「行ってきます!」
SKIP星元市分所から飛び出したユウマは、エレベータではなく階段でビルの一階に向かう。三階分を一気に駆け降りた勢いのままビルのエントランスドアを抜けようとして、ぶつかりそうになった人影に慌てて足を止めた。
「
……っと、すみません!」
「朝から忙しそうですね」
「シュウさん!」
ビルに入ってくるところだったのは、見慣れたスーツ姿の友人。落ち着いた穏やかな声音に、ユウマは肩の力を抜く。
「すみませんでした。郊外の観測装置の数値に異常があって、先に行ってるリンさんとユピーを追いかけようと慌ててました」
「いえいえ、大丈夫です」
「シュウさんこそ朝早くからお疲れ様です」
そこでふっとシュウが笑う。
「? どうかしましたか?」
「この状況、私が初めてここに来たときと同じだな、と思って」
「
……そういえばそうですね!」
夏が始まったばかりの陽射しの朝。モノホーンのモニタリングシステムの異常を調べに先行していたヒロシとリンを追って、あのときもユウマはこのビルを飛び出そうとしていた。そこで今と同じようにシュウにぶつかりそうになったのだった。
「あのときはまさか、ユウマくんやSKIPの皆さんとこんなに深く関わることになるとは思っていませんでしたが」
シュウの手が胸元をそっと押さえる。彼の内ポケットに入っているものに思い至って、ユウマもつられて自分のポケットに手を伸ばした。
今ではすっかり馴染んだ四角い感触だが、あのときはまだまだ知らないことばかりだった。
それでも。
「そうですね
……でも、もしかしたら、僕は何か予感はあったのかもしれません」
「え?」
戸惑うシュウに、ユウマは真っ直ぐに視線を向ける。
「だって、ふだんはすれ違っただけの人のことはほとんど覚えてないです。でも、シュウさんに洞穴でシャゴンから助けてもらったときに、すぐに朝の人だと思い出せた。きっと僕の意識のどこかが、シュウさんのことを覚えておかなきゃって思ったんじゃないかなって」
シュウの瞳が眼鏡の奥で大きく見開かれる。ひと呼吸おいて、その瞳が柔らかく細まった。
「
……そうですか。ユウマくんの印象に何らか残っていたのなら光栄です」
シュウはスーツの襟元を引いて姿勢を正すと、腕の時計を確認する。
「ところでユウマくん、急いでいたのでは?」
「あ! そうでした! リンさんとユピーを待たせてるんだった!」
ユウマも同じように手首の黄色い時計を見て、慌てていた理由を思い出す。
「シュウさんはいつもの情報交換ですか? 分所には所長が残ってますから入れますよ」
「いえ、私もユウマくんに同行させてください。宇宙科学局でも同じように数値の異常を感知したので、こちらに確認に来たのです」
「そうだったんですね」
ユウマは背中を揺すってバックパックの背負っていた位置を直す。調査用の機材があれこれ入っている荷物が少し軽くなった気がしたから。
ついでに帽子の向きも整えて、ユウマは大きく笑う。
「じゃあ、一緒に行きましょう!」
「はい!」
そうして二人はエントランスの段差を駆け降り、走り始める。
始まりの日と同じ、夏めいた陽射しの中へ、二人揃って。
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※1周年記念に書いたSSはこちら
『あなたが名付けてくれたから
https://privatter.me/page/68694c0f44884 』
もう2年も経っているなんて驚きですが、今でもまだまだアークの物語は大好きで、これからも大切にしていきたいと思っています。
アークの世界を届けていただいた皆さま、改めてありがとうございます!
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