変わらんうちに貸せ、さっさと終わらせるぞ」

 自分でやると言う雑種に、雑巾をぶんどる。一人でやるより二人でやったほうが早い。我が床を拭いている姿を少し見て、小さく「ありがとう」と言って新しい雑巾で雑種も拭き始める。
 拭いている間、会話はなかった。拭いてはバケツに雑巾を絞る。絞った音が室内に響いている。

「ここは我がやっておく、貴様はさっさと食事に行ってこい……それと、今日は早めに寝ろ」
「え、まだ掃除残ってるんだけど……
「いいから、今日はもう休め。同じことを何度も言わせるな」

 有無は言わせないように睨みつける。でも、と口ごもる。雑種が持っている新しい雑巾を取り、食事に行かせる。申し訳ない表情で部屋を出て行く。

「じゃ、じゃあお願いします、王様」
「ふん、さっさと行くがよい」

 雑種は手を降って食堂へと向かった。小さくため息をついて、濡れた水を拭く。
 正直、こんな雑用を何故我がやらなくてはならないのかと思う。普段ならそのまま雑種にやらせ、我はそのまま部屋に戻るが、手を出したのは千里眼で彼女の体調がよくないことを視たからだ。

(そろそろ休ませるべきだな……手のかかる小娘だ)

 濡れた床はきれいに拭き取った。バケツと雑巾を片付け、資料室を後にする。

(予定を少し狂ったが、少し一服するか)

 そう思い、食堂へと足を運んだ。食堂はほとんどの者は食べ終わった後なのか、人が少ない。雑種は食べ終わったのか、食堂にはもういなかった。
 紅茶を受け取り、座る席を選んでいると、珍しい人物に目がいった。
 ――レオナルド・ダ・ヴィンチ。普段は工房に篭もるが、たまに医師と管制室にいることもある。

「貴様がここにいるとは珍しいこともあるものだな」
「ああ、賢王様か」

 一服をしていたのか、顔をあげると少し驚いた様子で挨拶をする。彼女の席には他に誰も座っていないため、相席することにした。

「賢王様も、珍しいね」
「ま、少し疲れたからな」
「立香ちゃんの後始末を引き受けたんだって? 彼女が言ってたよ」

 そう言って何かを企んでいるような笑みを見せる。

「その後はどうした、雑種は」
「そのままマシュと部屋に戻ったよ。王様に言われたから今日は早めに寝ることにするって」

 どうやら言うことを聞いているようだ。心の中で安堵する。最近の彼女は本当に休息らしい休息をとっていない。だからこそ、あのようなミスを起こしてしまったのだろう。

「ダ・ヴィンチと言ったか。貴様は雑種をどう思う?」
「どうって?」
「言わずとも分かるであろう」

 そう言えばダ・ヴィンチは小さくため息をついた。薄々感づいているようだ。

「少し、働きすぎだと思うよ。本来ならもっと自由に休むべきだと思う」
「なら何故奴に雑用を押し付ける?」
「仕方ないでしょう。それが彼女の生きがいというか、そういう性格というか、放っておけないんだよ、きっと」

 もちろん、私としてはマスターとして十分頑張ってるからこういう時にこそ休んでほしいとみんな思ってるよ、と言って自分のティーカップに口をつける。

「そういう賢王様だって、彼女に言葉をかけてあげたらいいのに」
「言っているがな、聞かん」
「彼女らしいね」

 ここで会話が途切れ、どちらかのため息か分からないが漏れた。あるいは両方かもしれない。
 ダ・ヴィンチは何かを決心したかのように、ポケットを探る。何をしているんだと思いながら見守っていると、はい、とテーブルの上に置いた。

「これは?」
「睡眠薬だね。これ以上彼女に負担をかけるわけにはいかないから、一日くらい寝てもらうってのはどうだい?」

 透明の袋に入った白い固形のもの。効果はどれほどか分からないが、睡眠薬を彼女に飲ませて休ませる、という作戦らしい。

「まぁ、眠気を誘うだけだから完全に疲れを取れるわけじゃないんだけどね……その様子だと、ろくに寝てないんだろう?」
「む」

 時々、鋭い推理をする時がある。それはマスターになったときからずっと影でサポートしてきているからだろうか。

「賢王様、どうにかして睡眠薬を飲ませて、休ませてあげてほしい。私もロマニも了承してるからさ」

 そう言って睡眠薬が入った袋を我の手に持たせる。返そうにも返せない状況だ。
 ――何故我がこんなことを……

「仕方ない。我がもらってやろう、光栄に思え」
「頼んだよ。薬を使うかどうかは賢王様におまかせする」

 そう言ってダ・ヴィンチは飲み干したティーカップを持って席を立つ。これから研究しなくてはいけないと言って食堂をそそくさ後にした。
 我は渡された睡眠薬をじっと見つめる。
 そして、コップを返却し、食堂を後にした。向かう先は雑種の部屋だ。
 部屋に着くと、鍵がかかっていなかったらしくすんなり部屋に入ることができた。

「あれ、王様……どうしたの?」

 風呂上がりだろうか、くくっている髪も下ろしており、顔も火照っている。

「雑種。明日の昼、図書室の本を持って資料室に来い」
「どんな本がいいの?」
「貴様に任せる。ただし絵本は却下だ」

 以前、暇つぶしに何か本を持って来いと頼んだことがある。彼女が持ってきたのは様々な本だったのだが、何故か絵本まで持ってきたのだ。彼女曰く、何でもいいからって言ったから片っ端から取ってきた、ということらしい。
 流石に絵本を読むほど馬鹿ではない。むしろ雑種、貴様が読むべきだ。

……分かった。お昼ね」

 タオルでゴシゴシと髪を拭き取りつつ、彼女は頷いた。

「我は部屋に戻る。夜更かしはするなよ、雑種」

 そう言って部屋を出ようとしたところ、彼女に呼び止められた。

「今日は、いろいろとありがとう」

 助けてもらってばっかだったね、と突然お礼を言いだした。それに素直に受け取ることができず――「ふん、手を煩わせるなよ」と言って今度こそ部屋を出ていった。