幸福の果実を食んで

『夢の語り部』設定。
今日の近藤のご執心はどうやらイチゴ狩りの様子。
それを察した土方は……。

この作品は2026年4月4日・5日に開催された、ぐだぐだ鯖WEBオンリー「ボイラー室横より愛をこめてW~二回目~」での白殊独自のリクエスト受付企画【白殊に歳勇小説リクエストを投げつけようVol.2】でリクエストいただいたものです。

◆リクエスト内容◆
『夢の語り部』の設定で、歳勇がイチゴ狩りに行くお話。

イチゴ狩りは楽しくて美味しくて最高ですね!
近藤さんなら一畝くらいは平気で……?(そんな馬鹿な
ともあれ、楽しく書かせていただきました!
ありがとうございます!!

『夢の語り部』( https://privatter.me/page/69566231a7634 )設定
現代転生パロ。
近藤さんのが年下設定(二歳差)で、1臨・黒の剣士の外見。
土方さんには記憶がありますが近藤さんには記憶無し。

幸福しあわせの果実をんで


 一月某日、近藤さんが何やらTVで何やら熱心に見ていた。
「何見てんだ?」
「ぴゃっ!」
 相当夢中だったのか、声をかけたら驚いて飛び上がった。
「あ、あ、あ、歳。ごめん、気付かなかった」
「いや、こっちこそ悪かった」
 謝罪してTVを覗き込めば、今の住まいから少し離れたところの農園のイチゴ狩りの生中継らしかった。
「イチゴ狩りか。季節だな」
「うん。三十分間、三~五種類のイチゴが食べ放題だって」
 近藤さんは甘いものが好きだ。
 和洋様々な菓子は言うに及ばず、果物も大好きのうちに入る。
 それがこうも熱心に見ているとなれば──
「行くか?」
「え!?」
 近藤さんは目を輝かせた。
「行って行けない距離ではなさそうだし、車もある。休日は混むかもしれないが、予約とかあれば入れていけばいいだろう」
「うん! 行こう! 予約できるって!!」
 見れば手元にしっかりと農園の連絡先のメモが取ってあった。
「よし、決まりだな」
 中継すぐは混むだろうから、少し日にちをずらしてから予約の電話を入れることにした。



 本当に歳は俺の願いをすぐ叶えてくれる。
 今回だってそうだ。
 甘やかされすぎかもしれないけれど、それはとても嬉しい。

 TVで見てから三週間ほど経った二月半ば、俺たちはイチゴ狩りの農園にやってきた。
 沢山並ぶビニールハウスの一棟に案内され中に入れてもらう。
 そこはまさにイチゴパラダイスだった。
 整然と並んだ水耕栽培の畝によく茂ったイチゴの葉、そして鮮やかに輝く数々のイチゴの果実。
 甘い匂いが立ちこめて、それだけで幸せな気分になる。
 ヘタを入れるプラスチックの容器の中に更に小さな容器があって練乳がセットされている。
 摘み方やどのように育った果実が甘いかなどのレクチャーを受けて、いよいよイチゴ狩りの開始だ。
 あと、ビニールハウス内になぜかいるハエの説明も受けた。
 それは農業専用に飼育された清潔なハエで、イチゴの受粉に使うものなので、安心してほしいとのことだった。
 世の中にはまだまだ知らないことがあるなぁ、と思いながらまずは一つ、紅玉ルビーのように色づいた果実を摘み取った。
 イチゴ本来の味を楽しみたいと思ったから練乳はつけず、そのまま頬張る。
 しゃくりという心地よい感触と共に、爽やかな酸味と瑞々しい甘さが口いっぱいに広がった。
 そのまま二個三個と食べ進める。
 数畝ごとにイチゴの種類は変わるらしく、別の所に移動すれば今度は酸味がほとんどなく練乳がいらないくらい甘い果実になった。
 今はイチゴの旬で、一番多くの種類が食べられるようだ。
 同じビニールハウスの中ならどこまで行っても大丈夫で、俺は転々と移動しながら夢中でイチゴを食べ続けた。
 あっという間に手元のパックがヘタでいっぱいになる。
「近藤さん、パックを交換しよう」
 聞こえた歳の声に俺ははっと正気に戻る。
 イチゴに目を奪われていて、歳が一緒にいることを半分忘れていた。
「ごめん、歳……
 俺に差し出された歳のパックを見れば数個分のヘタが入っているだけで練乳もほぼ手つかずだった。
「あんたが楽しいのならそれでいいさ。まだ時間はある、十分堪能してくれ」
 自分のパックのヘタを俺の方へ移し、交換をする。
 歳の手へと移った先ほどまでの自分のパックを見れば、一体どれだけ食べたのか見当も付かない量のヘタが積み上がっていた。
「──やっぱり俺って、大食いだよなぁ……
 ぽつりとそう呟けば、歳はぽんと俺の肩を叩いた。
「美味そうに食べるあんたがいいんだ。そんなこと気にするな」
「歳も沢山食べて!」
「食べてるぞ」
 俺がそう言えば歳は近場のイチゴを摘み取って、口に入れた。
「うん、美味い」
「まだ行ってないところがあるから向こうに行ってみよう。また種類が変わるらしい」
「それはいいな」
 俺は歳の袖を引いて別の畝に移動した。
 そこのイチゴは酸味と甘味のバランスが一番よく、練乳をつけると更に味がよくなった。
 ふと歳を見ると、イチゴを一粒手に取り、なにか物思いに耽るような顔をしていた。
「どうしたんだ?」
「いやなに、イチゴの色が──あんたの瞳の色だなと思って」
 サラッと言われた台詞に、俺は頬が赤くなるのがわかった。
「な、何を言ってるんだ、イチゴの方がよっぽど綺麗なのに」
 あわあわと動揺して身体が震える。
 あわや手にしたパックを落としそうにもなった。
「それに、歳の瞳だってイチゴに負けないくらい綺麗だ!」
「そんなに綺麗か?」
 咄嗟とっさに切り返した俺の言葉に歳は軽く首を傾げ、ふふ、と笑った。
「俺の中では一番綺麗だ!」
 俺が慌ててるのを除けば、かなりのいい雰囲気だが周囲は家族連れも多く、人目がありすぎる。
「土産、買って帰ろうな」
 歳は手にした一粒をぱくりと口に入れて先ほどまでの色男ぶりを解除した。
「うん」
 それにほっと息をついて俺は赤い顔を誤魔化すように下の方のイチゴの吟味に戻った。

