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Rena Suzukey
2026-06-06 21:42:54
7110文字
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垂涎..Chapter96 - 番外花生夫夫二三事02-03
番外:花生夫夫のちょっとした出来事02
「花咏」
ソファの上に立っている小花生は、半分身を乗り出して、少し離れたテーブルで会議中の父親に子どもらしい甘ったるい声で呼びかけた。花生はアニメ風のピーナッツ柄の靴下を片足に履いていたが、もう片方の靴下はどこにも見当たらなかった。
盛少游は片手で彼をソファから抱き上げてたしなめた。
「失礼だぞ」
小花生は目を瞠った。盛少游は乳母がソファのクッションの下から見つけたもう片方の靴下を受け取って、かがんで履かせてやった。
ちびすけは蓮根の節のような白くてふっくらした腕をひらひら振って釈明した。
「幼稚園の先生が言ったんだ。名前は、その人だけが持つ特別な記号なんだって。みーんな、人の言うことに耳を傾けて学ぶべきだし、同時に“召喚”も学ぶべきだって」
盛少游は困ったように彼を見やり、訂正した。
「それは“呼びかけ”って言うんだ。公・検・法で犯罪容疑者を出頭させる時に使うのが“召喚”だ」
「パパ」
小花生はおしゃぶりを吸いながら好奇心いっぱいに尋ねた。
「公・検・法ってなあに?」
「公安、検察、裁判所の略語だ」
「あ~」
三歳のちびすけは頷き、分かったふりをした。ぶどうのように大きな目を開けたまま、盛少游に続けて問いかけた。
「その、犯罪容疑者ってなあに?」
「重大な過ちを犯した人のことさ」
「文琅パパみたいな?」
「こう考えるといい」
臨時の電話会議を終えた花咏は、すぐに携帯電話を置いて歩み寄り、ソファの背もたれ越しに盛少游を後ろから抱きしめた。花咏はそっと盛少游のこめかみに口付けると、愛する人の腕の中で行儀よく座っている小花生に笑いかけた。
「君の文琅パパは、現在ほぼ執行猶予付き死刑、みたいな状態にある」
「執行猶予付き死刑ってなあに?」
「つまり死刑よりはマシってこと」
花咏は微笑んだ。
「死刑判決は受けたけど、まだ執行が猶予されてる」
「そうなの?」
小花生は好奇心旺盛にソファにうつ伏せると、父親を見つめてさらに尋ねた。
「なら、文琅パパは死んじゃうの?」
花咏は微笑んで息子の頬をつまみ、適当に言った。
「死ぬより辛い、生き地獄ってところかな。あいつは固い信念と君の高途叔父さんの微かな後光にすがってかろうじて生きて──、」
「デタラメを教えるな!」
盛少游は我慢できず彼の手を叩いた。
「花生の頬をつまむな。夜によだれを垂らすじゃないか! ほら見ろ、こんなに赤くなってる!」
「痛くないでしょ」
花咏はばつが悪そうに赤くなった手を引っ込めながらもごもごとつぶやき、強引に言い訳しようとした。
「それに、小花生は僕が頬をつまむのが好きなんだよ。ね、小花生?」
父の膝の上に座っていた小花生は、家庭内の力関係を完璧に理解していたので、秒で寝返った。
彼は小さな顔をしかめ、可哀想ぶって盛少游の腕の中に潜り込む。
「違うもん! 花咏、あっち行ってよ! 頬をつままないで! よだれが出るでしょ!」
よだれを垂らしているところを、万が一にも新しく来た隣の席の高楽楽に見られたら? 恥ずかしすぎる!
外で足をちょいと動かしただけで、東半球全体を揺るがすほどのEnigmaは、どうしようもなく両手を広げ、愛する人にいけしゃあしゃあと訴えた。
「ちょっと見てよ! この子ってばいつかきっと僕の頭の上まで這い上がってきちゃうよ!」
「昨日パパの上に乗っかってたのはそっちだろ!」
小花生は負けじと言い返した。
盛少游はたちまち顔を赤らめ、彼を腕の中から引き剥がすと、厳しく言った。
「無礼は許さないぞ!」
常識外れな花咏とは違い、盛少游は極めて伝統的な東洋人で、古来の美徳を骨の髄から信奉していた。盛少游に叱られた小花生は、すぐに大人しく顔をひょいとのぞかせて、花咏に可愛らしく微笑んでみせた。
「父さん、冗談だよ」
──そうだといいけど。
俗に言う、三つ子の魂百まで、というやつだ。花咏は自分を愛情深い人間だとは思っていないし、これまで誰かの三歳を気にかけたこともない。
盛少游の身体から生えたこの一粒の小花生だけが、彼に「折れてやってもいい」と思わせるのだった。
花咏には想像もできなかった。自分の膝丈くらいのちびすけと、いつか穏やかな気持で“対等な対話”ができる日がくるなんて。
可愛くたっていい。憎らしくたっていい。
このやんちゃなちびすけが、愛する人の腕の中で、健やかに無事に大きくなってくれるなら。
実は運命とは、自分にとって優しいものだったと花咏には、思えるのだ。
番外:花生夫夫のちょっとした出来事03
小花生は、最近あまり機嫌がよくない。隣の席の高楽楽が、ここ何日かしょっちゅう学校を休んでいるせいだ。
午後四時、車のリュックを背負った小花生は、しょんぼりと一組から出てきた。
父たちの誰一人も来ていなかった。入口のところで待っていたのは運転手と乳母だけだった。小花生を目にすると、彼らはすぐに説明を始めた。
「坊ちゃん、花さんと盛さんには急用ができたんです。だから、私と乳母がお迎えに上がりました」
──急用ができたって?
