これを文章化したものです
https://privatter.me/page/6a08aac9cc926
部分的にギリシャ語を(妖精語として)インターネッツ・コピペで引っ張り出してますが文法などはもちろんさっぱりなので雰囲気だけです
私が好きなのでフリンズさんはでっけぇもっこもこコート着てることにしています。みんな、寒冷地ではちゃんと着込め。
──その王の家系は、かつて蒼炎のフェイと人狼が交わった事に始まる。
氷神の庇護の下、蒼い炎と共にスネージナヤの野で狼達を束ね共に死者を導いていた。初代氷神ツァーリ・ベールイの崩御と共に彼らはナドクライへと移り住んだが、当時夜明かしの墓に住み着いていた魔物は気高き狼の王を愛してしまう。しかし王は己の最愛のためそれを拒んだ。魔物は悲しみの果てに己の身を焼き蒼炎の狼に呪いをかける。
“かの人がもう誰とも子を成せませんように。その手にあいつとの子を抱けませんように。私を愛さないあなたなら、いらない“
呪いを重く見た王とその番は、墓地に己の子を封印する。いつかこの子が目覚めた時のため、生涯かけて解呪の方法を探そうと。
しかし
……虚しくも呪いは王の一族を初め、数百年かけて少しずつ他の狼たちにも広がって行く。ナドクライの狼は、人狼達は、徐々に数を減らして行き糸口が見つからぬまま、無情にも封印の力は弱まり
……──やがて王の子が目を覚ます。滅びゆく運命を背負った一族の中で。
まだ幼い女王を同胞達は大切に育てた。蒼炎が宿ったランプで死者達を導きながら、幼いフェイへ自分たちの誇りを説いた。
育ててくれた彼らは妖精の血を持たないただの人狼だ。人より長い時を生きてはいるが、封印されていた数百年の間に呪いにより若い個体は減り続け、そして人の姿を保てなくなり、その大多数は老いて死んで行った。
そんな時が止まった夜明かしの墓に、ひとりの人狼が足を踏み入れる。
彼はナドクライに残る狼とは別種
……モンドでその群れをまとめあげる狼である。ナシャタウンで人狼がここに居ると教えられ縄張りへと踏み入る許しを得に来た。
彼が離れたこの国まで来たのは
……モンドでそろそろ次のボスとなる子を作ってはどうか、と周りからせっつかれ、嫁探しの名目で逃亡
……もとい旅行にやってきたという経緯がある。男としては自分も魔神の加護をたまたま色濃く受けるただの人狼なのだから、群れの長などその時の適正で選べばいいと思うのだが
……まぁ気分転換にもいいだろうと璃月などを経由してこのナドクライにたどり着いたのだ。
大きな耳をひっきりなしに動かし辺りの様子を探る。そこは墓地と言われるだけあって大分静かで、常に薄暗い。一応複数の気配が己を警戒している事がわかるが、こちらが不審なことをしない限り攻撃する気はないらしい。
──誰かいないか。そう叫ぶ前に
……寂れた灯台の下に設置されたベンチの上ででだらりと眠る誰かを見つけた。
彼と同じく人狼の
……女性だ。大きなファーのついた外套に半ば埋まるように寝転がって規則正しい寝息を立ている。その傍らには1匹の狼。人狼ではない。恐らく彼(彼女かもしれない)を見張りに立てているのだろう。部外者が入り込んだ割には彼女だけ異様に警戒心が薄く見える。
狼がソファから垂れた手をひと舐めすると、やっと彼女が身動ぎをした。男の姿を認めても尚のんびり欠伸をしたあと、男にかけた言語はテイワットでは聞き馴染みのない響きで、挨拶よりも先にえ?と少し間抜けな声が出てしまい反射で口を塞いだ。
群れの長であろう彼女はその反応を見て笑っている。その美しさについ見とれている間、そばに居た狼が何回かどこかへ吠えた。すると遠くからガサガサと草木をかき分ける音と共に人狼の少年が飛び出してくる。
片手にランプを掲げた銀色の毛並みの少年は「お客さんでしょうか」と男女の間に立った。
暗い中にランプで照らされ少し眩しい。恐らく警戒対象の男を良く観察したいが故だろう。
「 χαῖρε」
「
……えっと、今のは挨拶です。彼女は妖精語のみを話すので
……僕が間に入らせて頂きます」
「
……名乗るのが遅れてすまない。俺はファルカ。風の国モンドから来た。
……今回は異国の同胞の縄張りに立ち入る許しを貰おうと思ってな」
«これはご丁寧に。僕はキリル・チュードミロヴィッチ・フリンズと申します。どうぞフリンズとお呼びください»
少年を通しての彼女
……フリンズの言葉は少年と同じく柔らかい敬語だが、雰囲気が違うというのは言語が理解できなくてもわかる。彼女の声は男性のように低いものだが、それから余計に落ち着いた気品を感じる。曰く“蒼炎の狼”は先代氷神に仕えていたのだからその辺の粗野な獣とは違うんだろう。
……なんて美しいんだ。ファルカは当てられたライト以外の眩しさを感じ目を細めた。
彼の中の獣が本能で言う。「彼女を番にしたい」と。
