真経津(CP無し)の小話です。「#RTの早い5人に落書き投げつける見た人も強制でやる」タグで、Blueskyにて投げていたもの⑤です。niko-bskyさん、ありがとうございました! (初出:2026/05/28)
夜の街を、真経津晨は歩いていた。
夕食時はとうに過ぎ、深夜と呼んで差し支えない時間帯にかかる頃。それでも繁華街には大勢の人が行き交い、立ち並ぶ店が明かりを灯し続けていた。若者の集団が突如として笑い声を上げ、酔ったサラリーマンが顔を顰めて通り過ぎる。毎晩毎週末、飽きもせずに繰り返される光景だ。
その中を、真経津はひとりで歩いていく。
ゆったりとした歩調、遠く前を見る眼。特に人を避ける動作もしないが、誰も彼にぶつかることは無い。明るい茶色の髪、紫色のパーカーという目立つ恰好にも関わらず、彼に視線を留める者すらいなかった。まるで、誰の視界にも映っていないかのように。
世界は、誰もボクを見ない、と真経津は思った。
だから、自由に何処へでも行ける。
ここは楽しかったけれど、離れてしまったって、きっと平気だ。
だって楽しいことはまだ、何処にでも転がっているはずだから。
人混みを抜け、ビルの角を曲がったところで、真経津は足を止めた。つめたい外壁にもたれかかって、空を見上げる。
暗い空には、小さな薄雲が浮かんでいた。周囲にあふれる街灯りに遮られて、星の光は届かない。満月が出ているはずだったが、高いビルの陰になっているのか、真経津の視界には入らなかった。
ポケットに手を入れて、スマートフォンを取り出す。
ぴくりとも表情を動かさないままで、真経津は細い指先を滑らせる。連絡先のリストを出し、全てを選択し、消去のボタンを押そうとして
——指を止めた。
からんからん、と近くで呼び鈴のような音が鳴ったのだ。
この音を、聞いたことがある。
「
……?」
真経津は周囲を見回した。
少し先にある店の扉が開き、数名の男たちが入っていくところだった。思い思いのカジュアルな服装で、楽しそうに談笑している。呼び鈴のような音は、その店のドアベルだった。
真経津は数歩近づいて、閉じた店の扉を見つめた。色褪せかけた緑色の塗料とその下の木目、細かい彫りのある真鍮の把手、すりガラスの窓からこぼれる温かい光。
以前に、彼らと訪れた店だった。
ひとたび記憶がつながれば、次々に思い出が蘇る。店内の光景、料理の味、匂い。彼らと交わした会話、あふれる笑顔。
失うことのない、時間。
「ふふっ
……」
この夜初めて、真経津は微笑んだ。
スマートフォンを持ち直し、画面をホームに戻す。履歴を繰り、ひとつの番号を選んで発信ボタンを押した。
トゥルルルル、と呼び出し音が鳴る。ほどなく相手が応じる。
「もしもし? うん、ボクだよ。今、ヒマ?」
電話の向こうから、驚きと呆れの混じり合った声がする。夜も深まる今、突然の電話に対する返しとしては至極真っ当なものだ。
だが、真経津はそんなことでは動じない。
「そんなこと言わないでさ、ボクと遊ぼうよ
……楽しいでしょ?」
歌うように言って、真経津は歩き出す。たとえ彼が無理でも、次の誰かはきっと大丈夫だと、迷いなく信じることができた。
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