小花生は身体は小さくても、頭の回転は抜群に速かった。彼は明らかに早熟で、論理的思考力は同年代の子どもたちをはるかに凌駕していた。彼にとって、同い年の高楽楽も、ただぼんやりちゃんの可愛い子、というだけだった。
急用ができたなんて、とても信じられない。なぜならここ数日、家の中は濃い蘭花の香りが満ちるとともに、清冽な酒の風味を帯びた木香も漂っていたからだった。確かめてみたけれど、庭の蘭はまったく咲いていなかったし、ワインセラーにはしっかりと鍵がかかっていた! ゆえに、その香りは父のものに違いない。
小花生のこれまでの経験からすると、こういう時期が来ると、家族の大人二人は揃って一週間ほど姿を消す。きっと自分に内緒で二人で美味しいものでも食べに行ってるんだ!
パパはいつも、甘いものはダメだって言う! きっとこっそりアイスクリームとケーキを食べに行ったんだ!
当然ながら、こうした推測にはまったく根拠がないわけではなかった。先々月の今頃、夜中に目が覚めた小花生は、あちこちとパパを探しまわった。そしてリビングに大人二人がいるのを見つけた。
リビングの電気は消えており、ソファは高すぎて小花生の視界は完全に遮られていた。しかし、小花生ははっきりと父さんがこう言うのを耳にしたのだ。
「盛さん、うん
……
あなたってすごく甘い」
ケーキとアイスクリームが甘いことなんて、誰もが知ってる! だから、彼らはこっそりケーキを食べたに違いない!
そこまで考えて、小花生は腹を立てた。
──なんだよ! パパたちってばひどい! 僕を連れて行かずに美味しいものを食べるなんてさ!
小花生はぷんぷん怒りながら家に帰り、子ども用のスマートウォッチで高楽楽に電話をかけた。
最初の電話には応答がなかった。
そこで小花生は辛抱強く二度目の電話をかけた。
今度はようやくつながったが、電話に出たのは高楽楽ではなかった。
電話の向こうから聞こえてきた温かみのある声は、名付け親のものでないことは明らかだった。
「高途叔父さん」
賢い小花生は、甘えたような声で一声呼びかけてから尋ねた。
「楽楽は?」
「楽楽は風邪をひいて熱があってね。休んでるよ」
「ひどいの?」
楽楽が病気だと聞いて、小花生はすっかりアイスやケーキのことは頭から消えてしまい、桃色のふっくらとした小さな顔には明らかに不安が浮かび、心配でたまらない様子だった。
「大したことないよ」
高途はすぐに安心させるように言った。
「もう熱も下がったし、明日は一緒に学校に行けるよ」
「ならよかった」
子どもの気分は六月の天気のように、晴れたり降ったり目まぐるしい。
「高途叔父さん、だったらもう楽楽を困らせないよ。明日学校でね!」
「いい子だね、また明日」
通話が切れる前、名付け親の声が小花生の耳に飛び込んできた。
「誰から?」
名付け親はやさしく尋ねたようだった。それから拗ねたように言った。
「どうして抱きしめさせてくれない?」
以前、沈文琅と出かけた時のこと。小花生はずっと名付け親に抱っこしてもらいたかったのに、彼ときたら気取り屋の怠け者で少しばかりの力も出し惜しみ、いつも自分の足で歩けと言われていたことを思い出した。
今日になって急に態度を変えて、抱きしめさせてと自分からわあわあせがむのはどうして?