不躾なのはさすがのファルカも解っているのだが、この直感と衝動を飲み込んだら何故だかもう己の大事な道が消え去ってしまう気がした。本当に大仰な例えではあるが
……運命だと、その時のファルカは思ったのだ。
「
……実は番を探すなんて口実にモンドを飛び出したんだが
……お前さんが良ければ俺と番に、」
ファルカの言葉を遮って、少年がえ!?と大きな声を上げる。流石にその性急さに驚いたのだろう。だがそのプロポーズを受けたフリンズはクスクスと笑ってから、静かに首を左右に揺らす。
「
……ごほんっ
……続けますね
……」
«大変光栄な申し出ですが、僕たちは子を成せない呪われた一族。滅びを待つだけの我々と番うなんて無謀ですよ、北風の狼さん»
「
……呪い?」
ナドクライの狼達は徐々に個体数を減らしていると、モンドにいる時噂には聞いた。だが呪いの話は初耳だ。
«ええ。僕たちはその昔、魔物から呪いを受けました。その内容は今言った通りです。群れの中で最も若いのは彼だけ。
……これ以上
……子供か生まれる見込みはありません»
«
……そろそろ日が暮れます
……もう狩の時間だ。何もお出し出来ずに申し訳ありませんが、今日はお引き取り願います»
イルーガ、と少年の名前らしきものを呟くと少年は返事をして「入口までお送りします。こちらへ」と警戒を隠さない様子でファルカを先導してくれた。
*
ドレスの裾を引きずりながら地下へと潜る。イルーガにコートを預け、代わりに狩りのための黒い装束を受け取った。
「
……周辺の魔物の気配が落ち着いているのは彼のお陰でしょうか」
ドレスをベッドの上に投げながら口を開く。テイワットに住む物なら誰もが耳慣れた言葉にイルーガも慣れた様子で答えた。
「
……恐らく
……僕でも彼の強さはすぐわかりました」
フリンズに背を向け、掛けたコートにブラシをかける。大きく上等な毛皮は、彼女の同族たっての希望により加工され、今は女王を着飾る外套となった。
後ろからふわりと夜の香りがイルーガを包む。我が子のように抱きしめたかと思えば、脱いだドレスを片付けるようイルーガへ。
……フリンズも別に自分で片付けようが構いはしないと思ってはいるのだが、群れの長なのだからこう言ったことは我々に任せろとニキータをはじめ同胞かららは口を酸っぱくして言われていた。(昔は女性が従者としてついていたが、今まともに人の姿を取れるのはイルーガのみなので自ずとイルーガが世話係になっている)
「それにしても
……ふふ、僕を番にしたいだなんて言うのは、彼とあなたくらいのものですね」
からかい混じりの彼女の笑い声にイルーガの頬がかっと熱くなるのがわかる。
「
……そうやって揶揄うのなら首を縦に振って貰いますからね」
「
……それはいけませんね。
……ファルカさん、でしたか
……彼にも言いましたが、僕たちが番うのは不毛です」
「
……本当にそうでしょうか」
「坊ちゃま」
「
……ん
……わかりました。フリンズさんがそう言うのなら僕からは何も言いません。
……あと坊ちゃまはやめてください」
離れる前にそっとイルーガの耳に口付けてから、背筋を伸ばし階段を上がる。こうしている間は、女王とその召使いなどではなく友人同士の
……ともすれば恋人のような2人は
……呪いという柵により今日も何かを壊せないでいた。
「
……さぁ皆さん、時間ですよ」
宵闇を蒼炎が照らす。群れの狼達は既に女王の前に集まり指示を待つ。
「
……周辺の魔物は落ち着いていますが
……その分外部へ流れているかもしれません。
……今日は少し遠くから狩りを始めましょうか」
女王の遠吠えが聞こえる。続いて他の狼達の鳴き声も。
ファルカは崖の上から、どこか切なさを孕むその遠吠えを聞いた。
*
──まさか今日もいらっしゃるとは。
思わず漏れそうになった言葉を飲み込んだ。
「断られはしたがまだ諦めた訳じゃないぞ」
なぜか誇らしげなファルカに目を瞬かせるフリンズ。それを見て見ぬふりをして、ファルカは手に持った包みをテーブルに広げた。
包の中には果物や薬草。言われずともわかる。女王への貢物だ。
「鹿を狩って来ようかとも思ったんだが、ナドクライのルールがまだわからんからな。無駄に獲物を取るのは辞めたんだ。こういうのなら怒られたとしてもまだ街での調達で何とかなるだろ?」
豪快に歯を見せて笑う。その眩しさは今の自分たちには無いものだな、とフリンズは思った。昔は
……眠りにつく前はそうではなかった。今も時折催す宴の席で狼たちがはしゃぎまわる事はあるが、やはり根底にある滅びへの仄暗い感情はずっとまとわりついたまま
……迫る死を受け入れ迎えようとしている。
「
……やっぱり誰かを伴侶にする気はないのか?」
「
…………αδυνατος,ον αγαπαω」
「んー
……お前さんの表情から断られてるのはわかるが
……」
ファルカは口元を緩ませ、傷跡がない方の頬を掻いた。そんな姿すら明るく見える。
