春色コンフェクショナリー

『夢の語り部』設定。
職場の歓迎会の幹事を手伝った土方に、先輩からのあるものが手渡された。
それは──

この作品は2026年4月4日・5日に開催された、ぐだぐだ鯖WEBオンリー「ボイラー室横より愛をこめてW~二回目~」での白殊独自のリクエスト受付企画【白殊に歳勇小説リクエストを投げつけようVol.2】でリクエストいただいたものです。

◆リクエスト内容◆
『夢の語り部』の設定で、春スイーツのスイーツバイキングに行く歳勇

スイーツバイキング、夢がありますよね……!!
最高です!
作中には出てきませんが、チョコレートファウンテンとかあってもよかったかな!
あったらあったで、近藤さん傍から離れなくなりそうですが(笑)

『夢の語り部』( https://privatter.me/page/69566231a7634 )設定
現代転生パロ。
近藤さんのが年下設定(二歳差)で、1臨・黒の剣士の外見。
土方さんには記憶がありますが近藤さんには記憶無し。

 春、うちの事務所にも新人がやってきた。
 内外でのコミュニケーションを大事にする社長は毎年新人歓迎会を開く。
 面倒見のよい先輩社員がいるので、その人が大抵のことは取り仕切るからこっちは楽なものだ。
 俺も歓迎会にはいつも参加はする。
 断る理由は特にないし、これでも俺は人付き合いには気を遣う方だ。
「土方、今回はありがとな」
 会が終わって二次会メンバーはそちらへ、他は解散となった時、帰宅を選んだ俺に幹事だった先輩がそう声をかけてきた。
 大したことをしたわけでなく、途中のとりまとめなどを少し手伝っただけなのだが、こうして細かく気のつくところが流石なのかもしれないと思ってみる。
「これ、日付決まってて悪いけどよかったら使ってくれ。ほら、お前の──近藤さん、だっけ? 甘いもの好きだろう?」
 先輩は何やら上品な紋様の印刷された封筒を俺に差し出した。
 事務所では俺は近藤さんとルームシェアをしていることになっている。
 別に関係を明らかにしてもいいのだが、したらしたでまた面倒なことになりそうでしていない。
 だがこの先輩は勘がやたらといい。
 近藤さんと先輩が会ったのは一度だけだが、甘いものが好きだということは、以前何かの折に言ったことがあるような気がする。
 休日だったその日、急遽必要になった書類を俺たちの家に取りに来て、そこで顔を合わせてはいるけれど、こんなことを言ってくるのだからおそらく近藤さんと俺の関係には気付いているのだろう。
 現に時々涌く俺に色目を使ってくる各所の女性が、いつの間にか消えているなと思ったらこの先輩が間に入っていることが多い。
「いつもありがとうございます。じゃ、遠慮なく」
 固辞するのもなんなのでそれを受け取る。
 開けてみれば、高級とまでは行かないが人気のある店の、なかなか予約が取れないというスイーツバイキングのペアチケットだった。
 言葉通り日付は決まっているが、来週の俺が休みの日だ。
 特に不都合がない限り休みは合わせるから、近藤さんもその日は大丈夫だったはずで──
「先輩」
「ん?」
「これ、かなり人気のあるやつでしょう。自分が行かなくていいんですか? 休みなら変わりますよ」
「聞くな、土方……
 この先輩にも彼女はいたはずだと聞いてみれば、わざとらしく目元を押さえて泣き真似をされた。
 どうやらわざわざ俺たちのために用意してくれたことを知られたくないらしい。
「わかりました。今度飲みに付き合いますよ」
「そうしてくれ」
 深追いはやめて封筒を懐にしまえば、先輩はにこりと笑って俺の肩を叩いて二次会の会場に向かっていった。



「おかえり、とし……
 飲み会で遅くなるから先に寝ていていいと伝えてあったが、近藤さんはリビングでうつらうつらとしながら待っていた。
「ただいま、近藤さん。寝ていていいと言ったのに」
「ん……でも、まっていたかったから」
 近藤さんは俺の服の裾を掴んで身体をすり寄せてきた。
「わかったわかった。帰ってきたから、な?」
「うん……
 酔っ払ったりしているのではなく、近藤さんは時々こういう風にとても甘えたになる。
 きっと子供の頃、親が余り家におらず一人で寂しかったのが要因だろう。
 それを今俺で埋め合わせができるのなら、いくらでも甘えてくれて構わない。
 だが、この様子だとスイーツバイキングの事を今言っても翌朝覚えていないだろうから、ひとまず抱え上げて寝室に運ぶ。
「いっしょに、ねて……
「あぁ、着替えだけさせてくれ」
 ベッドに収めて着替えを終えて戻ってくれば、もうすうすうと寝息を立てていた。
「明日には嬉しいお知らせがあるからな」
 その朱鷺色の髪を撫でてそっと囁く。
 手足を丸めて眠るその身体を抱きしめて、目が覚めたら俺の顔が見えるように向かい合わせにベッドに入った。



