幸希(ユキ)
2026-06-03 00:18:43
3961文字
Public
 

むつの日 2026

ギリギリ過ぎて間に合ってすらいない。でも愛は込めたつもり!!
むっちゃんいつもありがとう!大好き!愛してるよ!!

「あれ、福みっつーそれ

ある日通りかかった福島光忠の温室。いつもはチラ見していくだけなんだけど、この日はあるものが視線を奪った。

「あぁ、これかい?ライラックだよ。」
「すごい久しぶりに見た。」
「見た事があるのかい?」

聞かれて甦る遠い記憶。

「子どもの頃……というか、私が生まれた時、住んでたその土地から花が贈られるっていう習わしがあってさ。私の時はライラックだったの。実家に植えてあったんだけど、気候が合わなくて枯れちゃったんだ。」
「それは残念だったね。」
「1回だけ咲いたのを見た事があったんだけど、薄紫色の綺麗な色してた。こんな感じのね。」

生まれた時の記念花だと思ってるから、思い入れも強い。

「あれ、でもライラックって時期もう終わり頃じゃない?まだ咲いてないやつあるけど。」
「あぁ、今回植え付けが遅くなってしまってね。開花時期が遅れたんだ。」
「あーそういう。」
「でも無事に咲いてよかったよ。遅れたせいで開花しなかったらどうしようかと思ったからね。」
「花木の管理というか植物全般難しいよね。」

花を育てるよりドライフラワーを生成する方が早い私からしたら、育てて維持が出来る時点ですごい。切り花すら枯らす私よ

「(そういえば)ねぇ福みっつー。」
「なんだい?」
「ライラックって花言葉なんだっけ。」
「花言葉かい?【愛の芽生え】、【思い出】だよ。」
………。」
「主?」
「福みっつー、お願いしたい事がある。手伝って欲しい。」
「何を?」

首を傾げる福みっつー。ヒソヒソと耳元で内容を明かせば、優しく、そしていたずらに笑った。

「そういう事なら。じゃあ、とびきりのを用意しないとね。」



……とかなんとかやってたくせに、肝心な日付けをすっかり失念していた。選定は終わってたから良かったものの、日付変わる前に作れるか

「本当ごめん福みっつー。土台と長さの調整やってくれてありがとう!」
「構わないさ。こっちが固定用のフローラルテープだよ。」
「重ね重ねありがとう。」

作り方を聞いて、思い描く配置と同じになるように土台に花を個体していく。
選んだ花は、スターチス、かすみ草、バラ、ダリア、そしてライラック。

「あ、やばいスターチスとかすみ草絡まった!」
「そこはバラを挟んでワンクッション置こうか。」
「あーー待って待ってライラック同士も絡んでる!」
「主、落ち着いてくれ!焦るのは分かるけど!」

なんせ花弁が細かいものが多い。下手な扱いをすると萼ごと取れてしまう。かすみ草なんか耐久性無きに等しいから、ちょっと揺すっただけでぽろぽろ落ちる。って言ったそばから落ちてるのある!!

「完成する前にぼろぼろになりそう。」
「慌てずにやれば大丈夫。そういえば陸奥守の足止めは今回誰がやってるんだい?」
「粟田口が総出で止めてくれてる。前田とかみだちゃんとか口が回るし、明日の台風の関係で桑名が相談あるって話しかけに行ってたから、多分しばらく大丈夫なはず。」

6月2日。語呂合わせでむつの日。つまりはむっちゃんの日。うちの本丸で初期刀としていつもみんなをまとめてくれる頼もしい存在。そして、私の一等愛しい、大事な旦那さん。好意は常日頃から伝えてるけど、感謝とかになるとあんまり伝えられてないような気がする。

(だからもっと余裕もってサプライズしたかったんだけどな!!)

準備までは良かったのに、本当詰めが甘い。「大将の油断ポイントだから気を付けろよ」と厚に言われるのも分かる。げにまっことその通り。自分のやらかしに頭を抱えたいけど、そんな暇はない。

「巻きつけるの難しい。」
「ライラックの枝はあんまりしならないからね。」
「ペキッて折りそうで怖い。」

折るなんて単語がもう不吉に聞こえる。力加減を誤りそうで指先が震える。

「少し短くしようか。そしたら土台に添うようになるはずだよ。」
「うん。間に合うかなぁいや間に合わせるけど。」
「きっと間に合うさ。大丈夫。こっちにダリアを置こうか。」
(ここで色味変えてパッと目の引く色に……いやでもグラデーションみたいにしたらそっちの方がバランス取りやすい?ライラックがメインだから主張しすぎてもいけないし。)

徐々に口数が減る。つけ直しなんて事は出来ないから、決めたらもう一発勝負同然だ。やりすぎると花が傷んでしまう。それに時間をかけすぎると先につけた花が萎れてしまう。時間との勝負だ。

