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かなざわ
2026-06-21 23:33:33
5367文字
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薄明の縁、ふたり
よだつかワンライ第14回お題「あくび」で参加&投稿作品。作成時間2h35min。
2P目追加。14回お題「くしゃみ」で参加。作成時間2h。
恋人関係、未同棲の二人。
タイトルの読みは「はくめい」でも「うすあかり」でも「ふち」でも「えん」でも、お好きな読み方でどうぞ。
1
2
前触れなく意識が眠りの淵から浮上した。
仰向けの姿勢で寝ていた司は、うっすらと目を開けた。いつしか見慣れてしまった天井と、隣から微かに聞こえてくる自分以外の誰かの寝息。
隣へゆっくりと顔を向けて、司は内心で「わあ、夜鷹純だぁ
……
」と呟いていた。冠している名前の通りにどこか猛禽類を思わせる鋭い眼差しは、伏せられた目蓋により隠されている。存在感のある長い睫毛も相俟って、その容貌はどこかビスクドールめいて見えた。
起きている時の純に対して人形めいているなどとは微塵も感じることはない。強い眼力と歯に衣着せぬ物言いは、可愛らしさとはほど遠いものだからだ。
今でこそ純の隣にいるという事実に慣れてきた司だったが、時折ふっと「夜鷹純が俺の恋人って、本当だっけ?」という気持ちに駆られることがある。そこにある感情は善悪や罪悪感というより、単純に疑問として沸き上がってくるという感覚に近い。
暫し純の横顔を眺めていた司は、やがてふっと微笑んだ。ここに至るまでの経緯はどうあれ、今の司が夜鷹純の恋人という立場である事実は変わらない。特別さが増えていくなんてことがあるんだ、と思わされてしまったのだから腹を括るしかなかった。
目が覚めたついでに水分補給しておこうかな、とゆっくり体を起こした。サイドテーブルに置いてあるペットボトルを手に取り、その軽さに瞬いた。
振ってみるとぱちゃ、と心許ない水音がした。見ると、中身は二口分くらいしか残っていない。
「あー
……
」
寝入る前のことを思い返す。映画が終わった後、ソファでキスをして。その空気のままベッドへ雪崩れ込み、恋人らしく睦み合ったのだった。
触れて、触れられて、手を重ねて、額を合わせて、互いの名を囁き合って、ぬるま湯を揺蕩うような穏やかな時間を過ごした。
ふわふわとした心地の中、純に何度か水を飲まされた覚えがある。
「うぅ
……
」
汗だくにこそならなかったが、汗ばむような行為はした。それが原因で喉が乾き目が覚めたらしい。途端に熱くなった頬を手で押さえ、そろりとベッドから足を下ろす。
足音を忍ばせて部屋を出た司は、すっかり歩き慣れてしまった廊下に歩を進めた。一歩進むごとに、フローリングの冷たさが裸足の足裏に伝わってくる。凍えるほどの寒さは過ぎ去り、夏まで間近の季節ではあるが朝晩は少しばかり冷えるようだった。
ぺた、ぺた、とゆっくり歩き、キッチンの定位置に置かれたミネラルウォーターのペットボトルを手に取った。蓋を開けて中身を煽る。ラベルの貼られていないそれがどこの何という水なのか、司は未だに知らなかった。
喉の乾きが解消された司は寝室に戻ろうとしたが、しばし考えてもう一本足すことにする。言わずもがな、純の分だった。
小さくあくびをしながら寝室へ戻ろうとした司は、ふと足を止めた。カーテンの隙間から見える窓の向こうの空は、うっすらと明るい。
司は何となく窓辺に寄り、細い隙間から外を眺めた。地平線が明るく輝き、夜の空を押しやろうとしている。
「なんて言うんだっけか
……
あ、マジックアワー」
夜と朝が混ざり合うような色は美しかった。決して交差しないだろうと思われるものでも、きっかけさえあれば交わることがあるのかもしれない。
純との関係を空の色に重ね合わせていた自身に気づき、司はふっと苦笑する。今でこそ別世界の人だなんて意識はないけれど、初めて邂逅した時にはそれこそ奇跡が起こったのではないかとさえ感じたのだ。それくらいに、引退後の純は消息が語られることはなかったから。
初めて顔を合わせた時にお互い麦茶でずぶ濡れって、なかなかないよな。
取り留めもなく思い返していると、前触れなくくしゃみが出た。窓際に突っ立っていたものだから、少し冷えたようだった。
「もどろう」
空が明るくなりつつあるとは言え、まだ夜明け前の時間だ。起きるには些か早い。カーテンの隙間はそのままに、寝室へ踵を返す。
寝室に戻った司はサイドテーブルにミネラルウォーターを並べて置いた。ペットボトルが二本並んでいる、なんてことはない光景だ。けれどそれが、心の柔らかい場所を撫でるような心地だった。
二人分のものが並んでいる、その事実が面映ゆい。思春期かよ、と自身の内心に呆れつつそっとベッドに横たわった。
「つかさ」
囁くような声音で呼ばれ驚いた。隣を見ると、純は眠そうに目を瞬いている。
「純さん? 起こしましたか」
「別に
……
こっち」
「え、うわ」
純が体を横に向けた、と思った次の瞬間におもむろに腕が伸びてきた。肩を掴まれて抱き込まれる。
寝ぼけてるのかな、珍しい。
そんなことを考えていると、純の手が上掛けを引き上げて司の肩までを覆った。
「純さん?」
純の手はそのまま司の肩をゆっくりぽんぽん、と撫でた。慈しむ動きだ、と思った。
「くしゃみしてた」
「
……
しました」
「うん
……
」
眠りに片足以上意識を突っ込んだ声で頷いた純は、司を抱え込んだまま寝息を立て始めた。穏やかな吐息が司の耳元で繰り返される。
司はしばらく天井を見上げたままでいた。純は司が離れた部屋でしたくしゃみを聞いて起きたらしい。司の体温が高いことは知っているはずなのに、わざわざ上掛けをかけ直してから抱き締めてくれた。
愛され、大切にされている。知ってはいたけれど改めて目に見える形で示されると、どうしようもなく頬が緩んだ。
今の俺、絶対だらしない顔してる。
自覚はあれど、誰に見られているわけでもないのだから構わないか、と開き直った。純を起こさないよう慎重に身動ぎし、自身を抱え込む腕にそっと手を添えた。
今日は休みで、二度寝をしても誰に咎められることはない。暖かい気持ちでそっと純に身を寄せた司は、ゆっくりと目を伏せたのだった。
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