 三十分はあっという間だった。
 でも俺のパックは途中歳と交換してもらったにも関わらずヘタでいっぱいになっていた。
 何十個食べたのか、数えてないからわからない。
「まだ入るならソフトクリームでも食うか?」
 パックを処分してもらい農園入り口付近に戻ると、歳はそう言って隣を歩く俺を振り返る。
「食べる!」
 甘いものは別腹、とか言うけれどさっきまであれだけイチゴを食べたのに、まだいける自分はちょっととんでもないと思いはしたが、冷たいそれの魅惑には勝てなかった。
 イチゴ味とバニラ味、そのミックスとあったのでミックスを選ぶ。
 歳はバニラ味を選んだ。
「イチゴの甘みが際立つけれど、バニラも負けてなくて美味しい」
「バニラだけもいけるぜ。でも美味そうだから俺もミックスにすればよかったかな」
 どこかのグルメリポーターみたいに言う俺を歳は柔らかい笑顔で見守ってくれた。
 ソフトクリームを食べ終わって売店を覗く。
 歳は四パック入りの箱を二つ選んだ。
「お遣い物にするのか?」
「あぁ、父さんのところに二つと、ねーさん達に一つずつ。残りは帰ったらな」
 つまりそれは自宅用に四パック──ぶっちゃけてしまえば俺用なのでは!? と思ってみる。
「そんなに食べないよ?」
「大丈夫だ、俺も食うから」
 歳は頬を染めて言う俺の肩をぽんぽんと叩き、会計を済ませた。
 イチゴを車に積み込み農園を後にする。
 車内にふわりと香るイチゴの芳香が農園から続く幸せな気分を延長させてくれた。
 歳の実家とお姉さん二人の家にそれぞれ寄り、イチゴを渡す。
 皆とても喜んでくれた。
 特に歳のすぐ上のお姉さんは『としぞーも気が利くようになったじゃない。勇ちゃんのおかげね!』と俺を褒めてくれたくらいだ。
 歳と俺とのことはご実家にも話が通っている。
 特にお姉さん二人には俺は『勇ちゃん』と呼ばれ、もう一人の弟みたいな扱いをしてもらっている。


「楽しかった。また機会があれば行こう?」
 帰途につく車のハンドルを握る歳にそう微笑みかける。
「そうだな、次は食べ放題付きのメロン狩りとかどうだ? この辺にはないが少し遠出して泊まりがけでもいい」
「いいな、高級で」
 他愛もない会話を交わしながら俺はじんわりと胸が温かくなった。
 愛する人と、こうしてなんの気兼ねもなく一緒にいられる。
 それは簡単なことに見えて実は大変なことなのだろう。
 歳のおかげで、俺はそれが十二分にできている。
 でもそれに甘えてばかりはいられない。
 俺だって堂々と歳の隣にいられるように努力は惜しまないつもりだ。
「歳」
「ん?」
「いつも、ありがとう。俺、幸せだよ」
 唐突な俺の言葉に歳は一瞬視線だけをこちらに向けたが、すぐにそれは戻した。
 でも俺は見逃さない、その唇が弧を描いたことを。
「もっともっと幸せにするさ。生涯をかけて」
「俺も歳を幸せにしたい。一緒にそうなろう?」
 想いを込めて言葉を紡ぐ俺に歳は静かに、けれどしっかりと頷いてくれた。

 季節はもう春。
 これからも俺たちの間にはいろいろなことが起こるだろう。
 でも、二人なら大丈夫。
 流れゆく車窓の景色を眺めながら、俺はそう思った。