大人ってやっぱり複雑だな。
小花生は顎に手を当ててしばらく考え込んだが答えが見つからず、ふと父たちのことに意識が向いた。
パパは最近体調を崩していて、一昨日は夕食で魚のスープを少し飲んだだけで吐いてしまった。父さんはひどく心配そうだった。バスルームまでついていくと何度もこっそり尋ねていた。
「またできちゃったの?」
小花生には、パパにいったい何ができたのかはわからなかった。その晩寝る前に、読み聞かせをしてくれていた盛少游に、小花生は興味津々で尋ねた。
「パパ、またできちゃったかもって言ってたのは、どういうこと?」
盛少游ははっとして、みるみるうちに顔が赤くなった。
いくら賢い小花生三歳とはいえ、パパがなぜ恥ずかしがっているのかは理解できなかった。彼はくりくりした大きな瞳でパパを見つめ、答えを待った。
盛少游は彼の疑問には直接答えず、本を閉じるとこう問い返した。
「小花生、妹か弟が欲しい?」
「欲しい!」
小花生は大きな声でぱっと即答した。小さな手で布団をトントン叩きながら嬉しそうに夢を膨らませる。
「弟か妹ができたら、僕はお兄ちゃんだね!」
「そんなにお兄ちゃんになりたいのか?」
「うん! お兄ちゃんだったら、弟や妹を守れるもん」
盛少游は笑みを浮かべて彼の頭を撫でた。
「うちの小花生が、こんなに小さなヒーローだったなんて知らなかったな」
小花生は黙り込んだ。彼は少し恥ずかしそうに、父の胸に頭をうずめると、小さな手を広げて盛少游をぎゅっと抱きしめて囁いた。
「パパ、僕はパパだって守るよ」
小花生は盛少游にとても懐いていて、かつては毎晩パパに抱っこされて眠りたいと思っていたが、父さんは厳しかった。小花生に一人で寝るようにと言うだけでなく、夜中に寝室までパパを探しにくることも禁じていた。
昼間、盛少游は仕事でとても忙しい。小花生が盛少游の時間と抱擁を独り占めできるのは、寝る前の読み聞かせの時間だけだった。だが、この心温まる光景はすぐに邪魔されてしまった。
嫉妬深く、大人げなく、いつも子どもとパパを取り合っている父さんが寝室のドアを開けたのだ。彼はヒーローの夢に浸っている小花生に容赦なく冷水を浴びせた。
「君の出番なんてある? 僕の後ろに並び直すんだね」
花咏はテレビ会議を終えたばかりだった。主寝室を一通り探したが盛少游がいなかったので、子ども部屋までやってきたのだ。小花生は盛少游の腕の中から顔を半分出して花咏に文句を言った。
「父さんうるさい! 出てって!」
「何て言った?」
花咏の顔がすっと冷えた。
しかし小花生は怖くなかった。盛少游の腕にしがみついて離れず、パパの懐に隠れながら花咏にあっかんべえと舌を出した。
「子どもをいじめるな! 恥をしれ!」
残念ながら、大人二人はやはり一つの布団を共有するほど仲が良いのだった。パパは小花生を抱きしめてはいたが、それでもこう言った。
「父さんにそんな口を利くな」
花咏の顔は無表情のままだったが、小花生には彼の目に得意げな色が浮かぶのがわかった。父さんの嫉妬深い態度に不満はあったものの、小花生はまだ幼く、狡猾な父さんには敵わないことは分かっていた。そこで仕方なく折れることにし、蜜桃のように短い産毛が生えた小さな顔を、パパの胸もとに擦り付けて小声で謝った。
「ごめんなさい、僕が悪かった」
盛少游は優しく彼の小さな頭を撫で、立ち上がって電気を消して言った。
「さあ、おやすみ。明日は楽楽に会えるよ」
花咏はドアのところに立ったまま、心から愛するAlphaが、この世界で唯一自分の頭の上に這い上がる勇気のある悪ガキをあやす様子を見ていた。盛少游が子ども部屋のドアを閉めてから、彼はようやくその胸に顔を埋め、拗ねたように呟いた。
「あのちびすけったら、僕にすごく厳しい」
「非常識なのはお前が先だろ」
子どもの前ではいつも花咏の味方をしていたが、盛少游は人目のないところではいつも容赦なく彼を批判していた。
「子どもと常に張り合うのは止めろ。あの子はまだ三十六ヶ月だぞ? お前はいくつだよ?」
「僕だって、ただの三百数ヶ月の赤ちゃんだよ?」
花咏は盛少游のうなじにふっと息を吹きかけた。温かく、独特の蘭香を含んだ吐息がうなじに纏わりついた。
盛少游はくすぐったくて身をすくめた。それから突然何かを思い出したように、ちょうどいたずらしようとしていた花咏を少し押しやった。
「小花生が、弟か妹が欲しいって」