 スマフォのアラームが起床時間を告げる。
 今日は二人とも休みだし、いつもかなりの余裕は持たせてあるので、それを止めて腕の中の近藤さんの様子を見る。
「あ、歳。……おはよう」
 少し寝惚けた様子で目を開けた近藤さんは、おそらく昨夜の事は覚えていまい。
「おはよう、近藤さん」
 身体を起こす前に一度抱きしめ、頬に口付けをする。
「俺、昨日何か言った?」
「ちょっと甘えたなくらいで、別に何も言ってないぜ」
 おはようのそれくらいはいつものことだが、怪訝な顔をして首を傾げたのでそう答える。
「ならいいけれど……
 近藤さんはちょっと頬を赤らめてもそもそと身体を起こした。
「朝メシの支度、手伝ってくれ」
「うん」
 声をかけてリビングに出る。
 米を炊くのは近藤さんに任せて味噌汁の準備をすることにした。
「そうだ、近藤さん」
「なに?」
「前に家にも来た事務所の先輩から、いいものをもらったんだ」
 米が炊けるのを待つ間に昨日のチケットを見せる。
「すごい! あの店予約が取れないって評判なのに」
 近藤さんはぱぁっと顔を輝かせた。
 甘いものが好きならば一度は行ってみたいと思う店だ。
 それは近藤さんにとっても同じだったようで、本当にあの人はどこまで知っているのかと勘繰ってしまう。
「日にちは大丈夫そうか?」
「大丈夫! この店だったら休みじゃなくても休む!」
「大袈裟だ」
 気合いの入った近藤さんの答えに、俺は軽く笑って朝食のおかずのだし巻きたまご作りをはじめるのだった。




 すごい、すごい、すごい!
 世間知らずな俺でも知っているくらいの予約が取れない店のスイーツバイキング。
 それを取った挙げ句後輩にサラッと渡してくれるなんて、歳も男前だけどその先輩も負けず劣らずすごいと思う。
「あ、でも。その人、自分で行かなくていいのか? その人にも相手とかいるんじゃ」
 それなら歳がもらってくるはずもないと思ったが、はしゃぎすぎたので一応聞いておく。
「あぁ。俺も聞いたんだが、どうやら俺たちのために取ってくれたらしくてな、深く突っ込んで欲しくないみたいだ」
 それを聞いて俺は一体何者なんだ、その先輩はと思った。
 歳が俺たちの明らかな関係を外で言うことはないだろうし、後輩の、しかも一度会ったきりのルームシェアの相手をちゃんと覚えているなんてとんでもなさすぎる。
「仕事のできる人は違うんだな……
「俺もそう思う。あの人には敵わねぇよ」
 歳がしみじみと言う。
 歳が敵わないなんて言う人がいると知って、世の中は広いと思った。



 楽しいことを待つのは長い。
 けれどその間はうきうきとして多少の嫌なことには目をつぶれる。
 嫌なことは結構ある。
 俺はこの容姿だから顧客と会う時とか、まず奇異な目で見られる。
 大抵は仕事デザインの話で挽回できるから構わないのだけど、あからさまに担当を変えろと言ってくる人間もいるにはいる。
 そんな人がいれば、相反するように俺の仕事が気に入ったからと立て続けに依頼をしてくれる人もいるから、世の中はわからないけれど、本当に俺は歳がいなければ、まともに生きてくることすらできなかったかもしれない。
 それはともかく、いよいよ明日がスイーツバイキングの日だ。
 今日は残業もなく順調に帰れることになっている。
「近藤さん、嬉しそうね。明日のお休みに良いことがあるの?」
「え」
 帰り際直属の上司からそう声をかけられた。
「俺、そんなに浮かれてました?」
「浮かれる、ってほどじゃないけど鼻歌は出てたわね」
 楽しそうに笑う美人上司に俺は言葉に詰まる。
 この人も勘は鋭い。
 多分、この職場で歳と俺の関係に気付いている唯一に近い人だ。
「このところ大変だったものね。目一杯甘えてらっしゃい」
……はい」
 俺は赤くなりつつぼそりと返事をした。
 お見通しの彼女に変な言い訳をするのは無駄というものだろう。