……だからこそ彼に自分は相応しくないのだ。モンドに帰り、穏やかな土地で、歴史と共に生きるべきだと。
それでもファルカは毎日来た。イルーガを通して会話する事もあれば、言葉が通じずとも物怖じもしない。フリンズへアプローチを続けている。
貢物は食べ物をはじめ街で入手した装飾品や便利アイテムなど多様だ。人の姿を取れないナドクライの狼たちはほぼ街に寄ることも無くなった。フリンズも日々も見回りや狩りで滅多に顔を出さないため、珍しい物があるとつい手に取って見てしまうのだ。
心を許してはいる。だがそれ以上の事はない。互いに理解していて、それでも揃って妥協する気がないのである。
……ある日の事。唐突に今日は釣りをしたいと言い出した女王様はドレスが濡れないよう狩りの装いで意気揚々と釣竿を携えて水辺に座っている。
釣果の発表までいつものオス2匹は少し離れた場所からそれを観察しつつ雑談をしてみたり
……まぁ要は暇を持て余しているのだ。
(余談だが、ファルカは近くで釣りを見学するつもりでいたのに初めて見た狩猟用の装いを大真面目に褒めたくったせいかいたたまれなくなったフリンズに離れた場所で待機を言い渡されている)
静かな声音と佇まいから第一には孤高のような印象を受けるフリンズだが、時折こうして妙な事を言い出すし、趣味の古銭や宝石の話となると大分早口になって通訳のイルーガの口も回らず大変になる日もあった。一目惚れだったファルカだがそんな彼女を知るほどたまらなく可愛らしく愛おしく思える。
諦めるどころか、日々想いが強くなっていく。
「
……ファルカさんは
……良くここに通いますね
……」
隣でイルーガが口を開いた。彼との他愛のない会話は
……まぁ顔を合わせる都合上しない事はないが、大抵はイルーガが通訳をする形での対面であるため二人きりで話すことはほとんど無かった。
フリンズは彼と仲がいい。
……それは当然群れの仲間でもあるし、彼女らの事情であれば最年少であるイルーガを特に気にかけているのは良く理解している
……いるのだが、やはり他のオスと己の知らない言葉で話しているのを見ると少々妬けるものだ。
「彼女が首を縦に振ることはないと思いますけど
……」
ため息混じりの言葉に含まれているのが呆れか諦めかは
……まぁ、恐らく両方だろう。ファルカはそんなただ1人のぼやきとも取れるそれを聞き、眉を下げているイルーガにわざとニヤリと挑発するような顔をして見せた。
「
……若い癖に物分りが良すぎやしないか?お前だってフリンズに惚れてるんだろ?」
タイミング悪く水筒の水を飲もうとしたイルーガが盛大に噎せる。なんでそれを、と微かに赤くなった頬は正解を示していて、その素直さは確かに構いたくもなると何だか可笑しい。
「ここの狼達の中で、お前だけはず〜っと俺の事警戒してるからなぁ」
連日ファルカが通いつめたせいと言うべきかおかげと言うべきか、ここの狼達は最初こそ警戒していたもののフリンズとの交流を重ねるうちに、側近とも言えるニキータですら来訪者がファルカだと分かるやいなや「なんだまたお前か」といった表情で踵を返す。
友人とまでは行かないが、害のない顔見知り程度の認識はされていた。
そんな“周知された害のない男”のファルカに対し
……流石に常時そうしている訳でないとはいえ、フリンズを口説くファルカの行動を気にかけ耳をぴんと立てあからさまに警戒するのは、夜明かしの墓に住む同胞の中ではこの少年くらいのものである。
「で、どうなんだ?」
ファルカの質問に、口を開こうとしては閉じる、長い長い沈黙があった。
「
…………僕は
……彼女がまとめる群れの中の1匹ですから、彼女が望まない事は出来ません」
「
……お前さんがそうやってアプローチしないなら、別に俺がフリンズを狙い続けても構わないだろうに?」
「それは嫌です
……!嫌ですけど
……!」
「ははっ、若いな〜」
発破をかけたところでファルカに利点は無い。だが少年はフリンズにとってかけがえのない存在なのだ。彼が抑圧された状態でどうこうなるのは少々気持ちが悪い。
ファルカの夜明かしの墓通いは続く。
イルーガとも打ち解けては来たがフリンズに触れ合おうとした時など正直な耳と尻尾が動いてピアスがちらちらと揺れるのが少し面白かったり。最初はファルカ側から身体的に触れる事はなかったが、フリンズはファルカが手に触れようが肩に触れようがそれを拒まない。
……一度不敬を承知で手の甲に口付た日があったが、その時はフリンズも(勿論イルーガも)大変良い反応を示してくれた。
……しばらくイルーガの後ろから出てきてくれなくなったが。
ファルカは自身の事も良く話した。彼女を知りたい、己を知って欲しい。国のこと、ルピカの事。フリンズはそれらをいつも笑顔で聞いてくれた。
彼女からの好意を感じはするが、好きだと告げても少し眉を下げて首を振るだけで、また呪いの話をしてそれを遮る。
