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Hizuki
2026-06-22 22:25:01
2587文字
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あんスタ[零薫他]
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かわいい影に潜むモノ
【あんスタ】零薫。某新しいぬいぐるみを手にした二人の話。単独でも読めますが
以前の話
と繋がってます。ぬいぐるみにできることとできないこと。
楽屋のドアが開く音が聞こえ、そちらに目を向ける。開かれた隙間から見えた色が、言わずとも誰が来たのかを知らせてくれた。
「おはよ、零くん」
「
…
くくく。おはよう、薫くん」
一拍置いて返ってきた挨拶には笑みが混じっていた。それは自然なものではなく、少しだけからかいのような色が滲んでいる。
「
…
何?」
「いや、薫くんの元にもおるんじゃなぁと思って」
自分の右隣の座面が沈んだ。何がとは言わなかったものの、何を示しているのかは分かった。テーブルの上に置いてある、手のひらほどの大きさのぬいぐるみのことだ。
「そりゃいますよ。零くんもでしょ」
「うむ、おるよ。今回も実にかわゆい姿じゃ」
腕を組んで満足そうに零くんが頷く。ESのアイドル達をモデルにしたぬいぐるみの第二弾が発売になり、それが手元に届いたのはつい昨日のことだった。前回はクリーム色の熊の着ぐるみを着ていたけれど、今回はうさぎの着ぐるみになっている。全員表情も変わっていて、その違いを楽しんでくれているファンの声も聞こえていた。俺の元にあるのは零くんのもので、まだ姿を見ていないけれど零くんの元にあるのは俺のものだ。
「今回は隠さぬのじゃな?」
「だって俺が零くんのぬいぐるみ持ってるのはもう世間にバレてるもん」
隠さない、というよりは、開き直ったという方が正しい。本来オープンにするつもりはなかったものの、ひなたくんとゆうたくんの『ESアイドルの鞄の中身チェック』という企画で、たまたま零くんのぬいぐるみを連れていた日に当たり、それが知れ渡ることになってしまった、というわけだ。『相棒のぬいぐるみ持ってるの仲良しすぎる』だとか『ちゃんとポーチに入れてるの優しい』だとか、おおよそ好意的に受け取ってもらえたことは幸いだった。
「以前は我輩が持っておった薫くんに嫉妬しておったのにのう?」
さっきと同じ、からかい混じりの声音だ。前回のぬいぐるみが出た直後、零くんが持ち込んでいた俺の形をしたそれを見ながら、やたらと『かわいい』と言っていたことがある。しかも本人がいる目の前で、だ。零くんが言う通り、布と綿でできた俺に嫉妬していたのもまた事実ではあるのだけれど。
「
…
もういいでしょ、その話は」
「ああ、薫くんが本当にかわゆい
…
」
ふいと零くんから顔を逸らした。あの時のことを持ち出されるのは、ちょっと居心地がよくない。一体どっちのことを言っているのだか。零くんの様子は変わりそうになくて、そのままテーブルの上のうさぎの姿の零くんに手を伸ばす。
「こっちの零くんは余計なことは言わないし、回りくどいこともしないからいいなぁ」
ぬいぐるみなのだからそれは当然のことではある。勝手に喋ったり動き出したりしようものなら、もはや怪奇現象の類になってしまう。指先でそっと小さな零くんの頭を撫でていると。
「
…
薫くん」
さっきまでと声の調子ががらりと変わった。低い声が俺の名前を呼んだ。手元からするりとぬいぐるみが抜かれたかと思うと、ふっと視界が暗くなった。顔を零くんの方に向けた瞬間、そのまま口を柔らかいもので塞がれる。それが零くんの唇だと気付くまで、そう時間はかからなかった。
「ぬいぐるみの我輩では、こういうことはできんじゃろ?」
息がかかる至近距離で、零くんが囁く。熱を持った触れ合いができるのは、相手もまた熱を帯びた身体を持つからこそ。真っ直ぐにこちらを見つめる紅い瞳が、零くんの熱を伝えてくる。焦げてしまいそうな温度の高い炎を灯して。
「
…
そこは否定しない」
「素直なのはよいことじゃ」
零くんの炎は俺の体温を一気に上げた。そう言って零くんが笑みを浮かべる。小さな零くんは静かにテーブルに戻された。一人でぽつんとしていて少し寂しそうにも見える。
「
…
ね、今連れてる?」
何が、とは言わなかったものの、正しく伝わったらしい。零くんはさっき置いた自分の鞄を指し示した。
「うむ、そこに」
「SNSに上げる用に一緒に写真撮っていい?」
「ああ、構わぬよ」
ソファから立ち上がった零くんが、鞄の中から小さな俺を連れて戻って来た。どうやら零くんはそのまま入れているらしい。小さな俺もまた、同じうさぎの着ぐるみを着ていた。自分で言うのも変な話だけれど、小さな俺達がちょこんと並んだ姿はかわいく見える。そのままだと少し味気なくも見えて、自分の手のひらの上に乗せてみる。
―
これだ、と思った。
「零くん、ちょっと持ってみて」
「ん?こうかや?」
俺の手のひらに乗せられた零くんと、零くんに掴むように握られた俺。きっと写っている手で誰がどっちを持っているのかは見破られるだろう。何枚かそのままシャッターを切って、よさそうな一枚だけを残した。
「その写真、我輩と薫くんが同時に上げたら話題になるのではないかえ?」
「ん〜、話題通り越して騒ぎになるかもよ?」
俺はあの企画でバレたけれど、零くんが持っていることは多分他の誰も知らないはずだ。夜闇の魔王がぬいぐるみを持っている、ということがどう映るのか気がかりではある。わざわざ誰の、と添えるつもりはないけれど、賑やかになることは確かだろう。
「まぁよいじゃろ。我輩にも送ってくれるかえ」
「はいはい。ちょっと待ってね」
軽く写真の調整をしながら返事を返した。零くん自身、知られたとしても気にしていないようでもある。とはいえ、バラエティ番組などを通してちょこちょこお茶目な部分やライブの時とは違う顔も見せているし、きっと大丈夫だろうと写真を零くんに送った。
「じゃ、上げるよ」
「うむ」
文章を打ち込んで、投稿ボタンを揃って押す。同じ時間のSNSのタイムラインに同じ写真が二つ並んだ。
『かわいいじゃろ』
漢字変換のされていない、疑問符なしの断定の文面はいかにも零くんといった具合だ。俺の投稿と合わせて瞬く間に拡散されて、反応が付けられていく。中にはよく知った名前も見えた。
「これ、何について?」
「
…
くくく、秘密じゃよ」
『何』がかわいいのか、は書かれていない。問いかけてみるもはぐらかされてしまった。表示されている通りに受け取るなら、ぬいぐるみなのだろうけれど。それが何を示しているのかは、零くんのみぞ知る。
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