tsubo_ichiro
2026-07-22 16:38:57
5537文字
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マサルとディーンくんを交換するSS ダイヤ視点

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こちらのダイヤ側はこんなんだったかな〜というやつです!マサルはベルウスさんとデキてる時空 とっても IF


 目が覚めたら、腕の中にマサルがいた。

 いつもならディーンが収まっていて、眠たげな可愛い顔で俺を見上げて「おはよ」と笑いかけてくれるその場所に、30年以上前に死んだ親友がいる。もうすっかり忘れてしまったものと思っていた癖っ毛も、つむじの形も、一目見ればちゃんとあいつのものだと認識できた。ただ、思い出よりも幾分か髪の色が赤みを帯びている気がする。

 夢か?夢だろう。そうじゃないとおかしい。それにしたって、マサルの夢を見るなんて何年振りだろうか。しかもこんな内容の。自分の中にまだそんな未練が残っていたのかと驚く。こんなシチュエーションを想像するのは久々すぎて、何をすればいいのかわからなくて体が硬直したまま動かない。そうこうしていたらマサルがこちらを見上げてきた。
 懐かしい顔。埋もれていた記憶が急速に息を吹き返すのを感じる。ただ、その瞳だけは見慣れた黒ではなく、炎のように燃える赤色だった。

……ダイヤ、なのか?」

 半信半疑といった様子で名を呼ばれる。マサルの声は、こんな音をしていたっけ。
 死んだ時の、18歳の頃と同じ若々しさのマサルからすれば、50も過ぎた俺の姿は昔とは別物に映るだろう。乾いて張り付いた喉をどうにか動かして、「ああ」とだけ返事をした。

「ダイヤ!!!!会いたかったぜ!!!!!!!」

-------

 マサルが生き返ったのはどうやら夢ではなかったらしい。
 話を聞いてみると、マサルは事故で死んだ後、異世界に転生していたらしい。新しくその世界に暮らすようになってもう何年も経つのだそうだ。絶対にありえないと思っていた転生が、まさか起こっていたなんて。
 神様とやらが突然やってきて、元の世界に戻してやると言われて気づいたら俺の隣で寝ていたということだ。

「なんか、こっちの世界にゼラルディア出身の人がいてさ、その人が俺と交換することを望んだらしくてよ」

「それって、まさか」

 ゼラルディアという地名は聞き覚えがあった。ディーンが昔の話をするときによく出ていた地名だ。あいつが住んでいた国。
 マサルが出現した位置からしても、あいつと入れ替わったと考えるのが順当だった。
 ベッドの下で何かが光るのを見つけて拾うと、指輪だった。ディーンの結婚指輪だ。肌身離さず身につけていたそれがそこに。
 一気に血の気が引く。
 ディーン、あいつがこの世界からいなくなった?マサルの代わりに向こうにいったというのか、俺を置き去りにして!
 俺の顔色が変わったのを見て、マサルも只事ではないと察したようだ。俺の手元の指輪を見る。「ダイヤのパートナーか?」と聞かれて、無言で頷くしかできなかった。

 俺は今、マサルに会えた喜びよりも、ディーンがいなくなったことへの動揺を強く感じてしまっている。
 マサルが今、俺の目の前にいるというのに。

-------


『ダイヤ?』
ディーンか?」

 ダメ元でスマホでディーンに電話をかけてみたら繋がった。どういう仕組みだ。異世界に行ったわけではなくただ家出をしただけかと思ったが、GPSの表示は反応無しだった。そもそも家の内鍵もかけたままだ。あいつが自殺未遂を起こして以来、俺が目を話した隙に勝手に外に出ないように全て管理しているから、抜け出す術は無いはずだ。

『わ、すごい。どうなってるんだろう。これも神様の奇跡なのかな』
「ディーン!!なにしてる、早く戻ってこい」

 聞こえてくる声は呑気だ。とりあえず物理的に身の危険が迫ってる状況ではなさそうなことに安堵する。

『マサルは?ちゃんと戻ってる?』
……戻ってる」

 マサルの名が出てくるってことは、やっぱりお前の仕業だったのかよ。

「ディーン、それより」
『そっか、よかった。じゃあ、お幸せにね。大好きだったよ。バイバイ』
「ッ、おい待て切るな!!」

 呼びかけも虚しく通話を切られる。すぐにリダイヤルボタンを連打したが、すっかり繋がらなくなってしまった。

 なんなんだあいつは。本当に戻ってこない気なのか。
 俺に相談もなく勝手に出ていきやがって。すぐ勘違いして暴走する癖はずっと変わらない。だから、変なことをしでかす前に止められるようにずっと気をつけてきたのに、こんな方法ってありかよ。