 いよいよ当日、時間は十四時から。
 沢山食べるために朝食抜きにしたかったくらいだけど流石にそれは歳に怒られた。
 ただ、昼食抜きは許してもらった。
 やっぱり店の中は女性の方がはるかに多く、男は俺たちを含め数えるほどしかいない。
 大体は女性とのカップルだ。
 普段の俺ならそれだけで腰が引けて店の中になんか入れないだろうけれど、今日は歳と一緒だし、このスイーツの山を前にして怯むはずがない。
 春のスイーツバイキングと銘打っているだけはあって、色とりどりのゼリーに大粒のイチゴの載ったショートケーキ、フルーツとクリームがふんだんに盛られたホールケーキ、可愛らしいカップケーキ、品良く盛られたティラミス、ホワイトチョコレートのエクレア、カラフルなマカロン、春色のマシュマロ、外側が香ばしく焼き上がったフルーツのパイ、カスタードクリームにフルーツの盛られたタルト、よく冷えているだろう色鮮やかなムースやレアチーズケーキ、果ては桃やマンゴーのジェラートに小さめのかき氷までと、ありとあらゆる甘味が揃っている。
 もちろん紅茶などのドリンクもオーダー制ではあるが飲み放題だ。
 メニューを見回して歳がちょっと安心したような顔をしたのは、食べ放題の中にはセイボリーという塩気のあるスイーツ以外のものも少し混じっていたからだろう。
 ホテルビュッフェのようなかしこまった雰囲気ではなく、開放感のあるカジュアルな空気なのもここが人気の理由の一つだ。
 制限時間は一時間半、俺にとって夢のような時間だ。
「先に行ってきな。俺は荷物を見てるから」
 最初の飲み物のオーダーを済ませたところに、歳がそう言ってくれた。
「ありがとう、歳! 行ってくる!!」
「転ばないようにな」
「大丈夫」
 普段なら絶対にできないけど女性達に交じってスイーツを吟味する。
 まずは軽くフルーツゼリーにマカロン、ムース、レアチーズケーキを取って席に戻った。
「早速だな」
「どれも美味しそうだから、これでも絞ったんだぞ」
「じゃあ、俺も行ってくるかな。先に食べてていいぞ」
「いや、待ってる」
「わかった、早めに戻る」
 歳はそう言って席を立った。
 頭一つ抜けて背の高い歳が女性の視線を集めるのがわかる。
 誰と来ているんだろう、という囁きも聞こえる。
 相手が勝手に詮索しているだけだから、やきもちを焼くのはお門違いだとは思うけど、ちょっと心がざわつく。
「お待たせ」
 歳がいくつかのスイーツとセイボリーを手に戻ってきた。
 それを目で追っていた数人の女性が俺を物珍しそうに見るのがわかった。
「近藤さん?」
「あ、ごめん。スイーツに見蕩れてた」
 気にする必要はない。
 だって、歳は俺の恋人なんだから。
「気にすんな、物好きが多いだけさ」
 歳もやっぱり気付いていた。
「気にしないよ」
 俺は笑ってスイーツに手を合わせた。
「いただきます」
 それを見て歳も安心したように笑って、同じように手を合わせた。
 早速ゼリーを口に含む。
 ひんやりとした口当たりにしっかりと弾力のあるゼリーで、フルーツの甘みとよく合った。
 レアチーズケーキもしっとりとして底に敷かれたスポンジケーキとチーズの風味が最高に美味しい。
 あっという間にマカロンもムースも食べ終わってしまった。
「また行ってくる」
「あぁ」
 次のお目当てはケーキ系。
 生クリームとフルーツで彩られたホールケーキの切り分けられたものとカップケーキ、タルトと選んでいく。
 あの彼なんか可愛い、とどこかから囁きが聞こえたような気がした。
 俺が、可愛い?
 そんなことは歳以外に言われたことはないから意外に感じたけれど、悪意が向けられていないのなら別に構わない。
 途中黄桃とキウイのフルーツサンドが追加されたのでそれも手に取った。
 戻って改めて食べ進める。
「フルーツサンド、美味そうだな。俺ももらってくるかな」
「美味しいよ」
 そうこうするうちに飲み物がなくなったので紅茶を追加オーダーした。
 歳は相変わらずセイボリー中心だけどティラミスやムースなども幾つか持ってきている。
「フライドポテト美味しい?」
「太めだからほくほくしていい塩加減で美味いぜ」
「一本、ちょうだい」
 そう言って俺が身を乗り出すと歳はフライドポテトをつまみ、俺の口の辺りに差し出した。
 つまりそれは──
 歳に色目を使ってくる連中への自己主張、とばかりに俺は躊躇ちゅうちょなくそれにかぶりついた。
 きゃぁ、と小さく黄色い悲鳴が上がったような気がした。
「美味しい」
「だろう?」
 歳もそれがわかっているのか、にっこりと俺に微笑んだ。



 一時間半はあっという間で、スイーツはどれも美味しく、おそらく俺は全種類制覇したと思う。
「ごちそうさまでした、美味しかった!」
「よく食ったな、ごちそうさま」
 満面の笑みで手を合わせれば、歳は紅茶の最後の一口を飲み干して自分も手を合わせた。
「先輩にお礼言っておいて、とても喜んでたって」
「あぁ、伝えておく」
 席を立ち、すれ違った店員にも軽くお礼を言って外に出る。
「流石人気があって予約の取れない店だけはあったな」
「うん。今度は自分たちで予約取って、別の季節に来たいかも」
「そうだな」
 大好きな歳と一緒に大好きなスイーツを心ゆくまで堪能できて、本当に俺は幸せ者だ。
 流石にこの街中で手を繋いだりはできないけど、それでも十分に春の気分になれた。
 まだまだ歳と行きたいところは沢山ある。
 俺たちの時間は沢山あるのだから、少しずつそれを実現に移していけばいい。
 毎日を大切に過ごしていこう──俺は並んで歩く歳の横顔を見ながらそう思った。