「
……フリンズ
……俺は子供がいらんとは言わないが
……群れのリーダーを血筋だけで決める必要はないと思うからな。
……勘違いしてる奴もいるが、俺だってそんな大層なもんじゃないんだ。うちの群れは群れで上手くやるさ。だから、」
「
……αλυτος,ον αν
……αἰών,ῶνος,ο
……」
──ファルカ目線、フリンズには酷く負い目があるように思える。
子を産めぬからだけではない、呪いを解けずただ見届けるしか出来ない自分への負い目。
『
……彼女は
……今でも呪いを解く方法を探しているんです』
以前、イルーガがそう零していたのを思い出した。
ずっと、そんな膠着状態が続いていたある日
……ピラミダ付近に住む同胞が襲撃されたとの報告があった。
……このナドクライという土地で、魂を導く狼を好んで狩る者は少ない。
だが外から来た人間はどうだろう。
数百年かけながら数を減らしていった狼。その希少になった獣たちの牙を、毛皮を、瞳を、欲しがる者は確実に存在する。
それが発覚した後、フリンズは率先してナドクライを駆け回り、狙われた同胞を人里離れた巣穴や夜明かしの墓へと連れていった。
密猟者達は銃を持ち、罠を仕掛ける。人の姿を取れないただの狼達は賢くとも反撃する手立ては少なかった。
「
……καταλαβεῖν αὐτῶν αὐξανομένην τὴν δύναμιν, 」
「
……そうですね、これ以上家族を失う訳には行きません」
「俺にも何か手伝えないか?密猟者を追っ払うくらいなら、」
«異国の地で不要なトラブルに巻き込まれる必要はありません。あなたにはあなたの群れがあります。
……大切な家族が
……ルピカがいると。あなたが僕に言ったんですよ»
あなたは友人ではあるが群れの一員ではない。家族ではない。
……あなたの家族はモンドにいるのだから。
初めてとも言える明確な拒絶。
……ファルカはただ灯台の下で駆ける狼達を見送った。
──時にこの呪いの上限はどこまであるのだろうか。種を絶やすための呪い。それは何百年もかけて一族に広がり染み込み今悲願を達成する目前である。だがこれから先、長命の人狼達はいつ死に絶えるだろう。もう100年、200年、あるいはもっと永く。
……根源となったあの魔物は、その不確かな未来を待つ気があるだろうか?
その呪いは狼が減れば弱くなるのだろうか?
むしろ早くその最期を見届けるため、光を増すのではないだろうか?
密猟者達は言った。
「俺たちは何も
……ただ向こうが急に襲ってきたんだ!気が立っていたのかもしれないが
……」
「俺もこの前襲われて命からがら逃げて来たんだ!」
口裏を合わせたその主張を、人々は最初こそ呆れた様子で聞いていた。だがそれを、この地に染み付いた呪いが悪意へと変え伝播していく。あの狼達は人を襲うのではないか?我々に害をなす存在なのではないか?
──その狼達のボスは誰だ?
ナドクライを駆け回りながらフリンズは気付く。人の畏れに、殺意に。
その剣はやがて我々に突き立てられると。
「
……イルーガ
……僕たちを蝕む呪いは
……恐らく長い時間をかけて関わった街の人々の精神を蝕んで居ます」
2人きりの食卓で、ある日の女王は目を伏せた。
「
……あなた達は
……もし何かあった際はファルカさんと共にモンドへ行ってください。
……残念ながら、どうにも彼らとの衝突は避けられ無い様です」
グラスに入った酒を回す。煌々と光るランプがその液体に艶を出している。酒を好んで飲む彼女だが、それでも今日はどうにも進みが悪い。彼女から見て取れる諦めが心臓にちくりと針を刺した。イルーガはナイフを置いて、背筋を伸ばす。
「
……フリンズさんは
……女王さまはどうするんですか
……?」
「
……実はこの呪いを解くに当たって、少し考えた事があります」
それは少年が聞きたくない言葉だった。
「
……元はと言えば蒼炎の一族を呪ったのが始まり。僕が
……蒼炎の一族が死に絶えれば、自ずと呪いは消えるのではないかと」
「
……いけません」
「
……一時的にでも争いが収まり、呪いが消える可能性もある。
……やる理由としては十分だとは思いませんか?」
「──ダメです!女王さまは僕たちの主
……居なくなったら
……群れはどうするんですか
……!」
── 死ぬと言うのだ。
彼女は独りで、誰にも導かれずに。
くしゅりと顔が歪む。僕たちの唯一無二の女王。初恋の人。失って良い訳がない。
……失いたくはない。
しかし今のイルーガには意志を強く固めた彼女を止めるための力は何も無かった。
……悔しい。俯くイルーガを見て、フリンズはベッドに腰掛ける。
「
……イルーガ
……ここへ」
ぽす、と自分の隣を叩く。素直に腰掛けたイルーガをその大きな外套に収め、抱きしめた。
「
……勝手な申し出だと自覚はあります。
……怒っていますよね
……?」
「
……当たり前です。
