しゅう as 猫田しゅうぞう
2022-01-19 17:35:11
7334文字
Public 洋画同人誌関係
 

ダーリン

シネパラFのアナオビ新刊のサンプルです


ハロー、ミスター・ダイアリー


「待たせた、すまないなアナキン」
彼がようやく姿を見せたのは、ダイナーの客の注文が夕食から軽食へと変わりはじめた頃のことだった。それはちょうど一通りの注文を捌き終わったデクスターがキッチンから出てきて、カウンターで待ちぼうけているアナキンにフライを出してやった頃でもあった。
オビ=ワンはカウンターでフライを摘まむ弟子の肩を軽く叩き、その隣に並んだ。それから旧友である店主に軽く挨拶をしながら、かぶっていたローブのフードを後ろにはらった。
彼は見るからにくたびれて見えた。フードを脱ぐ前からそうだったが、うなじを覆う髪が静電気で乱れたことで余計にその印象は強まった。だがアナキンもデクスターも、カウンター越しに視線を交わすだけで、指摘するのはやめておいた。
それでもカウンターに寄りかかるように両肘を置いた彼を労り、デクスターは「テーブルにするか?」と尋ねたが、やはりオビ=ワンは首を横に振り「長居するわけでもないんだ」と断った。そのつれない態度にもデクスターは四本の腕で大袈裟に歓迎のポーズをとってやり「軽食がよさそうだな」とキッチンにひっこんでいった。きっとすぐにあの巨大な手で切り分けたご自慢のスライダーでも持ってくることだろう。
アナキンは口の中のフライを飲み込むと、まだ湯気のたつフライが乗った皿をオビ=ワンに差し出した。
「ちょうどこれをもらったところです。あと、お先にバーガーをいただきました」
「かまわない。すっかり待たせてしまったからな」
「揚げたてには間に合っていますよ」
悪戯っぽく笑ってみせたアナキンの言葉に同意するようにオビ=ワンは微笑み返して、自分も皿からフライを一切れ摘む。中身がなんの切り身かは知らないが、確かに中はまだ熱いと言えるほど暖かく、衣もサクサクしていて美味しかった。
二人がこうして顔をあわせるのは昨晩ぶりだった。
任務で離れているわけでもないのに、ここ数日はすっかりすれ違った生活を送っている。こうして日報を直接聞く口実で食事の約束でもしなければ、何日も会えていない状態だったかもしれない。だがそれは不本意なことではあるのだろう。次の夕食を一緒に取る約束を毎晩取り付け直すのはいつもオビ=ワンからで、パダワンと過ごす時間を取れないことを引け目に思っているのは明らかだった。
アナキンとしても顔を合わせることができるのは嬉しい。たとえ目の前に現れる彼がくたくたでヨレヨレでも、自分を見て微笑むその瞬間を直接見られるのは安心につながった。それに軽い冗談で、その唇を綻ばせることができたならなおさらだ。

*

慣れた指先が迷いなくアプリケーションを起動すると、期待通り新着通知に1と数字がついていた。
毎晩書く日記へと送られてくる返事――むしろこれを読むための日記だ。返事と言っても人工知能の書くものなのだが、掲示板のような不特定多数とのやりとりではなく、一対一の閉じられたやりとりは意外にも単調なものにならず、飽きることなど今のところは考えられない。つまり日記といえど、書いているのは一人で読み返すための日記ではなかった。匿名で決まった相手に手紙を書いているというほうがきっと正しいだろう。
もちろん、こんなふうに日課になるなんて、最初はとても想像できなかったことだ。おそらくは同じように利用しているアナキン以外のパダワンたちも似たり寄ったりのはずだ。この“日記”は導入されてしばらく経つ。
ジェダイは平和の守護者であり、その守護者を育てる組織――つまり子どもを育てる組織でもある。そこに目をつけた企業に売り込まれ、新しい試みとして導入された仕組みだ。
ジェダイ候補生たちの健全な思考と精神のためのプログラム。もしもなにか気がかりなことを書いていたのが検知されれば、まずマスターたちに連絡が行くという説明があった。教育機関で子供が抱える問題の発見に役立てるのが目的だとか――教育機関が機能した場所で育っていないアナキンとしては「ふうん」以上の感想はないが――とにかく日々のことを書き留めさせた日記を人工知能がチェックし、その上で日記が続くように個人個人の性格や言葉の文脈を理解して日記に対しての返事を返す仕組みが売りだという。
たしかに、アナキンへの返事には真面目だが茶目っ気のある性格まで感じられる。

*

「まあいい。さすがに賭博レースの優勝旗を抱えてお前が聖堂に乗り付けでもしないかぎりは口うるさく言う気もないしね」
「ないんですか?」 アナキンは思わず鸚鵡返しに尋ねた。
監視の目が緩んだ意味を計りかねていたぶん、驚きを隠すことはできなかった。それにそれを寂しく思う本音についても。
その動揺にオビ=ワンは訝しげに目を細めた。
「なんだ? まるで口うるさくされたいような口ぶりだが?」
「いえ、失言でした」
「そうだな。いや、つい先日もフェラスにも言われたのだ。わたしがお前を押さえつけすぎているのではないかと。耳に痛い意見だし、いいかげんお前を信用した振る舞いを――アナキン?」
……なんですか」
「不満だと顔に出ている。喜ぶかと思ったが」
「そりゃ――嫌ではありません。信用してもらえること自体は。でも……あなたの意思からじゃないなんて。がっかりです」
「なんだって? わたしの意思だよ」
「言われて決めたのでしょう? あなたの意思じゃない」
「アナキン、違うぞ。もともと迷っていたことなんだよ。だから耳に痛かったんだ。いや、わたしの言い方が悪かったな」
「言い方の問題ではありませんよ、マスター」
「言い方の問題だ。現にお前は誤解をしている」
「誤解なんてしていません」
「しているぞ。落ち着きなさい、アナキン。お前は誤った怒りに支配されているぞ」
「とても落ち着けやしないから困っているんじゃないですか!」
アナキンはとうとうはっきりと声を荒らげて噛み付いた。
「だって、僕が信用できるか判断できなくても、フェラスの意見なら素直に納得できるんでしょう、マスターは!」
勢いのままに手が寝台の縁を叩き、その音で我に返ったアナキンは今度こそ失言だったと自覚した。
だが咄嗟に取り繕うこともできなかった。なにしろオビ=ワンは驚きで言葉を失っていた。彼が無自覚だろうとは思っていても、改めて口にしたことで驚かれると余計にアナキンの中でそれは真実味を持った。これから否定の言葉が向けられるに違いないとわかっていても、疑念にはすっかり色がついてしまった。
二人は視線を噛み合わせたまま黙り込むより他になく、しばらくしてアナキンは項垂れて、彼の視線から逃れた。

*
このあと喧嘩して仲直りする、というお話です