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siontukiya
2026-07-16 23:04:57
6564文字
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心生と万年筆
職業は多分古道具の修理とかメインのなんかかも、ということから。妄想と諸々しかない。
2026/7/17 台詞と展開が微妙にあってねー箇所あったのでそこの台詞ちょっと修正、補足追加。
1
2
3
ばあちゃんが亡くなり、形見として万年筆を貰った。
全く憶えていないが小さい頃の自分はばあちゃんが手紙を書くときに使っているそれを、
ずっと欲しがっていたらしく、遺産相続の手紙には綺麗な文字で「あの子には万年筆を。
きっとあの子のことを守ってくれるから」と記されていたらしい。
いかにもばあちゃんらしい。
……
いなくなってしまったのだと。
4年ほど前の些細な喧嘩を引きずらず、小さい頃のように毎日でなくとも、もっと会うべきだったのだと今更になって気付いた。
======
インクも買ったし、一週間前に万年筆の掃除も済ませていたので書いてみる。
が、何度試しても文字がかすれてしまう。
「
……
ばあちゃんの字はこんなんじゃなかったのに」
何故だろう。万年筆に拒絶されたような気がした。
お前はあの人の葬儀にすらこなかったじゃあないか。何故お前に使われないといけないんだ。と。
違う。違う。落ち着け。
そもそも私が葬儀にいけなかったのは、大学受験と被ってしまったからだ。
そもそも、ばあちゃんのことだから、万年筆には『あの子を守ってね』とでも語りかけているだろう。
主とは認めなくとも、使わせてはくれるだろう。
……
軽く調べると、書き癖が違うとそうなるらしい。
曲がった箇所を修理をすれば問題なく使えるようになると書いてあった。
「
……
ごめんね。貴方を使いたいから、修理させてね」
ばあちゃんとの思い出である
書き癖
それ
を、捨てさせてしまうことになる。
それでも、受け継いで使いたいと思ったのだ。
======
万年筆の修理を請け負っている店に行ってみたのだが、ペン先の交換が必要と言われた。
スチールでできたペン先は基本的に曲がると金でできたものよりも戻りにくく、
交換がメインになってしまうらしい。
「
……
祖母の形見でして、できればほぼもとの状態で使いたいんです。なんとか、なりませんか」
駄目元で聞いてみる。
「
……
古いものですので、おそらくメーカーでも難しいですね
……
。
一つ先のXX駅の近くの商店街を抜けて、少し外れたところにある修理屋。あそこなら、直せるかもしれない」
「本当ですか!?ありがとうございます!」
もしかしたら直せるかもしれない。
心で重しとなっていたものがほんの少しだけ軽くなった、気がした。
======
先ほど聞いた場所に行ってみると、小さめの古民家といった風情の店があった。
入口がガラス張りのドアとなっており、かろうじて店舗であるとわかるが、看板などは一切なく屋号などは特にかかれていない。
ドアに「古道具修理・着物の洗い張りいたし〼」と綺麗な字で書かれた紙が貼ってあるのみで、非常に入りにくい。
しかも、やっているのかわからない程度に薄暗い。
……
なんというか、偏屈なご老人のやっている店、といった赴きがある。
意を決して入ってみる。
受付兼作業台だろうか、ニッパーやペンチといった修理道具が置いてある場所が一番明るい。
そこに近付いてみると、ふわりと煙のにおいがした。
――
受付のはずなのに、誰もいない。
営業時間ではなかったのだろうか。出直した方がいいのかも知れない。
そう思った時、奥の階段から、濃い赤毛に赤と青のメッシュの入った派手な髪の、
これまた派手な和装をした20代半ば程の狐のような顔の男が煙管を燻らせながら歩いてきた。
男は、こちらに気付くと作業台に煙管を起き、懐からメモ帳とペンを取りだし、何かを書いてこちらに見せた。
『おや お客さん ですか』
――
どうやらこの男は話すことができないようだ。
「
……
古道具の修理を行っていると張り紙に書いてあったのですが、貴方はお店の方ですか?」
『はい あっし で 合って おります よ』
……
いやいや。派手な髪に派手な和装で一人称が「あっし」の職人?って癖が強すぎないか?
いきなり黙ってしまったこちらを訝しんだのか、男はこてん、と首を傾げながらメモ帳を差し出してきた。
『何か 修理が 必要な ものが?』
「あっ、はい!