……僕たちのために命を差し出すなんて
……」
「
……こうでもしないと終わらないと思ったんです。
……どうかあなた達は輝きの中で生きて、そして穏やかに死んでください。
……そうしたらまた、お墓の中で会いましょう?」
愛していますよ、イルーガ。
ずるい人だ。その言葉は今、僕に言うことを聞かせるために使われている。愛しているならやめてくれと願っても、自分はそれでも首を横に振る癖に。
腹が立つ。子供のように宥められるだけの自分に。
強く強く、フリンズを抱きしめ返す。呼吸音が、心臓の音が耳を擽る。
……彼女はまだ生きている。
「ファルカさんが来たらお話しましょうか。
……あなたも居てくれますか?」
「
……彼も絶対に反対すると思いますよ」
……それは困りましたね。どこか寂しさを孕んだその声に涙が出そうになる。
「
……愛してると言ってくれたのはフリンズさんですから。
……不敬だなんて言わないでくださいね」
女王への口付けは指先ではなく唇へ。初めてだから、上手くは出来ていないと思う。しかしフリンズは拒絶する事なく、イルーガの髪を撫でるだけだ。それはどちらへの慰めだったのだろう。
タイミング良く、ファルカが現れたのは翌日だった。
初めて入る番(希望)の部屋だ。つい瞳がきょろきょろと動き回る。
……しかし落ち着かない。ここは彼女個人の部屋だと言うが、それにしたって彼
…………イルーガのにおいがちょっと強すぎやしないか。
大きな尻尾がそわそわと揺れて腰掛けた椅子を撫で回す。これでイルーガと番になりましたなどと言われたら倒れてしまうかもしれない。
「ファルカさん」
テーブルに温かなお茶。湯気の向こうに腰掛けたフリンズがファルカの名前を呼ぶ。普段は妖精語でも名前くらいなら聞き取れているがまたそれとは違うテイワットの言葉。
「お願いがあります」
「
……それを聞き入れる訳には行かない」
予想通り、ファルカの答えはノーだった。
イルーガと同じだ。彼もフリンズを失いたくない者の一人で、自分は死ぬから後は仲間達をよろしくなんて、素直に聞き入れられる訳もない。
ファルカも最近の街の異常さには気付いて居た。
狼への畏れ、今まで見なかった悪い感情を人々から感じている。
……だが不思議とその負の感情が同じ人狼であるファルカに向けられたことは一度たりとも無かったのだ。
いつも通りの挨拶、会話、食事
……しかしその隣であの狼達をどうするか、など時に聞くに耐えない話が当たり前に聞こえてくる。
おかしくないのは子供たち位のもので、ざわざわと嫌な気配がずっとファルカにまとわりついていた。
「
……そんな事しなくても俺とモンドに来ればいい。ほとぼりが冷めるまで俺たちと一緒に、」
「その申し出は有難いですが
……やはり僕は行けません。
……行き場を失ったこの呪いが、僕たちに
……周囲にどんな影響を与えるかわかりませんから」
過去同胞がこの土地を離れることもしたが、それでも無理だった。他国で恋をして交わっても子が出来る事はほぼなかった。
「
……フリンズさん
……やっぱり
……」
「いいえ」
少年の言葉を遮る声は静かだが力強い。
「
……イルーガ
……ファルカさん
……もう終わりにしましょう。
……終わりにさせてください」
己を引き留めようとする2人に、案に疲れたのだと告げる。
死者の魂を導くのは生涯の使命と言っていい。だが番との子孫も残せず後悔のまま死んでいく同胞を看取り続けるのは辛い。
……否、それ以上に愛する2人が
……己を愛してくれる2人が
……自分に囚われ続けるのは耐えきれない。
「
……ありがとうございます」
僅かな沈黙をフリンズは肯定とした。彼らは不満を隠すことはしなかったが、彼女の身の上を考えた上で強く否定はしない。
……自分が出来ないように言ったから。
「
……では少しこの先の話をしましょう。僕一人で事が治まるのならいいのですが
……」
その後予定を擦り合わせた結果、狼達は一時的に厄影の沼地に身を寄せる事になった。
「彼らがいつ僕を攻撃するのかはわかりません。日が暮れ次第移動をしましょうか」
すっかりぬるくなったお茶を飲み干す。とりあえず狼達には事前に伝えるだけ伝えようかと席を立ったが、部屋から出ることは叶わなかった。
ファルカにその腕を引かれたためだ。
「
……ファルカさん?」
「
……少しくらいこうさせてくれ。まだ日没までには時間があるだろう?」
人の膝の上に座るのはいつぶりだろうか。小さく唸り声と共にファルカの頭が首筋に埋まってくすぐったい。その跳ねた金髪を撫でてみると、今度は蒼天の様な青がじっとフリンズを見つめていた。
「
……何となくそんな気はしてたが
……普通に喋れたんだな」
「
……ご不便をおかけしてすみませんでした。ですが消えゆく同胞達の記録
……矜恃
……その一部を、僕が引き継がなければと思いまして」