「切られちまったのか。なあ、次繋がったら俺が説得してみるよ!ディーンが望んで俺を交換したっていうなら、俺がそれは必要ないぜって説明すれば聞いてくれるかも!」

 頭を抱えた俺にマサルが提案してくる。ディーンは俺からマサルの話を聞くたびに、あまり良い顔はしていなかった。嫉妬してるとも言ったし、片想いしている間俺が辛くなったのはマサルのせいだと怒っていた。つまり心象は最悪、説得を聞く可能性は低い。
 第一もう一度繋がる保証はないし、繋がったとしてそれが最後になるかもしれない。異世界には充電の方法なんてないし、もっと悪い理由で壊れてしまうかも。

……じゃあ、頼む」

 それでも俺は断れなかった。だって、マサルが俺のために言ってくれたんだから。

「聞いてくれ、ディーン!俺はマサルだ!」
『お前と話すことはないです』

 やっぱり切られた。

-------

 電話はまた繋がらなくなってしまった。他に方法を考えようにも、やりようがなさすぎる。黄昏国に召喚された時だって、帰りはともかく行きは気づいたら向こうに行っていたというやつなのだから。
 異世界転生者や召喚者に知識を借りるしかない?そんなやつが、それも本物が、どこにいるというんだ。
 ……いや待て、いるじゃないか。目の前に。

「マサル、お前だけが頼りだ。何かわかることはないのか。神とやらはもう一度戻る方法について話してなかったか?」

「ただ交換するってだけ聞かされて、それ以外のことは何も……。でも、ゼラルディアでは俺以外にも異世界からきて暮らしてるやつはたくさんいたから、何かしらで向こうと繋がる手段はあるんだと思う!諦めないで考えようぜ!」

 そうか。ディーンを戻すのではなく、俺が行くという方面で考えても良いんだ。マサル、お前はやっぱり俺には思いつかないことを教えてくれる。

手元でずっと発信を続けては不通の表示を返していたスマホが、ようやく反応を見せる。飛びついて声をかけた。

「俺だ。切らないでくれ」
『ダイヤだ。ねー、もう夜遅いよ』
「こっちは夜じゃない」
『え、そうなの』

 こっちでは1時間も経っていないが、時間の流れが違うんだろうか。それなら尚更まずい。

「お前はなにをしてるんだ。無事なのか。一人でいるのか」
『なにもしてない。実家見てこようかな〜って。今はもう寝るとこ』

 ディーンのことだから、俺から離れたら自ら命を断つのもおかしくない。ストレートに聞いて答えるようなやつでもないが、ひとまず他に目的がひとつでもあるならまだ時間は稼げそうで少しホッとする。

「ディーン、戻ってこい」
『おやすみ、ダイヤ』
「待て、切るな」
『大好きだったよ』

 安心したのも束の間、無情に通話は打ち切られた。『大好きだったよ』って、過去形なのが不穏すぎる。絶対何かやらかす気じゃねえか。昔自殺未遂をした時に送られてきたメッセージを思い出して、吐き気すら催してくる。

 その後もしばらく発信を続けたが、電源を切っているか、コールに出ないままかのどちらかだった。どんどん不安が大きくなる俺に、マサルはずっと励ましの言葉をかけてくれる。こういう時に余計な詮索や自分の話をせずにまっすぐ目的だけを見据えてくれるのが、応援団長だった時代と変わらない。

「なあマサル、お前が向こうの世界に行ったのは、事故で死んですぐか?」
「ああ、多分。あとみぃ子も、転んで頭打って死んだら来てたって」
「二例もあるなら信憑性は高いな」

 立ち上がり、窓のそばに歩いて向かう。マサルがついてこようとしたが、危ないから下がってろと声をかけた。
確実にいける保証はないが、このまま何もしなければ同じことだ。ディーンがいない世界になんて未練はない。……たとえ、そこにマサルが戻っていたとしても。
 マサルがいなくなっても俺は生きてこれた。でも、ディーンがいなくなったら俺はもう生きられない。生きたくない。大切なものを失ったまま生きる苦しみは、もう充分味わった。

 勢いをつけて拳を振り上げて、殴りつける。ちょっとやそっとの衝撃では砕けない高層階用の強化ガラスでも、俺の腕力であれば容易い。本気の拳をお見舞いすれば、二発で粉々に砕け散った。

「お、おいダイヤ!!何する気だ!?」
「死ねば向こうにいけるんだろ」

 窓枠の淵に立つと、強い風が吹き上げていた。階下には豆粒のようなサイズの車や街路樹が見える。流石にこの高さから落ちれば俺でも死ねるだろう。万が一無理なら、昔試そうとした時みたいに自分で自分の首の骨を折るか。
 最後にもう一度電話をかける。これで駄目ならそのまま飛ぼう。