……
祖母から貰った万年筆なんですが、文字を書くと掠れてしまって」
鞄から、ハンカチに包んでいた万年筆を取り出して男に渡す。
男は、作業台に万年筆を置き、懐からルーペを取り出し、万年筆のキャップを外したりしながら状態の確認を行った。
一通り確認できたのか、再びメモ帳を取る。
『フム これは よいこ です ね』
「え?」
『とても 大切に されていた物 と お見受け します
細かい 傷 は あるの ですが 丁寧に 手入れを されていた ようで
文字を 書くと 掠れて しまうとの こと ですが
これなら ペン先 を 少し 削ってあげて 曲げを 元に戻せば 直ります ぜ
あァ 字幅 は 変えない ように いたします
価格 としては 3000円で どう でしょう』
あの店主の言っていた通り、この店でなら直すことが可能のようだ。
「他のお店では修理できない、ペン先交換が必要と言われたのですが」
『まァ 経験 の 差と いうやつです よ』
「?」
『フフ ここ は ホラ 古道具 の 修理屋 ですから ね
万年筆 だけ でないですが 経験 だけは 積ませて いただきました から』
そういうものなのだろうか。
『そういう もの です よ
調整 は 時間が かかりますので そちらの 応接間 へ どうぞ
テレビや ラジオ 雑誌を 置いて あります ので 自由に 使って やって ください
後ほど お客様に 試し書きを して いただきます
あァ お昼 を 越えちまう かも しれねえ ので お客様さえ よかったら ですが
ソコの 階段から 上に いって 直ぐに
厨
キッチン が あります ので
冷蔵庫の あぶらげ と 小松菜 を 煮たの と ご飯 を 温めて 食べて ください』
「ああ、いや、そういうわけにも
……
」
『あっし は ご覧の 通り 唖 ですので お客様と 話ながら 作業 が できねえんです
サービス とでも 思って いただければ』
なんというか、ぐいぐい来るわけではないが世話焼きな人なのかもしれない。
アレルギーがあるわけでもないし、戴いてしまおう。
「
……
それじゃ、お言葉に甘えていただきますね」
『はい それでは 後ほど』
◆◆◆
(さァて、お前さんをもう一度、直してやろうかね)
そう。この万年筆、昔にとある少女が修理に持ってきたものと同じものなのだった。
あの時は確か、少女の祖父が使っていたものだったはず。
ほんの15歳の少女が、息を切らせて自分を訪ねてきたことを憶えている。
祖父が亡くなる少し前に貰ったのだと。
祖父と同じように、綺麗な文字がかけないのだと。
……
まさかその少女の孫が来るとは思っていなかったが。大切にされ続けていたからか、使われていた年月で付喪神になりかけている。
祖母
少女
の時に直しているため、もう一度書けるようにと万年筆が孫娘を店に導きでもしたのかもしれない。
(あの時は、お前さんの歪みを、直すだけだったが。今回は削らせてもらいます、ぜ)
先ずは歪んでいる箇所をルーペを使って確認しながら、指先で丁寧に力を加えすぎないように直していく。
万年筆の場合、ペンチやヤットコを使うとペン先に傷が付く可能性があるので、道具は使わずに指先を使うことにしている。
――
尤も、自分が知らないだけで、万年筆の修理を請け負っている店も同様に道具を使わずに歪みを直しているのかもしれないが。
力を加えすぎるとペン先が壊れてしまうため、とにかくゆっくりと、時間をかけて少しずつ調整していく。
今回だとインクの掠れ
……
つまり、インクの出が悪いということなので、インクが適量出るような形状を目指して直していく。
売られていた当初の形状は知らないため、己の経験と感覚のみが正解となる作業となる。
======
(
……
フゥ)
自分の納得のいく形状になったため、身体を伸ばして一度休憩をとる。
案の定時間が経っており、14時を過ぎている。
(お客人は昼餉を食べただろうか)
続けて作業をしてもよかったが、水を飲むために二階へ上る。
どうやら食べてくれていたようで、冷蔵庫から消えている。食器類も洗ってくれたのか、水切りの籠に入れてある。
自分の分はまァ適当でいいだろう。水を飲み、応接間の砂糖代わりでストックしている金平糖を2、3取り出しかみ砕く。
甘く、活力が湧く気がした。
階段を下り、客の様子を確認しに応接間へ向かう。
腹がくちて店内が薄暗く眠くなってしまったのか、ソファで寝ている客が、いた。
◆◆◆
(
……
あ、私寝ちゃってたんだ)
お昼ご飯をいただいた後、薄暗い店内の程よい温度に眠くなってしまったのだ。
初対面の人の前でやっていいことでは、ないのだが。
今は何時だろうか。西日が差している。
ふわり、と煙のにおいがする。
けして嫌なにおいというわけではないそれは彼の煙管のものだろうか。
(あ、)
布団代わりだろうか、彼の羽織りがかけられていたことに気付く。
私が起きた気配に気付いたのだろうか、彼が近くにやってきた。
『オヤ 起きました か
万年筆 は 無事 直りました ぜ』
「あっ あの、これありがとうございました」
借りていた羽織りを返す。
『フフ どうも
確認の ため 試し書き を お願いします』
======
おそらく彼の私物であろうインクをペン先につけて、メモ帳に万年筆を走らせる。
『書いていて 引っ掛かり や 違和感 は ありますか』
「いえ、ありません!大丈夫そうです」
『そうですか では これで 完了 ということ で』
「ありがとうございました!」
レシートの代わりの領収書に記載された金額を払う。
『あァ 最後に 一つだけ』
「何でしょう?」
『ずっと 大切に していただけるので あれば
是非とも 万年筆 に 名前 を つけて あげて ください
願掛け 程度 ですが 名前を つけると 更に 大切に なるでしょう?
あァ 無論 帰って からで あっし に わからない ようにで 大丈夫 です』
なんとなく、彼の言葉に従った方がよい気がした。
これからこの万年筆は、ばあちゃんの知らない、私だけの相棒となるのだ。
「はい!そうしてみます」
『フフ きっと 貴方様の ことを 守って くれます よ』
「ありがとうございました!さようなら」
そういって店を出ると、ひらと手を振って見送ってくれた。
祖母のように手紙を出す相手がいるわけではないが、これからは日記や手帳に何かを書くのもよいかもしれない。
レポート等を書いたりしても、きっと楽しいだろう。
そうして、祖母のように少しずつ私の癖をこの万年筆に刻んでいくのだ。
これからが楽しみだな、と店内のように薄暗くなった街を弾む脚で駆け出した。
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