ファルカが微笑む。彼のこの慈しむ様な表情は
……嫌いでは無いが、正直まだ慣れない。子も産めぬ女(メス)にそこまで執着する必要もないとは思うが
……これは口に出すと2人が怒るのであまり口には出さないようにしている。本当にファルカもイルーガも、ほとほと諦めが悪い男(オス)だ。だからこうして絆されているのだが。
「
…………やっぱりお前さんはいい女だな」
「おや、僕の身にはあり余るお言葉でよ」
額をつけて笑い合う。頬を撫でられて、蒼が近付いて、消えた。
「
……ん、」
「──ファルカさん!?」
口付けられている。と、気付いたのは数秒遅れての事だ。
不快感は無い。昨晩イルーガに触れられた時の様に、気持ちがふわふわとしてむしろ心地が良かった。
深くは無いが、角度を変えて何度も、何度も。
「
…………いや、長くないですか!?」
顔を真っ赤にしながら尻尾の毛をぶわぶわと膨らませたイルーガがファルカの肩を引く。ちぇ、と子供のように唇を尖らせたファルカは渋々と言った様子で唇を離したが、腕の拘束は解く気が無いらしくがっちりとフリンズの腰に回されていた。
「離してください!」
「フリンズが嫌がってないんだからいいだろ」
「そういう問題じゃなく
……不敬じゃないですか
……!?」
「俺は部外者だからなぁ、不敬とかあんまり関係無いと思うぞ」
「妙な理屈を捏ねるのはやめてください!」
「
……ふふっ」
今日も愛しい男たちは仲が良くて何よりだ。手招きでイルーガを呼んで、そちらにはフリンズから一度口付けをしてやると今度はファルカが何か妙な鳴き声を上げた。
……狼は一夫一妻が基本である。それでもフリンズはこの2人どちらにも気持ちが傾いてしまっていたので、それでもいいなら受け入れてみろという挑戦的な考えでどっちつかず
……改めどっちもという我儘を通そうとしていた。それに、これで愛想を尽かされるのならそれはそれで都合がいい。
「
……ずるい人ですね」
「
……浮気性は捨ておいてもいいんですよ?」
「それは無いな」
「無いですね」
「
……」
あまりにも早い返答に流石にフリンズの耳も力なく倒れる。
笑っている2人に何か言い返してやろうかと思ったが、うっかりファルカとキスしてしまった事に気付き倒れた耳がまたぴんと立った。
「
……口付け程度で呪いが移ることは無いはずですが
……身体的接触は良くありませんでしたね。申し訳ありません」
再び力を失ったやわらかいもの。今日は珍しく耳の表情が豊かだ。
今の彼女はこうしてファルカの身を案じて気の抜けた姿を見せてくれる。こんな時なのに、嬉しくて顔がニヤける。
「
……ファルカさん
……?なぜ嬉しそうなんですか
……?」
「
……いや
……お前さんが思いの外俺を好いてくれてたんだと
……」
白い頬がぽっと赤くなる。しばらくそうして二人で照れているとやがて焦れたイルーガから声がかかった。
なんて幸福なんだろう。
明日なんて、そんな日なんて来なければいい。
──人々は武器をとる。狩りのために。
──武器を研ぐ。狼を狩るために。
物々しい雰囲気の大人達を、子供たちは怯えた顔で見ていた。
脚を震わせながら、桃色の髪の少女が叫ぶ。
「
……みんな、どうしちゃったの
……?
……ねぇおじさん!この前フリンズねーちんに助けて貰ったって言ってたよね?忘れちゃったの
……?」
それでもその言葉は届かない。
夜明かしの墓までの長い道のりを人々は歩く。会話は少ない。
空を泳ぐ海鳥が夜明かしの墓の上空で鳴いている。
……間もなく彼らが来る。傍らに座り込むニキータが顔を上げた。
「
……彼らを頼みます」
そっと彼の額を撫でればそうしてやっと名残惜しそうに走り出したニキータを見送って、ベンチに腰掛けた。今この島に居るのはフリンズと、その姿を離れた場所から見るイルーガとファルカの3人。
……そしてこれから来る客人達。
外套は脱いで背もたれにかけておこう。体を覆い隠す物を減らすのだ。急所が見やすいように、より刃が通りやすいように。
「
……Баю-баюшки-баю
…………Не ложися на краю
……」
波の音と風に混じる子守唄は、呪いに侵された人々にとってさぞ不気味に聞こえるだろう。
──ならば僕を畏れて欲しい。僕を殺して欲しい。
……まだ、彼らと居たかった。
「
……Придет серенький волчок
……И ухватит за бочок
……」
静かな墓地に不釣り合いな数多の足音
……もう時間が来てしまった。
蒼炎の名に反し温度を感じない瞳が民衆を射抜く。
気圧される民衆は武器を握り直すも、それを待たず
……先に奔り出したのはフリンズだった。
重たい裾を物ともせず、爪で武器を弾き炎で刃を防ぐ。なるべく傷は付けたくないが
……多少は許して貰おう。彼らには命の危機を感じて貰わないといけない。
そうでないと、上手に僕を殺せないでしょう?