「ハァ

詰めていた息を吐くと、落ち着かせるように肩を叩かれた。

「落ち着いて。」
「うん。」

ようやく半分まできた。残り半分。時計をチラリと見れば、日付が変わるまであと2時間。

「あと少し。」
「バラとダリアは使ってもあと1つずつにしよう。ライラックが負けてしまうから。」
「分かった。」

作りながら、どうやって渡すかを考える。

(サプライズだけど、時間が時間だからもったいぶらずに「いつもありがとう」だけ言って渡す?でもそれだとなんかやだな。一昨年の時よくバラ11本渡したな私。あの時はどうやって渡したんだっけ。「いつもありがとう!大好きだよ!」って渡した気がする。ならそれとは変えた方がいい?でも遠回しに伝えても意味ないしな。)

日頃の感謝は絶対。勢い任せなら多分好意も口にすると思う。じゃあそれをどう言葉として伝えるか。シンプル・イズ・ベストとは言うけど、ひねりが欲しくなる。

(……でも)

何がしたいかって、むっちゃんにありがとうが言いたい。喜んで欲しい。笑って欲しい。つまるところそれなのだ。

「だったら、シンプルでいいか。」
「ん?何がだい?」
「んーん、こっちの話。これで最後!」

残ったスペースにライラックを入れて仕上げる。

「花冠出来た!可愛い!」
「何とか日付が変わる前に作り終わったね。」
「本当にありがと福みっつー!無茶言ってごめんよ。」
「いいよいいよ。陸奥守が喜んでくれるといいね。」
「さみさん外にいるよね!?冠作り終わったって粟田口に伝令してきて!」
「承知しました。」
「いたのかい!?」

驚く福みっつーを横目にさみさんが大広間の方へ屋根づたいに走っていくのが闇夜でも見えた。ああやって移動してるのか。謎が1つ解けた。

「じゃあ私も行ってくる。遅くまでありがとう。ゆっくり休んでね。」
「主も。うまくいくよう祈ってるよ。」

温室を出て舞台廊下へ向かう。向かう道すがら端末で景趣を弄る。波がさざめくように、百合に設定していたのが弄った景趣に変わっていく。

「やるなら徹底的に、だ。」

この際じわじわきてる照れや恥ずかしさはガン無視だ。いちいち照れてたら言えたもんじゃない。というか、普段冷静であれば顔を覆うレベルで恥ずかしくなるような事を平気で言っているんだから、ぶっちゃけ今さらだ。

「やましい事言うわけじゃないしね!照れるようなもんでもなし!」

それでもどこか残る気恥ずかしさを振り払うように呟きながら足を進める。
目的地に辿り着けば、もう既にむっちゃんが来ていた。

「おぉ、主。用事は済んだなが?」
「うん。むっちゃんは?桑名が相談あるって言ってたけど。」
「万事解決済みじゃ。桑名も熱心ながはええんじゃが、天候相手に過敏になりすぎじゃ。気持ちは分からんでもないがの。」
「もう大地番長って創った方がいい気がしてるよ最近。」
「何じゃそれは。」

おかしそうな笑顔が、柔らかく緩んでこちらを見る。

「ほんで?わざわざ粟田口や桑名、五月雨に協力させてまで何をしとったが?」
「んー……それ言う前にさ、ちょっと屈んでくれる?」
「ん?こうかえ。」
「もうちょい下。というか膝ついてくれると嬉しいかな。」

言われた通り跪坐のように膝をついて屈んでくれるむっちゃん。

「これでえいがか?」
「うん。むっちゃん。」
「何じゃ?」
「毎日、本丸の事考えて、いっぱい動いてくれて、みんなを支えてくれてありがとう。むっちゃんのお陰で今がある。」
……。」
「周りを思って、寄り添ったり、鼓舞したり、時には叱咤したり、厳しいところもあるけど優しいむっちゃんが、私は大好きだし、すごく誇りに思う。いつもいつもありがとう。これからもよろしくね。」

パサ、とむっちゃんの髪を彩る薄紫。

「これは。」
「福みっつーと一緒に作ったライラックの花冠。難しくて時間かかっちゃった。」
………。」
「むっちゃん?」

パッと顔を逸らして口許を手で覆うむっちゃん。

「改まって言われると……ちっくと照れるにゃあ。」

薄明かりの中で見えにくかったけど、むっちゃんの耳は赤く染まっていた。

(可愛い!)
ちゅうことは、今の景趣も?」
「あ、気付いた?」
………愛慕か?貴方だけ見つめる?」
「ぶぶー。どっちも違う。」
「まだあったかのう?」

新しく設定された景趣は向日葵。その花の意味。

「【情熱】、だよ。」
「情熱。」
「未来を見るむっちゃんに、みんな支えられてる。その情熱に引っ張られてる。だからここまで走ってこれたの。」
「おまさん。」
「むっちゃん、愛してるよ。たくさんたくさん、ありがとう。」



まだまだ長い道の途中。つまづく事もあると思う。間違える事もあると思う。それでも、これから先もあなたと進めたら。前へ歩いていけたら。それが出来る日々が続く事を祈りながら。



あなたが照らす道とあなた自身に、幸多からんことを。そして、この先もあなたがたくさん笑えますように。