……ダイヤ?』

 繋がった。今までより不安そうな声色だ。もう時間がないかもしれない。

「ディーン、俺は今から死ぬぞ!」

 風の音に負けないように声を張り上げる。マサルが駆け寄って肩を掴み部屋に戻そうとしてくるが、マサルごときの力では1cmも動かせるはずはない。こんなにダイレクトに触られたら昔は力なんて関係なくても俺が負けていたのにな。今は、何も感じない。俺はやっぱりもうマサルを大事にできなくなってしまっている。
 それなら殊更、もう俺がここにいる理由はないじゃねえか。

『え!?何言ってるの!?』
「マサルと同じように、死んでそっちの世界に転生する!だからお前は安全な場所で待ってろ!」
『やめてよ、来れる保証なんてないのに!それになんで、マサルが戻ってきたんだからマサルと幸せに暮らせばいいでしょ!?』
「お前がいないと意味がねえよ!」

 俺を止めようと必死に腰にしがみついてくるマサルを振り払う。部屋の中に背中から倒れこみ、ガラスの破片が刺さってしまったかもしれない。ごめん、お前に怪我をさせたくなんてなかったけど、今はもっと大事なものがあるんだ。

「絶対そっちに行くからな!文句はその後言え!」
『待って待って本当に待って!!神様に頼むから!もう一回戻してって頼むから、死なないでよ……!』
……それでいけるのか」
『い、いけると思う。だから待って、お願い』

 電話越しの声は半べそをかいてるように聞こえた。いつも喧嘩する時とは立場が逆だな。お前が自分を傷つけたり死のうとして脅してくる時の恐ろしさが少しはわかったか。
 神に頼んですぐ出来るんだったら、最初からそうしやがれ。いや、そもそも交換なんてこともするんじゃねえよ。

……できるって。でも、入れ替わる時にボクがいる所にマサルが来ちゃうから、ちょっと移動した方がいいかも。ボク今、実家の前にいるから……

 どこでもいいだろそんなの、と言いかけたが、向こうに戻ったマサルが路頭に迷ってしまったら確かに困る。マサル自身はそれでも何とかやってくから大丈夫だぜ!と受け入れるには違いないが。

「わかった。絶対に戻れよ。ところでさっき電話してからこの電話に出るまで、どのくらい時間が経ってた?」
『1日くらいかな
「そこから元の場所に戻るまでどのくらいかかる」
『2日半、ってとこ』
「こっちの時間だと2時間半くらいだな。3時間経ってもお前が戻ってこなかったら、俺はこのまま死ぬ。いいな?」
『そ、そんな

 ディーンはぐずっていたが、有無を言わさず納得させた。スマホの電池だっていつ切れるかわからない。イレギュラーがあった場合もう一回電話できるくらいの残量は残しておくべきだろう。

『じゃあ急いで戻るから、死んじゃだめだよ。あと、マサルにちゃんと好きって言うんだよ?』
……お前が心配することじゃねえだろ」

 スピーカーにしていなくて良かった。後ろで様子を見ているマサルには聞こえていないだろう。
 昔の俺がマサルに抱いていた感情が、一般的に言う親友に対するものではなく恋愛感情に近いものだった、と自覚したのはディーンと結婚をしてからのことだ。
 あの頃はずっと、この関係性にマサルがつけてくれた親友というラベルを汚したくなくて、それ以外であるという可能性すら考えようとしなかった。ずっと、その枠に正しく収まる自分であろうと必死だった。
 でも今なら。マサルへの気持ちも薄らいでしまって、終わった恋だからこそ、恐れずに言い出すこともできるかもしれない。

……なんとか話はまとまったのか?」
「ああ……

 通話を終了して部屋に戻ると、マサルが心配そうに覗き込んできた。とりあえず背中を切ったりはしていないようで良かった。ガラスの破片が散乱した床が危ないことに変わりはないので、靴を持ってくる為に玄関に向かう。

「色々バタバタしちまったけどよ……でも、一目だけでもダイヤにまた会えて俺嬉しいよ。俺が死んだ後どうなっちまったのか、ずっと心配してたんだ」
「マサル……
「まさかこんなに愛妻家になってたとはな!ダイヤにもパートナーが出来てたなんて嬉しいぜ!俺も、ゼラルディアで一生の相棒つーか、生涯の伴侶っていうかな、へへ……とにかくそんな風に呼べる相手を見つけてさあ」

 前言撤回。俺は永遠に、マサルの『親友』で居続けなければならないようだ。