「
……がっ
……」
槍がフリンズの体を貫いた。続けて2本、3本と埋め込まれる刃を避ける事はしない。ぼたぼたと口から血を吐き出して、蒼炎を使い、それ以上寄せ付けることはさせなかった。
……死ぬならば、女王らしく死のうと決めていたのだから。
突き刺さった武器を引き抜けば激痛と共に大量の血が地面に落ちる。時折手を付きながらも、緩やかな勾配をのぼる。王の墓まで歩く。
墓石の向こうにふたりが、見えた。ファルカの拳は強く握りこまれくい込んだ爪のせいで血が出ている。イルーガも、手首に爪を立て、痛々しく、可哀想に。幼い彼の怪我を治療した事を思い出す。ファルカも
……手に傷がついては満足に剣を握れないだろうに、なんて。悠長な事を考えていた。
──長い長い道を越えてやっと冷たい石の上に倒れ込む。
呼吸が血で邪魔されて苦しい。けれど痛みは最初だけで、想像したよりもずっとマシだ。ぼやけた視界に誰かの靴が映りこむ。
「
……まだ息があるのか?」
「
……人狼は丈夫だからな
……一応、やっておくか
……?」
躊躇いがちに振り下ろされたナイフは狙った場所を切り裂く事はなく、咄嗟にフリンズへ覆いかぶさったファルカの肩に深く突き刺さった。それに驚きはするが、やはりファルカへの畏れは感じない。なんて歪な呪いなんだろう。
「
……ファ、ファルカさん
……!?」
「
……もう良いだろう。
……この出血じゃ彼女はすぐに死ぬ。
……首まで落として彼女を辱める必要はない」
「
……けど
……」
イルーガもフリンズの側へ寄り添って、人々に向かって膝をついた。
「
……お願いします。
……僕たちの女王を
……大切な人を
……せめて最期に見送らせてください」
彼らは元々呪いに拐かされた存在で、本心からの悪意ではない。狼狽えながらも武器を下ろした皆に礼を述べる。帰る背中を見送る余裕は無いが、それでも少しばかり時間が出来た。それはすぐに望まぬ時間に変わってしまう。
「ファルカさん、止血を
……」
「これくらい後でいい。それより
……」
慎重にその身体を抱き上げる。貫かれた腹からはドクドクと絶え間なく鮮血が溢れて、それが数箇所とあれば
……彼女はもう助からないのは明白だ。
「
……悪いな
……本当は楽にしてやるべきなんだが
……」
「
……いえ
……あなたたち、が、看取る、のを
…………許したのは僕、です
…………痛みも
……もう、
……ない、ですから
……こほっ
……」
「フリンズさん
……」
冷たくなった手を握ると、力なく応えてくれる。血塗れで微笑む姿でも尚彼女は美しい。
「
……これで、あなたたちは
……つがい、を
……みつけ
……」
「
…………悪いがそれは聞いてやれん。
…………やっぱり俺はお前を番にする。
……死んだ後だって、俺はもう新しく番を迎える気は無い」
「
……そうですね
……。僕だって
……生涯の番はフリンズさんしか考えてないんですから
……女王陛下
……もう決めましたからね
……僕たちだって我儘を聞いたんですから
……許してくださいますよね
……?」
ぱたりとフリンズの頬に、手のひらに雨粒が落ちた。泣いて、くれているんだろうか。自分ではもう良く見えない。
「
…………ふふ
……ごほっ
……むちゃを、いい、ますね
……ぼくの
……つがいたち、は
……もう、なにをいってもむだ、ですか
……」
これから死に逝くというのに、2人を置いて逝くのに
……僕という枷を与えていいのだろうか。ああそれはなんて
……幸せな死だろう。
「あい、して、いますよ、ふたりとも」
……そこでフリンズの意識は落ちた。
──弱く脈打つ心臓の音が聞こえる。それ以外はただの暗闇だ。ひとりそこに立って、歩みだす。
これは狭間だ。音が止まった時、完全にフリンズの意識は消えて地脈へ混ざるのだろう。
蒼炎も、光もない。だが道を辿るように真っ直ぐ進む。
……何かが聞こえる。
……泣き声だ。近くまで行っても声の主は見えず、その場にあった霧の塊がただじっとりとフリンズにまとわりついただけだった。
形ないはずの掌が頬を包む。どうして、どうして、と
……それは問いかけなのか独り言なのかはフリンズには解らなかった。
叶わぬ恋をした可哀想な魔物。それを捨てる事も出来ず、愛した人を自ら殺す勇気もなく。ただ呪うしか出来なかった悲しいひと。
「
……あなたは未だに
……愛しているんですね
……永遠に終わることないその苦しみは、僕が幽世に連れて行きましょう
……」