花咏の笑顔が瞬時に冷え切った。彼は考えることすらせずきっぱりと拒絶した。
「だめ」
花咏が盛少游にこれほど有無を言わさない言い方をすることなど滅多にない。しかし盛少游は怒らなかった。ただため息をつき、手を伸ばして花咏のふわふわと柔らかい髪をくしゃくしゃにした。
「まったくお前は
……
」
花咏は声もなくぎゅっと正面から彼を抱きしめ直すと、しばらくじっとしてから言った。
「今日はちょっとした胃腸炎を起こしてただけだけど、すごく怖くておかしくなりそうだった。盛さん、もう僕を怯えさせないで。あの時だけで十分だ」
花咏は人生において何かを恐れたことなどほぼなかった。だが、盛少游が出産時に危篤状態になったことを思い出すと、何年もたった今でさえ、背筋がゾッとして、恐怖で心臓が早鐘を打ちだすのだった。盛少游は、強い態度には折れないが、やさしいお願いには弱い。花咏の甘えるような言葉に、彼はそれ以上言い張るのをやめた。彼は怯えた小動物をなだめるように、愛する人の薄い背中をぽんぽんと撫でてやった。
「いいさ、ただ言ってみただけだ」
花咏は顔を上げ、潤んだ美しい瞳で彼を見つめた。
「ねえ盛さん、僕は怖がりなんだ。だから、もう二度と言わないで。万一またこの話を口にしたら──」
彼は言葉を詰まらせ、いきなり険しく言った。
「またこの話を口にしたら、パイプカットの手術をする」
盛少游はその言葉に思わず吹き出した。
『やればいい』
そう返したかったが、とても言えなかった。花咏ならきっと実行するだろうと、分かっていたからだ。
盛少游は花咏をわかっていた。目の前のこの美しい青年は、外見だけなら純粋で善良そうにみえるが、その実態は、手段を選ばない詐欺師で、頑固で偏執狂のイカれたガキなのだ。
あの年、小花生を出産した盛少游は、突然大量出血を起こした。容態は極めて深刻で、三時間以内に医師からは四回の危篤が宣告されたほどだった。
彼の腕の中のイカれたガキは、すぐに弁護士を呼ぶと遺言を言い渡した。彼は生まれたばかりの子どもには目もくれず、まるで死に際の願いのように、小花生を沈文琅に託したのだ。
「お前の子どもだろ?どうして自分で育てない」
沈文琅が追求すると、花咏は落ち着いてこう答えた。
「盛さんが行くところなら、僕も行く」
その後、沈文琅からこの話を聞いた盛少游は、感動すると同時に、やるせない気持ちになった。
しかし実は、沈文琅があえて口にできない、もう一つの会話がある。
「馬鹿を言うな! まだ赤ん坊じゃないか! 盛少游とお前の子だろ! 花咏、子どものためにせめて──、」
「僕たち二人とも、死ぬべきだ」
花咏は言った。
「僕たちは一緒になって盛さんを死なせた。もし盛さんの血が半分流れていなかったら、僕があの赤子を生かしておくと思う?」
無表情のまま、手術室の表示ランプをぼんやりと見つめる花咏は、まるで美しい彫像のようだった。
彼の限られた生気と人間らしさは盛少游とともに危篤に陥り、ただ、刀も槍をも通さぬ冷酷さだけが残されたかのようだった。
「お前たちの子どもだぞ。少しも愛していないのか?」
「愛してるさ」
病院の廊下に立った花咏は俯き、その顔には明らかな苦痛が浮かんでいた。
「愛さなきゃ、盛さんが怒るもの」
幸いにも、運命は最終的に彼を見捨てなかった、盛少游は死の淵から間一髪で逃れ、結局彼の傍に留まることになった。
そうして、長い時間をかけて、ついに涙を流すことを学んだ花咏は、今度は懸命に学び始めたのだ──“小花生を愛する”ことを。
小花生が初めて甘えるような幼い声で「とうたん」と呼びかけ、生え始めたばかりの乳歯を見せてにっこりと笑った瞬間、花咏は何かを学んだと思った。
そして、三年がたった今、毎日あの手この手で反抗ばかりするあのちびすけが、愛情と憎らしさの入り混じった感情をついに花咏に抱かせ始めたのだ。
血の繋がったちびすけがいるというのは、実に不思議な感覚だった。
しかも、その子は盛少游と花咏の血が結ばれた存在であり、二人の愛の結晶なのだ。
でも、もういらない。
弟だろうが妹だろうがぜんぶいらない。
盛少游に危険を負わせるような快楽など、断固拒否だ。
彼はもうすっかり現状に満足している。
唯一の願いは
……
二人がずっと一緒に、長い、とても長い一生を過ごすことだけだ。
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