これが最期の仕事。この魔物の魂を導き、導かれ、生を終えよう。誰に知られずとも良い。
……いや
……違う
……彼らは
……大事な番達は、きっと気付いてくれるだろう。
「
……あなたのその心を
……これ以上苦しめる必要は無いですよ。
……僕が共に逝きます
……もうあなたを独りにはしませんから」
フリンズの思いに応えるようにいつの間にかランプが手に収まっていた。微かに蒼く揺らぐそれを霧の中に掲げる。じっとりとした霧は彷徨った後にあと少しずつ、全て中に吸い込まれていく。
『
……あたた、かい』
意に反してランプが浮き上がった。色は蒼から白へ、強く強く暗闇を照らす。それはやがて灯台の様に光り輝き道を示した。眩しさに耐えられず目を閉じる。黒い世界にぽつんと立っていただけのフリンズの意識は、それと同時にぐんと上に引っ張られた。
──女王の意識は落ち、極々僅かな呼吸と心音だけがまだ残っている。
王を番としその玉体に触れ彼女を見送る栄誉。最期の呼吸、鼓動、そのどちらも聞き逃すまいと2人は静かにその身に寄り添った。
もう1度
……せめてもう1度
……あともう1度だけ
…………頼む、まだ止まってくれるな。
小さくなっていく灯火に縋り付く。
不意に
……その微かな火に空気を送るように、すぅ、と風の音がする。
……違う、これは呼吸だ。
ファルカのものでも、イルーガのものでもない。ならばこれは、
「
…………?
……こほっ
……」
「
……!
……フリンズ
……?」
閉じられたはずの瞼は再び重々しくも持ち上がり、弱々しくも芯の強い月の色が、2人を見ている。
乾きかけた口元の血をファルカが拭った。乱れた髪を整えるイルーガも、未だ信じられないという表情でフリンズが息を吹き返した事を飲み込めずにいる。
フリンズが口を開くが、喉に溜まった血に阻まれてそれは叶わなかった。噎せる彼女の背を撫でながら、段々と愛しい人が生きている事を理解していく。
……生きている
……彼女は、今
……生きている。
「
……あ
……」
「これは
……」
3人の瞳が光を映した。灯台の明かりが空を、雲を裂く。常に薄暗い夜明かし墓の空は蒼く澄み、光芒が降り注いだ。それだけじゃない。どこからか響く鐘の音も、雪も
……いや、これは花弁
……フロストランプの花弁が光と共にどんどん降り積もっていた。ふるりとフリンズの耳が震え、引っかかった花弁を落とす。
幻でも見ているのかと思う。しかし鐘が遠ざかると同時に再び夜明かしの墓に夜が訪れようと、冷たい花の香りと色彩は消える事なく周囲を彩っていた。
「
……!
……フリンズさん
……傷は
……」
現実離れした光景にしばらく呆けていたが、はっと意識を戻した。イルーガが慌てて積もった花弁を掻き分けて傷口を見る。そこには痕こそ残れど
……傷は完全に塞がっていた。ファルカも己の肩を撫でてみる。そこにあるのはやはり傷跡の凹凸のみで、血が出ている気配も、痛みもない。イルーガは自分の心臓の部分に触れた。脈打つそれが、なんだか酷く軽く感じる。
……呪いが消えた、と彼は何故だか確信できた。
「
……ははっ
……なんだこりゃ
……出来すぎた演出だな
……」
「
……出来すぎだって
……奇跡だっていいです
…………フリンズさんが生きているなら
……」
「
……だな
……」
「
……どうやら
……僕は無事に
……魂を導けた、みたい
……ですね
……」
また軽く咳き込んで、やっと声を出せるようになったフリンズが掠れた声で言う。胸の前で組んだ手は微かに震えて居たが、すぐに2人の温かな手のひらに包まれた。
「
……おかえり、フリンズ」
「
……おかえりなさい」
「
…………ええ
…………ただいま
……」
僕の、愛しいつがいたち。
死は第二の生に、恋は愛に
…………呪いは祝いに。
おわり
抱きしめ合う3人の耳にどたばたと足音が聞こえる。
イルーガとファルカは警戒して耳を立てるが、墓まで戻ってきた人々が武器を持って居ないのはすぐに解った。誰かは顔を青くして、あるいは酷く怯えた顔で
……呪いが消え去った彼らはなぜこんな恐ろしいことをしてしまったのか解らず困惑していた。
2人の手を借りて身体を起こしたフリンズがもう心配はいらないと手を振ってやれば、心の底から安堵し脱力する。
「
……さて
……代償に何を頂きましょうか
……」
なんて冗談で脅えさせた事を、貫かれた痛みと傷跡の代金としよう。
イメソン(これを聞いて急に狂いだした大元)→
子守唄→